ソサリ渓谷乱戦
激戦が続くソサリ渓谷。
いつの間にか周囲の岩が崩壊し、悪鬼や悪魔の流した血が生々しく残り、負傷した兵士達が渓谷の入り口まで運び出され、両勢力が取りこぼした地獄石が転がっている。
そんななか、闇姫は大太刀を向けてくる亜華魔姫に余裕を見せていた。
「亜華魔姫。先程も言ったが、腕を上げたな。お前だけではなく、お前自慢の三大悪鬼、亜華魔の将にその下の下級悪鬼達の連携はバカにできん」
「私は悪鬼を導く存在だ。全ての悪鬼が望む未来をこの手で築き上げる。その目的の為、どんな努力も惜しまないつもりだ」
両者は向かい合いながらゆっくり横に動いていく。
二人で円を描くような動きで、互いの距離を常に保ち続ける。
闇姫の両手が、少しずつ動いていく。
「悪鬼にしては見上げた思考だ。特別に私の新たな力でぶっ殺してやる」
闇姫は両手を広げる。
両手から黒い霧が立ち込め、少しずつ広がっていく。
亜華魔姫の足の踏み位置が、僅かにずれた。
冷や汗をかいていた。
黒い霧に完全に包まれた両手を叩きつけあい、小さく叫ぶ。
「黒滅波」
叩きつけられた霧は一気に周囲に広がり、亜華魔姫や悪鬼達を包み込み出す。
闇姫軍兵士達には当たっていない。霧が空気中の魔力を侵食しつつも、上手く動いて悪鬼のみに向かっている。
そして…包み込まれた悪鬼達に異変が。
「うおおおお!!!な、何だこれは…!!」
一人の悪鬼の叫びと同時に、一斉に悪鬼達が叫び出す。
亜華魔姫は霧から逃れようと飛行するが、霧は尋常じゃない速度で迫ってくる。
地上を見下ろすと、霧が晴れると同時に悪鬼達が膝をついて倒れていく。
これを喰らえばまずい。
より素早く飛行するが、霧はそれにあわせるように速度が速まる。
「亜華魔姫様!!お任せを!!」
亜華魔姫を助けに、地上から叡光鬼が飛び出してくる!
魔力を込め、白く輝かせた刀で霧を切り裂く!
黒い霧が消えていく。
「お気をつけください。あの霧は空気中の微量な魔力を侵食して魔力素を増やす事で勢いをつけて追いかけてきます。飲み込まれると、体内の魔力と霧の魔力が拒絶反応を起こし、体の内側と外側、両方からダメージを食らいま…すっ!」
そうこうしてる間にまた飛んできた霧を切り裂く!
亜華魔姫は歯を食い縛りながら地上の闇姫を睨む。
闇姫は更に黒い霧を纏わせ、叩きつけて第二撃の黒滅波を放つ!
今度は剛強鬼と百戦鬼に向かっていく。
剛強鬼は魔力を込めた拳で殴り付けて一発は破壊したが、二発目は間に合わず、霧に呑み込まれる。
「ぐ…ぐああああああああ!!!」
鍛えぬいた筋肉に包まれた体も役に立たず、体から岩が砕けるような音が響く。
筋肉組織が破壊されたのだ。
霧が晴れ、全身から霧を吹き上げながら倒れ、地響きを起こした。
百戦鬼は槍を振り回して霧を弾いていく。技将というだけあり、黒滅波も弾きまくれる技術力だ。
…だが、背後からデビルマルマンとバッディーが勢いよくぶつかってくる!
バランスを崩した百戦鬼は霧に呑まれる。呑まれてからも抵抗するが…。
「ぐ…はぁぁぁぁ!!」
全身を震わせながら悲鳴を上げ、倒れる。
残る亜華魔の将は叡光鬼のみ。亜華魔姫は、これ以上は許さなかった。
地上の闇姫に高速で向かっていき、大太刀を振り下ろしてくる!
闇姫は側転してそれを回避。大太刀が地面に突き刺さり、渓谷に地割れが発生、闇姫軍の兵士達がよろめきながら離れていく。
闇姫は両手に黒い霧を纏わせたまま亜華魔姫に向かっていく。
大太刀は普通の刀になり、闇姫を切り裂こうと振るわれる。
見切った闇姫は次々に回避、至近距離を保ったままかわし続ける。
亜華魔姫は必死に刀を振るい続ける。
「ええい!!愚かしい!闇などにわらわは負けはせん!悪鬼は…!負けはせんぞ!!」
手早くとどめを刺そうと刀を突きだすが…闇姫は横に回転して回避。
回転した際のツインテール髪が、亜華魔姫の顔にぶつかって視界を遮った。
動きが止まる。
闇姫は表情一つ変えずにまた回転、その勢いで裏拳打ちを顔面に叩き込む!!
一瞬、声を上げる亜華魔姫の体目掛けて、闇姫は手の平を構え、黒い霧を纏わせ…。
そして、掌低打ちを叩き込んだ。
時間が止まったように硬直する両者。
「ぐは…」
亜華魔姫の口元から血が垂れ落ち、闇姫の視界を横切り、地に落ちた。
尚も、闇姫は表情を変えない。
膝をつく亜華魔姫。
そのまま、人形のようにうつ伏せに倒れてしまった。
叡光鬼が唖然としていた。
亜華魔姫の敗北に、他の悪鬼達も同じような反応だ。
「今だ!」
闇姫の後ろから、デビルマルマン、バッディー、ガンデル、ダイガル…四天王が飛び出し、両手から闇の波動を放出!
悪鬼達は吹き飛ばされ、我先にと撤退していく。
後に残ったのは、闇姫軍のみだった。
倒れたままの百戦鬼と剛強鬼を兵士達に運ばせ、四天王は闇姫のもとへと集まる。
「闇姫様、あの掌低打ちは?」
「黒滅波…闇の霧のエネルギーを拳に纏わせ、叩きつける事で無数の霧の効果を相手の体の一部分に集中させる。掌低打ちは相手に与える衝撃が強い技だ。拳で放つより、掌低打ちの方が黒滅波との相性が良い」
説明する闇姫の真横で、デビルマルマンが真似して掌低打ちを繰り出している。
闇姫は、薄汚れた自身の手を見ながら呟いた。
「親父の技ばかりを使うのもシャクだからな。これは私自身が考えた技だ。技名はそうだな、羅黒掌にしよう」
何やら一人で盛り上がる闇姫。珍しい姿に四天王は少し引いていた。
…バッディーが四本の腕のうち二本で、運ばれていく剛強鬼と百戦鬼を指差して言った。
「ところであの二人…どうします?」
「情報を聞き出したいところだが、易々吐くような連中でもない。とりあえず魔力を抜き取って、特別牢にぶちこんどけ」
敬礼するバッディー。兵士に指示を出す為に飛んでいった。
残った四人は転がっている地獄石を回収する。
闇姫はボソリと呟くように三人に言った。
「やつら、手こずらせやがったな。とりあえずダメージは与えたはずだから一日ぐらいは余裕が出る。明日は兵士達全員を休ませ、私達で周辺調査をするぞ」
それを聞き、闇姫に対して最も余裕のあるダイガルが、闇姫に耳打ちするように言った。
「おんや、お優しいですなぁ。明日は雨でも降るのでは?」
「別に休息が必要と見ただけだ。雨なんか降れば、黒滅波で吹き飛ばしてやる」
雨が降る、という事を真に受けている闇姫に、三人はまたもや少し引いた。




