表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
ガルムクラッシュ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
111/133

第89話:生徒会予算会議なのに呼ばれてないのに飛び出てジャジャジャジャーン

「会長」


堂条千沙都が、静かに資料を差し出した。


「本日の予算会議資料です」


「ああ、ありがとう」


放課後。


堂条学園高等部、生徒会室。


今日は月に一度の予算会議の日だった。


文化祭も近い。


各部活動から提出された予算申請を、生徒会役員達が精査する。


極めて真面目な会議である。


少なくとも。


本来は。


「軽音部からの追加申請は?」


萱草が資料をめくる。


千沙都が淡々と答えた。


「ありません」


「そうか」


少しだけ安心した。


本当に少しだけ。


だが。


その瞬間だった。


バァン!!!


会議室の扉が勢いよく開いた。


「失礼しまぁぁぁぁぁす!!!」


来た。


萱草は天を仰いだ。


最悪だ。


「呼ばれてないのに飛び出て――」


ドン!!!


「ジャジャジャジャーン!!!」


紫苑が両手を広げる。


後ろでは、逢沢が頭を抱えていた。


「だからやめろって言ったのに……」


東雲は何故か拍手している。


「いや登場演出は完璧っすよ紫苑」


「だろ?」


「帰れ」


萱草が即答した。


だが紫苑は止まらない。


「兄貴!」


ビシッ!!!


「今日は正式に!」


ドン!!!


「予算を取りに来た!!!」


千沙都が静かに呟く。


「不法侵入では?」


「違いますぅー!」


紫苑は何故か胸を張った。


「青春です!」


「便利だなその言葉」


逢沢が小声で呟く。


「まぁまぁ兄貴」


紫苑がニヤニヤしながら机へ近づく。


「まずはこれを見てくれよ」


ドン。


机の上へ置かれたのは。


壺だった。


沈黙。


生徒会役員達が固まる。


萱草がゆっくり聞いた。


「……これは?」


紫苑は胸を張る。


「壺です」


「いや、壺なのは分かる」


萱草は真顔だった。


「意味が分からん」


逢沢が顔を覆う。


「始まった……」


東雲だけはテンションが高い。


「おおー! 小道具まで用意してる!」


「当然だ」


紫苑は壺を撫でながら続ける。


「だって登場シーンから考えて、アレですよ」


ビシッ。


「壺は必要でしょ?」


「いや理屈は分かるが……」


萱草は深いため息を吐いた。


「意味分からん」


千沙都が静かに聞く。


「ちなみに、何に使うんです?」


紫苑は即答した。


「割る」


「帰れ」


「なんでぇぇぇぇぇ!?」


紫苑が叫ぶ。


東雲は腹を抱えて笑っていた。


「いや待って!? 文化祭で壺割るアイドル何!?」


「インパクトだよ!」


「方向性がおかしいんだよ!」


逢沢のツッコミが飛ぶ。


だが紫苑は真顔だった。


「いいかお前達」


ビシィッ!!!


「人類は“登場”に弱い」


「また始まった」


「最初の三秒で空気を支配する!」


ドン!!!


「つまり壺だ!!!」


「意味分かんねぇよ!!!」


会議室中にツッコミが響いた。


その時だった。


一人の生徒会役員が、恐る恐る手を挙げる。


「……あの」


「なんだい?」


「それ、誰が割るんですか?」


紫苑はニヤリと笑った。


そして。


ゆっくり逢沢を指差した。


「もちろんイケメン担当」


「なんでだよ!!!」


逢沢の絶叫が、生徒会室へ響き渡った。


千沙都が静かにため息を吐いた。


「由紀、駄目だよ」


視線の先。


生徒会書記――天城由紀。


眼鏡。


三つ編み。


真面目そうな雰囲気。


いかにも優等生、という女子だった。


「この人に常識は通用しないから」


由紀は少し怯えた顔になる。


「は、はぁ……」


すると。


紫苑の動きが止まった。


沈黙。


じぃーーーーーっ。


逢沢が察する。


「あ、これ駄目なやつだ」


東雲も頷く。


「始まった」


紫苑は静かに口を開いた。


「うん」


一拍。


「採用」


萱草が即座に叫ぶ。


「何が!?」


紫苑は真顔だった。


「眼鏡は良いものだ……」


東雲、即答。


「同意」


「同意すんな」


逢沢のツッコミが飛ぶ。


だが紫苑は止まらない。


「三つ編み」


ビシッ。


「眼鏡」


ビシィッ。


「真面目そう」


ドン!!!


