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俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
ガルムクラッシュ編

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第90話:文化祭前夜祭

放課後。


堂条学園は、 いつもと違う空気に包まれていた。


廊下には段ボール。


脚立。


ペンキの匂い。


そこら中から聞こえる、 怒号と笑い声。


文化祭前日。


所謂――前夜祭である。


「……何かもう、 学校じゃないな」


逢沢が呟く。


東雲は机へ突っ伏したまま親指を立てた。


「最高だろ……」


「お前まだ背景パネル描いてたの?」


「純恋たんイメージ白羽根演出を妥協できなかった」


「そこに命かけすぎだろ」


すると。


ガラッ。


教室の扉が開いた。


「諸君!」


結城紫苑、登場。


だが。


いつもと少し違った。


「……なんだその顔」


逢沢が聞く。


紫苑はニヤリと笑う。


「眠れない」


「小学生かお前」


「違う!」


ドン!!!


「文化祭前夜の男子高校生だ!!!」


東雲が静かに頷いた。


「それはもう病気なんよ」


「病気……」


紫苑はゆっくり俯いた。


「ああ、そうだ」


そして顔を上げる。


無駄に目が輝いていた。


「俺は病んでる!」


逢沢が嫌そうな顔をする。


「何に」


紫苑は窓の外を指差した。


夕焼け。


校庭。


文化祭前夜のざわめき。


「青い春という名の――」


ドン!!!


「大病に!!!」


沈黙。


東雲が静かに拍手した。


「おお……」


「拍手すんな」


逢沢が即座に止める。


だが紫苑はまだ終わっていなかった。


「後、女の子にモテたい」


「台無しだよ!!!」


逢沢のツッコミが廊下に響いた。


東雲は机に突っ伏して笑っている。


「はっはっはっはっ!!! そこまでならちょっと良い感じだったのに!!!」


「何を言う!」


紫苑は胸を張った。


「青春とモテは不可分だ!」


「急に最低な学説立てるな」


「明日だぞ!」


ビシッ。


「明日、俺達は堂条学園の歴史に名を刻む!」


「黒歴史としてな」


「やめろ逢沢! 縁起でもない!」


東雲が笑いながら言う。


「でも紫苑、実際ちょっと緊張してるっしょ?」


紫苑は黙った。


ほんの一瞬。


いつもの騒がしさが消えた。


そして、小さく笑う。


「……まぁな」


文化祭前夜。


校舎中が浮かれている。


明日になれば、全部始まる。


俺達の馬鹿げた計画も。


白い衣装も。


壺も。


拍手も。


歓声も。


それから――


もしかしたら。


何か、取り返しのつかない青春も。


「ま、ここまで来たら――」


逢沢は椅子へ深く座り直した。


「なるようにしかならんっしょ」


教室の窓から、 夕焼けが差し込む。


準備途中の段ボール。


散らかった工具。


ペンキの匂い。


文化祭前夜の空気だった。


「おお」


紫苑が感心したように頷く。


「逢沢にしては珍しくまともなこと言うな」


「抜かせ」


逢沢は鼻で笑う。


「ってか紫苑、お前が言うな」


「なんでだよ」


「一番“なるようにならない”動きしてるのお前だからだよ」


東雲が吹き出した。


「あっはっはっは!」


机へ突っ伏しながら笑う。


「お前らほんっと馬鹿だなぁー」


ニヤニヤ。


「ぷーくすくす」


「煽るな」


逢沢が即座にツッコむ。


だが東雲は止まらない。


「いやだってさぁ」


笑いながら三人を見回す。


「文化祭のために、 ここまで本気になる男子高校生とか、 普通ちょっと頭悪いじゃん?」


沈黙。


そして。


紫苑が胸を張った。


「当然だろ!」


ドン!!!


「青春に必要なのは!」


ビシィッ!!!


「知性ではなく勢いだ!!!」


「だからお前は危険なんだよ」


逢沢が呆れた顔で返す。


東雲はまた笑った。


教室の外では、 まだ準備を続ける生徒達の声が聞こえる。


廊下を走る音。


誰かの笑い声。


遠くから聞こえる吹奏楽。


全部が、 明日のために動いていた。


そして多分。


今の俺達も、 その一部だった。


「それにしても、もう明日かぁ……」


東雲が椅子へ寄りかかった。


「なんだかんだ早かったなぁ」


「だね」


逢沢も小さく笑う。


「紫苑がキンカ堂の相場知ってた時には、 流石にどん引いたけど」


「何を仰るうさぎさん」


紫苑が即座に反応する。


「衣装を作るのに、 少しでも安い布の相場を調べるのは!」


ドン!!!


「基本中の基本だろ!!!」


ビシィッ!!!


「全てはモテのために!!!」


沈黙。


東雲と逢沢が、 同時に引いた顔になった。


「「うっわぁ……」」


「なんでだよ!?」


紫苑が叫ぶ。


逢沢が呆れた顔で返す。


「いや普通そこまで行かねぇよ」


「行くだろ!」


「行かない」


東雲も頷く。


「普通の男子高校生は、 布の市場価格とか調べない」


「甘いな」


紫苑はニヤリと笑った。


「真のモテとは、 努力の積み重ねによって成立するのだ」


「方向性がおかしいんだよ」


逢沢のツッコミが飛ぶ。


だが東雲は何故か感心していた。


「でも実際、 紫苑って衣装系だけは妙に本気だよね」


「当然だ」


紫苑は胸を張る。


「男は視覚生物だからな!」


「最低だ」


「否定はしない」


「お前らなぁ……」


逢沢が呆れて天井を見る。


だが。


その時だった。


ガラッ。


教室の扉が開く。


「まだ残ってたの?」


聞こえた声に。


三人の動きが止まった。


「出たな!」


紫苑がビシッと指を差す。


「拗らせシスコンモンスター!」


「誰がシスコンですか」


教室の入口に立っていた千沙都が、 じとっとした目を向ける。


「純恋姉様とは、 そういう関係ではありません」


「えーでもぉ……放課後いつも」


「お黙りなさい」


千沙都が笑顔で言った。


怖い笑顔だった。


「処しますよ?」


東雲が小声で呟く。


「うわ、 副会長たまに純恋たん並に圧ある……」


逢沢も頷く。


「血筋じゃね?」


「聞こえてますよ?」


「すみませんでした」


即座に謝る二人。


だが紫苑だけは止まらない。


「しかし副会長よ!」


ビシィッ!!!


「明日はいよいよ文化祭!」


「そうですね」


「つまり!」


ドン!!!


「ガルム・クラッシュ伝説の始まり!」


千沙都は腕を組みながら、 ふっと笑った。


「……まぁ、頑張りなさい」


「お?」


紫苑が目を丸くする。


「珍しく素直だな」


「勘違いしないでください」


千沙都は窓の外を見る。


夕焼け。


騒がしい校舎。


文化祭前夜の空気。


「青春なんて、 大抵一瞬で終わるんですから」


ほんの少しだけ。


その声は優しかった。


教室が静かになる。


東雲が小さく呟く。


「……なんか今、 急に良いこと言った」


「でしょ?」


千沙都が胸を張る。


だが次の瞬間。


「だからちゃんと伝説作っときなさい」


ニヤリ。


「後で黒歴史として笑えるくらいには」


「台無しだよ!!!」


逢沢のツッコミが、 前夜祭の教室に響いた。

千砂都のシスコン話については需要があれば書きます。

少しでも面白かったら、ブックマークや評価などで応援していただけると嬉しいです。

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