第84話:Girls Meets Crash ?
「で。だ。
問題はあの堅物生徒会長を
どうやって倒すかなんだよなぁああああ」
「いやいやいやいや
カンゾウさんでしょ?
お前の兄貴じゃん」
紫苑
弟より優れた兄などおらぬ!
東雲が吹き出した。
「いやそれ逆逆逆!!!」
「細けぇ事はいいんだよ!」
俺は机へ突っ伏した。
堂条学園。
超エリート進学校。
当然ながら、
文化祭にも厳しい規則が存在する。
そして。
その規則の頂点に君臨する男――
「生徒会長・結城萱草……」
逢沢が嫌そうな顔をする。
「いや普通に怖いんだよなあの人」
「わかる」
東雲まで真顔で頷いた。
我が兄。
結城萱草。
成績優秀。
品行方正。
教師受け最強。
歩く校則。
しかも無駄に圧が強い。
「去年も軽音部の爆音問題、
一人で鎮圧したからなぁ……」
「文化祭実行委員泣いてたよね」
「あれは生徒会じゃない。
粛清だ」
俺は天を仰いだ。
「くそっ……!
何故我が兄はあんなに真面目なんだ……!」
逢沢が冷静に言う。
「お前がおかしいだけ」
「遺伝子の突然変異だよ」
「失礼な!?」
東雲がニヤニヤしながら身を乗り出す。
「で?どうすんの?
文化祭で三人組アイドルなんて、
絶対止められるっしょ」
「そこなんだよ……」
俺は腕を組んだ。
正面突破は無理。
萱草は理屈で殴ってくるタイプだ。
勢いでは突破できない。
つまり必要なのは――
「合法性だ」
「嫌な予感しかしない」
「文化祭規約の抜け道を探す」
「うわ始まった」
俺は鞄から、
分厚い生徒手帳を取り出した。
東雲が引く。
「なんで持ち歩いてんの」
「敵を倒すにはまずルールを知る」
「無駄に説得力あるの腹立つな」
俺はページをめくる。
カサカサカサ――。
そして。
止まった。
「……あった」
逢沢と東雲が覗き込む。
『文化祭出展は、
生徒会の許可を必要とする』
「終わったじゃん」
「ダメじゃん」
だが。
俺はニヤリと笑った。
「その下だ」
東雲が読む。
『ただし、生徒会承認済み団体による活動はこの限りではない』
沈黙。
数秒後。
東雲。
「……軽音部?」
逢沢。
「いやでも俺ら部員じゃ」
俺はゆっくり立ち上がった。
「作るんだよ」
「何を」
「既成事実を」
逢沢が顔を覆った。
「うわ最悪だ」
俺は高らかに宣言した。
「Girls Meets Crash――」
ドン!!!
「略してGMC計画を開始する!!!」
逢沢が腕を組む。
「で?」
「なに」
「その名前の意味だとさ」
逢沢は黒板の『Girls Meets Crash』を指差した。
「どう考えても
“BOY MEETS GIRL”意識してるよね?」
「してる」
「でも流石に
“Girls Meets Crash”は無くねーか?」
沈黙。
東雲が静かに手を挙げた。
「うん。それを言うなら――」
嫌な予感がした。
「ガルパ――」
「言わせねーよ!!!」
俺は即座に叫んだ。
東雲が爆笑する。
「まだ存在してねぇよ!!」
「未来予知みたいになるだろうが!!!」
逢沢が呆れ顔でため息を吐いた。
「お前ら何と戦ってんの……」
俺は黒板の前で腕を組む。
「ううむ……」
確かに。
言われてみると、
Girls Meets Crashは、
若干意味が迷子だ。
「うぅーん……」
教室の空気が少し静まる。
東雲がニヤニヤしながら言う。
「ま、紫苑のネーミングセンス、
大体勢いだし」
「うるさい」
俺はチョークを回した。
カツ、カツ――。
ふと。
頭の中に、
妙な単語が浮かぶ。
狼。
月。
牙。
夜。
厨二。
「……じゃあ」
俺は振り返った。
「ガルム・クラッシュでどうだ?」
逢沢と東雲が顔を上げる。
「なんか月夜の狼っぽくて、
カッコよくね?