「強い」


「何の分析なんだよ」


紫苑は由紀を見ながら頷いている。


完全に怖い。


由紀が千沙都の後ろへ半歩隠れた。


「せ、先輩……この人怖いです……」


「大丈夫」


千沙都は真顔で言った。


「私も怖い」


「副会長もなんですね……」


萱草が疲れ切った顔で呟く。


「だから言っただろう。結城紫苑は災害なんだ」


「兄貴酷くない!?」


「お前のような弟はいない」


「それもう聞いた!!!」


東雲が笑い転げている。


「はっはっはっ!!! 会長、その返し便利すぎるでしょ!!!」


だが紫苑は、まだ由紀を見ていた。


そして真顔で呟く。


「……いい」


逢沢が嫌そうな顔をする。


「何が」


「文化祭パンフ係」


「勝手に役職増やすな」


「あと絶対、フリフリ衣装似合う」


「お前今すぐ黙れ」


千沙都の圧が、一段階上がった。


「おやおやぁー?」


紫苑がニヤニヤしながら千沙都を見る。


「副会長様は、かまってもらえなくて嫉妬ですかぁー?」


空気が凍った。


逢沢が小さく呟く。


「死んだな」


東雲も頷いた。


「死んだね」


紫苑は止まらない。


「ごみんねぇー?」


くねくね。


「ぽくちん忙しくてぇー」


さらにくねくね。


「モテモテでごみんねぇー?」


次の瞬間。


ドン。


千沙都の手が、机に置かれた。


静かだった。


静かすぎた。


「……会長」


「なんだ」


「殴っていいですか?」


「駄目だ」


「では蹴っても?」


「駄目だ」


「では予算申請書を丸めて口に詰めても?」


「駄目だ」


紫苑が叫ぶ。


「選択肢が全部物理!!!」


萱草は疲れた顔で言った。


「お前が悪い」


「なんでぇ!?」


千沙都はにっこり笑った。


怖い笑顔だった。


「結城紫苑さん」


「はい」


急に紫苑の背筋が伸びた。


「生徒会室では、節度ある発言を心がけてくださいね?」


「はい」


「次に同じような発言をした場合」


一拍。


「文化祭規約を一条ずつ音読していただきます」


紫苑の顔色が変わった。


「それは……拷問では?」


「教育です」


「兄貴ぃ!」


萱草は書類から顔も上げずに言った。


「お前のような弟はいない」


「またそれぇ!?」


萱草は深くため息を吐いた。


「はぁ……」


本当に。


本当にさっぱり話が進まない。


「で。紫苑」


「なんだ兄貴」


「一体何しに来たんだ?」


紫苑が、待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。


「一体何しに来たと言われたら!」


東雲がスッと横に並んだ。


「答えてやるのが世の常人の常!」


逢沢の顔色が変わった。


「おい待て」


紫苑が片腕を掲げる。


「世界の平和を守るため!」


東雲も続く。


「衣装の予算を手に入れるため!」


「紫苑!」


「希望!」


二人はビシッとポーズを取った。


「我ら――」


「すとーーーーっぷ!!!」


逢沢が全力で割って入った。


生徒会室に叫びが響く。


「それ以上は駄目!」


紫苑が不満そうに頬を膨らませる。


「なんでだよ」


「駄目なものは駄目!」


東雲も首を傾げる。


「えー、ここからが美味しいのに」


「美味しいとかじゃない。越えてはいけないラインがある」


千沙都が冷静に言った。


「今のも十分越えていたと思いますが」


「副会長さん正解です」


逢沢は疲れ切った顔で頷いた。


萱草は眉間を押さえた。


「……お前達、本当に予算を取りに来たのか?」


紫苑は胸を張った。


「当然だ!」


「なら普通に申請しろ」


「普通じゃ通らないと思った」


「そこだけ理解してるの腹立つな」


紫苑はニヤリと笑う。


「だからこそ、プレゼンだ!」


「今のところ壺と茶番しか見ていないが?」


「導入だよ導入!」


東雲が頷く。


「掴みは大事ですからね」


逢沢が即座に言う。


「掴んだのは生徒会の怒りだけだけどな」


萱草はもう一度ため息を吐いた。


今日だけで寿命が縮んだ気がする。


「……分かった」


紫苑の目が輝く。


「お?」


「三分だけだ」


萱草は指を三本立てる。


「三分で説明しろ。それで納得できなければ却下。以上」


紫苑は満面の笑みを浮かべた。


「三分あれば十分だ」


千沙都が嫌そうな顔をした。


