第91話:同情学園? いや、堂条学園文化祭。太陽と月は交わらない。
堂条太陽は、 久しぶりに外へ出ていた。
今日は兄と慕う結城紫苑が、 何やら面白い事をやるから文化祭に来い―― そう言っていたからだ。
アルビノ。
正式には眼皮膚白皮症。
肌も、髪も、目も、 人よりずっと光に弱い。
だから太陽は、 普段あまり長時間外で活動出来ない。
だが今日は違った。
主治医から、 短時間なら問題ないと外出許可が出た。
だからこうして。
堂条学園文化祭へ来ているわけだが――
「ほらほら、太陽」
隣から声が飛ぶ。
「早く行かないと、 馬鹿兄のイベント始まっちゃうよぉ?」
結城和叶。
中等部。
そして。
俺の恋人。
「別に兄さんは馬鹿じゃ……」
「馬鹿だよ?」
即答だった。
和叶はケラケラ笑う。
「だって紫苑兄、 絶対何かやらかすもん」
「否定できないのが辛い……」
太陽は小さく笑った。
文化祭。
屋台。
人混み。
騒がしい校舎。
全部が、 自分とは少し遠い世界みたいだった。
でも今日は、 その中に居る。
それが少しだけ、 嬉しかった。
「しかし本当に大丈夫? 疲れてない?」
和叶がふと真面目な顔になる。
太陽は首を横に振った。
「大丈夫」
「無理してない?」
「してないよ」
「ほんとに?」
「ほんと」
和叶はじーっと太陽の顔を見る。
やがて、 ふっと笑った。
「ならよし!」
そしてそのまま、 太陽の手を掴む。
「ほら行こ!」
「わっ――」
突然引っ張られ、 太陽は少し慌てた。
和叶はそんな事お構いなしに、 人混みの中を進んでいく。
「急がないと前列取れないからね!」
「前列……?」
「当然でしょ?」
和叶は胸を張る。
「だって今日は、 ガルム・クラッシュ伝説の始まりの日なんだから!」
校舎の奥から、 歓声が聞こえた。
誰かの笑い声。
吹奏楽。
マイクテスト。
文化祭独特の、 浮ついた熱気。
太陽はふと空を見上げた。
昼なのに、 月は見えない。
当然だ。
太陽と月は、 交わらない。
……はずだった。
「……?」
「どうしたの?」
和叶が首を傾げる。
太陽は少し迷ってから、 小さく笑った。
「いや…… なんか今、 物凄く騒がしい気配がしたような……」
「気の所為じゃない??それよりほら、こっちだよ。ほらほら早くっ」
「ちょっちょちょ...」
和叶に手を引っ張られて移動する太陽。
一方その頃......
「あっっぶねぇーーですわ!」
突然。
草場の陰―― というには微妙に隠れきれていない奥の方から、 少女が顔を出した。
金髪。
赤い制服。
ツインテール。
縦ロール。
誰がどう見ても、 典型的なお嬢様である。
高見沢月。
堂条太陽の、 本当の許嫁。
月は胸を撫で下ろした。
まぁ、 撫で下ろす胸なんて無いんですけど。
「シャラップ!ですわ!」
「お、お嬢様??」
付き人らしき女子生徒が慌てる。
月はハッとして咳払いした。
「い、いえ! 何か凄く失礼な事を言われた気がしまして!」
スッ――。
優雅に扇子を広げる。
「オホホホホ!」
だが。
目だけは笑っていなかった。
「和叶さん…… また距離が近すぎますわ……」
ギリッ。
扇子がちょっと歪む。
付き人が恐る恐る聞いた。
「あの…… お嬢様?」
「なんですの?」
「行かないんですか? 太陽様のところ」
月はピタリと止まった。
そして。
ふいっと顔を逸らす。
「べ、別に? ワタクシはただ!」
ドン!!!
「文化祭視察へ来ただけですわ!」
「今絶対嘘でしたよね?」
「うるさいですわ!」
遠くの草むらから、 聞こえる。
「オホホホホホ!!!」
文化祭は、 まだ始まったばかりだった。
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