ガルムとか」
沈黙。
逢沢が先に口を開いた。
「出たよ厨二」
「うるせぇ」
「ん。でもまぁ……」
逢沢は少し考える。
「悪くは……無いかな?」
東雲も頷いた。
「確かに響きは好き」
俺は勝利を確信した。
「だろ?」
だが東雲は続ける。
「でもやっぱり略すなら
ガルp――」
「「言わせねーよ!!!」」
俺と逢沢の声が、
綺麗にハモった。
――そして数日後。
俺達は軽音部の扉を開けていた。
ガラッ。
汗臭い。
アンプが唸っている。
床に転がるシールド。
壁に貼られたメタル系ポスター。
そして。
むさ苦しい男子部員、五名。
俺は静かに扉を閉めた。
「帰るぞ」
逢沢が肩を震わせている。
東雲は腹を抱えていた。
中から声が飛ぶ。
「おい!入部希望か!?」
俺は叫んだ。
「詐欺だ!!!」
「何が!?」
「けいおんって言ってんのに
女子が居ない軽音部なんて詐欺だ!
俺のト・キ・メ・キを返せ!!!」
軽音部員が慌てて手を振る。
「ちょっ、ちょっ、ちょっ!
何言ってるかわかんないけど、
とりあえず見学だけはしてけ?な?」
ガタイの良い三年生だった。
「君たち一年だろ?
軽音興味あるなら歓迎――」
「やだー!!!」
俺は全力で首を振った。
「黒髪の子も!」
ビシッ!!!
「茶髪の子も!」
ビシィッ!!!
「活発な子もいない軽音部なんて!」
ドン!!!
「軽音部詐欺だ!!!」
部室が静まり返る。
逢沢はもう壁に寄りかかって笑っている。
東雲は完全に呼吸困難だ。
「おんぶにだっこだ!!!」
「意味分かんねぇよ!!!」
軽音部員のツッコミが飛ぶ。
「なんでそんなキレてんだお前!?」
「俺のトキメキ設計図が崩壊したからだよ!!!」
「知らねぇよ!!!」
奥から別の部員が顔を出した。
長髪。
黒シャツ。
見るからにV系好きそうな先輩だ。
「……お前、面白いな」
「え?」
「バンドやれんの?」
「やる気だけならあります!」
「最低の返答きたな」
逢沢が笑いながら呟く。
先輩はニヤッと笑った。
「いいじゃん。
軽音なんて大体ノリだ」
「マジっすか!?」
「ただし」
先輩は指を立てる。
「文化祭出るなら、
一曲はちゃんとやれ」
空気が少し変わった。
東雲が顔を上げる。
逢沢も笑うのを止めた。
俺は先輩を見る。
「一曲……」
「客を沸かせりゃ勝ちだ」
その瞬間。
何かが、
少しだけ繋がった気がした。
俺は勢いよく先輩の手を握った。
「先輩!!!」
先輩がちょっと引く。
「お、おう?」
「いや――」
俺は目を輝かせた。
「兄貴!!!」
軽音部員達が笑う。
「はっはっはっは!
懐くの早ぇなコイツ!」
「単純すぎるだろw」
俺は叫んだ。
「俺ついていくっす!!!」
長髪の先輩がニヤリと笑う。
「おう。
ならまずギター運べ」
「はい兄貴!!!」
逢沢が冷静にツッコんだ。
「いやお前の兄貴、生徒会長」
沈黙。
俺はピタッと止まる。
「……そうだった」
東雲が腹を抱えて笑い始めた。
「はっはっはっはっ!!!
乗り換え早ぇよ!!!」
軽音部員達まで吹き出す。
「お前最低だなwww」
「兄貴増やすなwww」
だが俺は真顔だった。
「いいか逢沢」
「何」
「人はな」
ドン!!!
「時に心の兄貴を必要とするんだよ!!!」
「うるせぇよ!!!」
長髪の先輩は肩を震わせながら笑った。
「お前マジで面白ぇなぁ……」
そしてその瞬間。
俺達はまだ知らない。
この日から、
堂条学園軽音部の空気が、
最悪の方向へ変わっていくことを。
まぁその原因の殆どが――
俺。
結城紫苑のせいなのは、
さもありなん。