「何故でしょう。とても嫌な予感がします」


逢沢が小さく呟く。


「奇遇ですね。僕もです」


そして紫苑は、鞄から分厚い紙束を取り出した。


ドサッ。


生徒会室の空気が、再び止まる。


萱草が目を細めた。


「……それは?」


紫苑は高らかに宣言した。


「ガルム・クラッシュ文化祭ステージ企画書!」


さらに一冊。


「衣装案!」


さらに一冊。


「想定観客動線!」


さらに一冊。


「女子生徒心理分析!」


千沙都が真顔で言った。


「最後の資料だけ今すぐ没収してください」


逢沢は遠い目をした。


「だから嫌な予感しかしなかったんだよ……」


「しかも無駄に良く出来てるし……」


萱草は資料をめくりながら、深くため息を吐いた。


「はぁ……」


悔しい。


非常に悔しい。


だが、資料としては通っている。


ステージ構成。


衣装費。


安全対策。


観客動線。


必要備品。


予算内訳。


そして、何故か異様に細かい女子生徒心理分析。


最後だけ燃やしたい。


「……分かった」


紫苑の目が輝く。


「お?」


「検討しとく。それでいいな?」


「やったぜ兄貴!」


紫苑が飛び上がった。


「愛してる!」


「来るな」


「ムチューーー!」


「来るなと言っている!」


紫苑が抱きつこうとした瞬間、萱草は片手で顔面を押さえた。


「お前のような弟はいない」


「またそれ!?」


「あと、くっつくな。キモい」


「ひどぉぉぉい!」


東雲は床に沈んで笑っている。


逢沢は資料を見ながら、ぼそっと呟いた。


「でも実際、これ普通に通りそうなのが腹立つな……」


千沙都も無言で資料を見ていた。


そして小さく。


本当に小さく、呟いた。


「……安全対策まで書いてある」


紫苑は鼻高々だった。


「当然だろ!」


ドン!!!


「青春は、安全第一でなければならない!」


「壺を割ろうとしてた奴が言うな」


萱草のツッコミが、生徒会室に静かに響いた。


「よっしゃあ!!!」


紫苑がガッツポーズを決める。


「これで予算ゲットだぜ!!!」


東雲もテンションが高い。


「うおおおお! 白衣装だぁぁぁ!」


逢沢だけが嫌な顔をしていた。


「いやまだ検討段階だからな?」


だが紫苑は止まらない。


「これで文化祭は勝ったも同然!」


ビシィッ!!!


「たとえ火の――」


逢沢の顔色が変わった。


「やめろぉぉぉぉ!!!」


全力で紫苑の口を塞ぐ。


「んごっ!?」


「駄目! それ以上は本当に駄目!」


「むごごごご!」


東雲が腹を抱えて笑っている。


「はっはっはっ!!! 危なっ!!! ギリギリだった!!!」


千沙都が冷静に聞いた。


「何が始まる予定だったんです?」


逢沢が真顔で答える。


「たぶん著作権的に危ない流れです」


「なるほど」


萱草は静かに書類を閉じた。


「お前達」


「はい」


「文化祭まで問題を起こすな」


沈黙。


そして。


紫苑が目を逸らした。


東雲も逸らした。


逢沢だけが頭を抱えた。


「ほらぁ!!! もう嫌な予感してるじゃないですか!!!」


紫苑が真顔になった。


スッ――。


無駄に姿勢を正す。


「努力します」


キリッ。


沈黙。


生徒会室が静まり返る。


そして。


萱草がゆっくり口を開いた。


「信用ならないなぁ……」


「なんでぇ!?」


東雲も頷く。


「いやまぁ、実績がね?」


「お前味方じゃなかったの!?」


逢沢は即答した。


「今回ばかりは会長側だわ」


千沙都も小さくため息を吐く。


「努力、という言葉は」


眼鏡を押し上げる。


「“やらかす可能性がある”時に使うものでは?」


「違うもん! 俺、今回は真面目にやるもん!」


「今回“は”って言った」


「言質取れましたね」


「しまった!?」


東雲が肩を震わせる。


「紫苑って時々、自爆速度が神がかってるよね」


萱草は遠い目をした。


「昔からだ」


そして静かに呟く。


「……はぁ。文化祭までに胃薬買っておくか」


千沙都も真顔で頷いた。


「必要経費ですね」


紫苑が勢いよく手を挙げた。


「そこは生徒会予算で落ちます?」


「落ちない」


「そんなぁーーー!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