第92話:ガルム・クラッシュ!
ガルクラ編第一部、ここに完結。
……の予定じゃなかったんですけどね(笑)
本当は結成から文化祭まで数話で駆け抜ける予定でした。
気付いたら逢沢が喋り出し、東雲が暴れ出し、千沙都が出てきて、月が生えてきて、文化祭まで行っていました。
作者もびっくりです。
そんなわけで、ガルム・クラッシュ第一部「文化祭編」はここで一区切り。
次回からは久しぶりに現代へ戻ります。
俺くん。
上司。
皮肉屋SE。
限界ヲタクSL。
新人達。
そして相変わらず騒がしい日常。
ガルクラ第二部は、またいつか。
文化祭の熱が冷めないうちに戻って来られたらいいなと思います。
体育館前は、妙な熱気に包まれていた。
軽音部ステージ。
本来なら、在校生バンドが順番に演奏するだけの、よくある文化祭イベントである。
だが今年は違った。
理由は一つ。
ガルム・クラッシュ。
正体不明の一年生三人組が、文化祭前から妙な噂を撒き散らしていた。
白い衣装。
謎のユニット名。
壺。
女子生徒心理分析。
生徒会予算会議乱入。
そして。
「モテるためにアイドルになるらしい」
という、堂々としすぎて逆に潔い目的。
噂にならない方がおかしかった。
「なんか凄い人だね」
太陽が呟く。
「でしょ?」
和叶は何故か得意げだった。
「紫苑兄、こういう時だけは人を集めるの上手いんだよね」
「こういう時だけ?」
「こういう時だけ」
即答。
太陽は苦笑した。
その少し後ろ。
人混みに紛れて、高見沢月が扇子を握りしめていた。
「な、何故ですの……」
「お嬢様?」
「何故あの方は、太陽様とあんな自然に手を……!」
「幼なじみですからでは?」
「シャラップですわ!」
付き人は、もう何も言わないことにした。
その時。
体育館の照明が、ふっと落ちた。
ざわめきが広がる。
ステージ袖。
白い衣装を着た三人が立っていた。
逢沢航は、無言で深呼吸した。
「なぁ紫苑」
「なんだ」
「本当に壺割るの?」
「割る」
「最後の確認くらい迷えよ」
東雲希望は、カメラを首から下げたまま、目を輝かせている。
「いやでも逢沢、これは演出としてアリだよ。最初の三秒で空気を支配するって紫苑の理論、割と正しい」
「お前まで染まるな」
紫苑は白い衣装の襟を整える。
その顔は、いつもの馬鹿騒ぎとは少し違った。
「……行くぞ」
逢沢と東雲が、紫苑を見る。
「俺達は今日」
紫苑は笑った。
「堂条学園の歴史に、黒歴史として名を刻む!」
「そこは伝説って言え」
逢沢が即座にツッコむ。
東雲は肩を震わせて笑った。
「ははっ……でも、悪くないね」
「だろ?」
紫苑は前を見た。
幕の向こう。
ざわめく観客。
その中に、和叶がいる。
太陽がいる。
生徒会もいる。
軽音部の先輩達もいる。
そして多分。
どこかに、あの人を知る誰かもいる。
「よし」
紫苑は壺を抱えた。
「ガルム・クラッシュ、出るぞ!」
---
幕が上がった。
一瞬、観客が静まる。
白い衣装の三人。
中央に紫苑。
右に逢沢。
左に東雲。
そして、中央には壺。
「壺?」
誰かが呟いた。
次の瞬間。
紫苑が高らかに叫ぶ。
「呼ばれてないのに飛び出て――」
逢沢が小声で言う。
「本当にやるのかよ……」
東雲が続けた。
「ジャジャジャジャーン!」
ドン!!!
壺が割れた。
正確には、紫苑が割った。
逢沢が割る予定だったが、本番直前で全力拒否したため、結局紫苑が割った。
体育館中が静まり返る。
その沈黙は、たぶん一秒にも満たなかった。
だが、紫苑には十分だった。
「堂条学園の諸君!」
ビシィッ!!!
「青春してるかぁぁぁぁ!!!」
歓声ではなく。
最初に起きたのは、笑いだった。
ざわめき。
爆笑。
悲鳴。
「何あれ!?」
「壺割った!」
「誰!?」
「ガルムなんとか!」
「やばっ!」
その瞬間。
紫苑は勝利を確信した。
掴んだ。
空気を。
「一曲目!」
紫苑がマイクを握る。
「俺達の初陣にして、最後かもしれない曲!」
逢沢が横から呟く。
「最後にするな」
東雲が笑う。
「でも初陣なのは合ってる」
紫苑は叫んだ。
「聞け!」
ドン!!!
「Girls Meets Crash!」
ギターが鳴った。
ドラムが走った。
音は荒かった。
正直、上手いとは言えない。
だが、熱量だけはあった。
白い衣装が照明を反射する。
逢沢は悔しいくらい絵になっていた。
東雲は動きが妙にオタク臭いのに、笑顔だけは本気だった。
そして紫苑は。
下手だった。
歌も。
ダンスも。
全部、勢い任せだった。
なのに。
目が離せなかった。
「……兄さん」
太陽が呟く。
和叶は笑っていた。
「ね? 馬鹿でしょ?」
「うん」
太陽も笑う。
「でも、楽しそうだ」
「でしょ?」
和叶は少しだけ誇らしげに言った。
「紫苑兄はね、馬鹿だけど、こういう時は凄いんだよ」
少し離れた場所で、月が扇子を握りしめていた。
「な、なんですのあれ……」
「お嬢様?」
「馬鹿ですわ」
「はい」
「どうしようもなく馬鹿ですわ」
「はい」
月はステージを見つめる。
太陽が笑っている。
和叶も笑っている。
観客も笑っている。
そして。
その中心で、白い衣装の三人が、全力で馬鹿をやっている。
「……でも」
月は小さく呟いた。
「少しだけ、羨ましいですわね」
「お嬢様?」
「何でもありませんわ!」
扇子が開く。
「オホホホホ!」
付き人は、やっぱり何も言わないことにした。
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生徒会席。
結城萱草は、胃のあたりを押さえていた。
「壺を割ったな……」
堂条千沙都は無言で頷く。
「割りましたね」
「許可してないぞ」
「申請書にもありませんでした」
「だろうな」
萱草は深いため息を吐く。
だが。
観客は沸いていた。
混乱と笑いと熱気が混ざり、体育館全体が妙な一体感に包まれている。
悔しいが。
非常に悔しいが。
成功している。
「……無駄に成立させるんだよな、あいつ」
萱草が呟く。
千沙都は、ステージを見ていた。
白い衣装。
眩しい照明。
その中に、かつての純恋の影を見る。
いや。
違う。
あれは純恋ではない。
ただの馬鹿な男子高校生三人組だ。
それでも。
夢を笑うなと言った、紫苑の声を思い出す。
「……腹立ちますね」
「何が?」
「楽しそうで」
萱草は少しだけ笑った。
「だろう?」
千沙都は何も答えなかった。
ただ、誰にも見られないように、小さく拍手した。
---
曲が終わる。
一瞬の沈黙。
そして。
体育館が沸いた。
歓声。
拍手。
笑い声。
口笛。
誰かが叫ぶ。
「ガルムー!」
また誰かが叫ぶ。
「クラッシュー!」
東雲が泣きそうな顔で笑っている。
逢沢は、信じられないものを見る顔をしていた。
そして紫苑は、マイクを握ったまま固まっていた。
「……」
「おい紫苑」
逢沢が小声で呼ぶ。
「紫苑?」
東雲も覗き込む。
紫苑はゆっくり顔を上げた。
そして。
「……気持ちいい」
最悪の一言を漏らした。
逢沢が即座に頭を抱える。
「うわ、目覚めた」
東雲は肩を震わせる。
「駄目だ。これは駄目な快感覚えた顔だ」
紫苑は笑った。
今までで一番、危険な顔だった。
「お前ら」
「何」
「次はもっと沸かせるぞ」
逢沢は天を仰いだ。
「終わった……」
東雲は笑った。
「いや、始まったんじゃない?」
紫苑はマイクを掲げる。
「ガルム・クラッシュ!」
観客が応える。
「ガルム・クラッシュ!」
紫苑は叫んだ。
「俺達の青春は――」
ドン!!!
「まだ始まったばかりだ!!!」
体育館が沸いた。
後に。
このステージは、堂条学園文化祭史に残る珍事件として語られることになる。
壺を割った一年生。
白い衣装の三人組。
意味の分からないMC。
妙に耳に残る曲。
そして。
観客を笑わせ、巻き込み、最後には本当に沸かせてしまった馬鹿達。
それが。
ガルム・クラッシュの始まりだった。
なお。
後日、生徒会室に呼び出された俺達が、壺破損および無許可演出について萱草兄貴と千沙都副会長にみっちり説教された事は、言うまでもない。
その時の兄貴の第一声は、こうだった。
「お前のような弟はいない」
うん。
まあ。
さもありなん。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
正直に言います。
この編、想定の二倍以上伸びました(笑)
当初は、
ガルクラ結成
↓
地下アイドル
↓
純恋
↓
現代へ
くらいの予定でした。
ところが高校生時代の紫苑を書き始めた瞬間、
「……あれ?これ参考資料、俺じゃね?」
となりまして。
結果。
文化祭。
壺。
予算会議。
ツインドリルお嬢様。
病弱少年。
許嫁。
そして青春。
色々生えてきました。
恐ろしいですね。
作者は王道が好きだったようです。
なお、紫苑は作者本人を元にしていますが、安心してください。
かなり薄めてあります。
本当に。
かなり。
さて、次回からは久しぶりの現代編です。
積み上がった日常ログを消化しつつ、また俺上らしい空気へ戻っていきます。
それでは。
ガルム・クラッシュ第一部。
これにて終幕。
またどこかで。
「呼ばれてないのに飛び出てジャジャジャジャーン!」
する日まで。w




