悪鬼の本拠地を目指せ
「…何だか変だわ」
森にて。
鬼子と火竜は悪鬼を倒した。
撃退され、退散していく悪鬼達の後ろ姿を見ながら違和感を覚えていた。
ここ最近、悪鬼達が弱いのだ。
鬼子と火竜が飛躍的に強くなった…という訳でもない。
悪鬼の攻撃に勢いがないし、よく外す。
鬼子が鬼人化する必要もないのは勿論の事、鎌すら使わずとも殴るだけで倒せる者が大半だ。
まるで疲労しているようにも見えた。
「鬼子…。逆に悪鬼達が心配だな」
「うん…。それに何て言うの?嵐の前の静けさ…って言うのかしらこれ…」
鬼子は昔…悪鬼テロによって母を亡くした記憶を思い返していた。
思えばあの日は、とても穏やかな一日だった。
父、母と共に町を歩き、好きな物を買って好きな物を食べ、映画でも見に行こうとした矢先の出来事だった。
建物が倒壊し、異形の悪鬼達が空を埋めつくし、銃を持った人間達が民間人を殺害していく地獄の光景…。
思い出すと、気分が悪くなる。
「おい、大丈夫か?」
鬼子の顔色が悪かったのか、火竜は心配そうに鬼子を覗き込む。
頭を振りながら、鬼子は笑う。
「考えても仕方ないわよね。今の私達には、悪さをする悪鬼を懲らしめるくらいしかできないわ」
「帰りに妖姫にパンを買ってやるのもお忘れなく、な」
笑いあう二人。
その頃…。
悪鬼の城にて。
ベッドに寝かされた亜華魔姫の痛々しい姿を、子鬼達が泣きながら見つめていた。
ベッドの横には叡光鬼が、深刻そうな顔で立っていた。
「お目覚めのところ申し訳ありません、亜華魔姫様。事態は深刻です…」
「…構わない。力将と技将が闇姫のもとにさらわれたそうだな。…意識を失ってる間も、残留した精神で状況はよく理解している」
上体を起こす亜華魔姫。
二人の将を失い、地獄石も奪われ、自分もこの有り様。
…亜華魔姫は深く息を吐きながら、自分の顔を押さえた。
そんな彼女を見て、叡光鬼は首を横に振る。
「やつらならばきっと抜け出せます。そんなに気を落とされないでください!私の知恵が、必ず亜華魔姫様をお守り致します!」
頷く亜華魔姫。
周りの子鬼達もどうにかしようとあちこちに動き回っていた。
それを見る亜華魔姫の顔は、実に複雑だった。
「…軍勢の勢力の縮小が甚大だ。悪鬼を増やす」
「『やつ』はどうします」
叡光鬼の質問に、亜華魔姫は少し黙りこんだ後に答えた。
「…今は状況の取り返しがつく。まだ良い。やつは本当に危なくなった時だ」
また場面は変わり、テクニカルシティにて。
葵とラオンは、町を調査していた。
「葵、最近悪鬼が少ないと思わないか?」
「そうね…。明らかに出現が少なくなってるわ」
二人もやはり悪鬼の少なさについて疑問を感じているようだ。それほどに、何やら悪鬼の様子がおかしかった。
叡光鬼や剛強鬼といった強敵も現れない。
平和なのは結構なのだが、これはこれで胸騒ぎがした。
…しかし、ラオンはこれをチャンスと見ていた。
「葵。今ならやつらの本拠地を叩けるんじゃないか?」
確かに、と腕を組む葵。
だが、本拠地の場所が分からない。目的地が分からなければどうしようもないが…。
「分かるかもよ」
突如、声がした。
見ると、そこには町のゴミ箱の中からこちらを覗き込むドクロの姿が。
何でそんな所に…と二人が突っ込む前に、ドクロは近づいてきた。
ゴミ箱にいたとは思えない程綺麗な白髪だ。
「悪鬼達が少なくなった事で悪鬼一人一人の魔力が分かりやすくなってる。空気に残ってる悪鬼の魔力を探れば、どこから来たか分かるはずよ」
なるほど、と葵は頷く。
善は急げ。葵は仲間達を事務所に集める事にした。
…仲間達が集まった事務所にて、粉砕男が一同を取りまとめ、作戦を説明する。
「丁度森にて悪鬼の目撃情報があった。そいつを倒して空気中の魔力を探り出す。そこから皆で固まって、悪鬼の本拠地を探し出すぞ」
何やら面白そうな作戦にれな姉妹は嬉しそうな顔をしていた。
ドクロとテリーの死神兄妹も頼れる表情で笑ってる。
「何やら面白そうな話してるのう!」
声を聞き、はっ、とする一同。
階段の方を見ると、そこにはニヤニヤと笑いながら一同を見ている妖姫が。
二階で昼寝をさせていたのだが、久々に事務所にメンバーが集まった事で目を覚ましてしまったらしい。
一同が互いに顔を見合わせた後、葵が妖姫に歩み寄り、しゃがんで視線を合わせる。
「ごめんね、流石に行く先は悪鬼の本拠地。あなたを連れていくのは危険だわ」
それを聞いた妖姫の表情は一変。とても気に入らなそうな、不機嫌な顔をした。
「わらわが役に立たないと!?わらわの憑依能力でお前達を助けられるというのに!?」
…だが妖姫自身が弱い。
やはり連れていく訳にはいかない。
「嫌じゃー!!わらわも行くー!!」
駄々をこね始めてしまう妖姫。
葵はすっかりかける言葉がなくなり、頭を掻いてしまう。
「私が守るわ」
また新たな声がした。
…今度は、玄関からこちらを見ている鬼子と火竜、そしてエックスが。
れなが二人を見て叫ぶ。
「鬼子!火竜!そして…エックス!聞いてたの!?」
「窓から聞いてたわよ」
よく見ると窓が開けっぱなしだ。今駄々をこねた声も外に丸聞こえだったのかと妖姫は赤くなる。
鬼子は背中に鎌を備えている。もう既に戦闘準備ができていた。
「ただ分かってると思うけど、悪鬼の本拠地よ。もし足手まといにでもなったら容赦なく見捨てるけど…?」
妖姫を睨むように見る鬼子。
妖姫は過剰に肩に力が入っていた。
「…み、皆の力になりたいのじゃ!わらわだって戦える!!」
鬼子は、ほんわりと笑顔になる。
鬼子が見捨てる訳がない。
今のは、妖姫の意思を試す為の演技だ。
そう分かっていた一同もまた、笑顔になる。
そして、れなが胸元のリボンを締め直して気合いたっぷりに宣言。
「よーし!まずは森の悪鬼をぶっとばして、悪鬼の『ほんきょち』を目指すぞ!!」
一斉に手をあげる一同。
息はぴったりだった。




