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ソサリ渓谷の戦い

ソサリ渓谷…太陽が地上を照りつけ、岩の壁が並ぶ場所。

紫の鎧を纏った兵士に、ドクロマークから手足を生やした小さな兵士、空飛ぶ鳥頭の悪魔に巨大な黒い大蛇…悪魔もモンスターも、ゾロゾロと行進している。

闇姫とバッディーが先頭に立ち、彼らを率いる。

バッディーは闇姫に一つ報告する。

「ダイガル、ガンデル、デビルマルマンの三人は渓谷付近の警備を任せてます。乱入者は来ないでしょう」

闇姫は頷き、そのまま行進を導き続ける。


「この辺りだ。探れ」

闇姫が指示を出すと、無数の兵士達がスコップやピッケルを取りだし、壁を掘っていく。


…そして、一分もしないうちに地獄石が飛び出てきた。

兵士達が声を上げて喜び、一人が声を上げてる間に他の兵士が地獄石を掘り出し…有り得ない程に多量の地獄石が掘り出されていく。

作戦は順調…なはずだった。


突如、兵士達は何かを感じ取った。


「…おい!見ろ!」

兵士達が空を指差す。


…空には、謎の赤いオーラを纏う空間の穴が空いていた。

何だ何だと作業を中止する兵士達に、バッディーが続けるように指示しながら空間の穴を見上げ、構える。



…穴から黒いモヤモヤした飛行物が飛び出してきたと思うと、無数の異形が降り注いできた。

角の生えた大きな蟻、六本の腕を持つ赤鬼、顔がついた刀に二つの首を持つ大型の青鬼など、数々の異形だ。

そして最後に、スキンヘッドから角を生やした老人、武将のような姿の三本角の戦士、赤鬼の上半身に獣の下半身を持つ異形が降りてくる…。

バッディーは三本の腕で三体を指差す。

「ジジイが叡光鬼、鎧ガチガチ野郎が百戦鬼、ブサイクな化け物が剛強鬼だったか?覚えてるぜ」

叡光鬼は可笑しそうに笑い、百戦鬼は黙って睨み付け、剛強鬼はいかにも怒った様子で震えてる。

…そして最後に、白髪に赤い着物の女…亜華魔姫(あかまひめ)が穴から降り立ち、空間の穴は塞がった。

悪魔の大軍、闇姫軍。

そして悪鬼の大軍、亜華魔の軍。

二つの軍の大将たる闇姫と亜華魔姫が、それぞれの大軍を背に睨みあう。

静かな渓谷が、一気に血生臭くなるようだった。

闇姫が感心したように言う。

「空間に直接穴を空けて渓谷付近のダイガル達をすり抜けるとはな。まあ近道ができただけで結果は変わらん」

亜華魔姫は持っていた鞘から刀を取り出す。

刀に魔力を込めると、刀が瞬時に収縮、小刀となる。

「地獄石は我らの目的の為に必要不可欠だ。何としてもここの地獄石、全て貰い受ける」

「悪鬼風情が。何を企んでるのか知らないが、私に刀を向ける意味は分かってんだろうな」


闇姫が、亜華魔姫ではなく、その背後の悪鬼の大軍に指を差しつつ、兵士達の心の戦火を吹き上がらせた。


「やれ」


一斉に響き渡る闇姫軍兵士の咆哮のような歓声!

ヒートアップした兵士達は砂煙を散らしながら闇姫の左右を通過し、目の前の大軍へ迫る。

亜華魔姫も勿論黙ってない。

「全員殺せ」

悪鬼達も獣のように吠え、悪魔達へ向かっていく。

蛇悪魔が象のような悪鬼に飛びかかり、雲のような体の悪魔が屈強な肉体の赤鬼に掴みかかり、鋭い牙の鼠の悪魔が爬虫類のような悪鬼に噛みつき…あらゆる異形の影が互いの肉体を削りあう。

叡光鬼は刀を振るって周囲の悪魔を散らしつつ、他の将に命令する。

「力将は地面を殴り、揺らして敵の動きを封じなさい!技将はあのバッディーという四本腕の球体悪魔を狙うのです!」

雑魚の処理を任された剛強鬼は少し悔しそうにしつつも地面を殴り付け、小型の悪魔兵士の動きを止める。

百戦鬼はバッディーに槍を向け、凄まじい速度で突っ込むが…。



突如、何者かがその槍を受け止めた!


「…!?」


百戦鬼の目の前に、紫の球状の悪魔…デビルマルマンが現れ、槍を受け止めていたのだ。

どうやら渓谷から響き渡る戦闘音を察知し、来てくれたらしい。

「こんな武器でマルマン系悪魔最強の俺と、魔王であるバッディーを倒せるとでも?」

百戦鬼は一旦下がり、槍を構え直す。

二対一だが、退く訳にはいかない。

「悪魔ども!私は退かんぞ!!」



叡光鬼は戦いに夢中な周囲の戦士達を見渡し、近くの岩に目をやる。

「さて…私は地獄石の回収に…」

叡光鬼が刀を岩に突き立てようとしたが…。

「っ!!」

突然殺気を覚え、飛び跳ねる。

直後、青い光線が叡光鬼の真下を通過、近くにいた何人かの悪鬼にぶつかり、爆発する。


…白衣を着た蛙のような怪人、ガンデルが、叡光鬼の背後に回り込んでいたのだ。

「あーあ、外しちゃった」

叡光鬼はガンデルのほんの僅かな振る舞いをよく見た。

僅かな腕の振るい方、立ち方、その視線、口調や声質…。


「おやおや。あなたも頭脳に自信がおありのようですね」

「分かる?これでも闇姫軍ナンバーワンの科学者でね。しかも…荒事までできるんだよ」

両手に水を纏わせ、構えるガンデル。

叡光鬼も、刀を向ける…。


バッディー、デビルマルマン、ガンデル。

そしてやはり、ダイガルもいつの間にか駆けつけてくれていた。

ダイガルは角から放つ雷で雑魚悪鬼を蹴散らしつつ、闇姫の指示を待つ。

「ダイガルはあの力将をやれ。あいつがいると兵士達が戦いにも採集にも集中できん」

敬礼と同時に剛強鬼のもとへ飛んでいくダイガル。



「おらああ!この力将を舐めるなよ!」

より力を込めて地面を殴り付けようとした剛強鬼だが…ダイガルが飛び出し、拳を身で受け止めた。

衝撃が周囲に放たれ、兵士や雑魚悪鬼は宙に浮く。

力自慢な剛強鬼は、自身の拳を身で受け止めたダイガルに動揺を隠せない。

「どうしたデカブツ?図体ばかりでかくて中身は小心者か」

「黙れ!!この…このひし形め!」

良い返しが思い付かなかった剛強鬼。悔しさを込め、左腕を振るう!!


闇姫が視線を兵士達に移すと、下級兵が岩を掘り続けており、彼らを囲うように上級兵が悪鬼と戦っている。予定通りの陣形だ。

「あとは私達がやりあうだけか」

闇姫と亜華魔姫が向かい合う。丁度ここは渓谷の中心部。大将の争いに丁度良い。

「…闇姫。首をよこせ」

「やるかよクソ悪鬼が」

闇姫の返しに、亜華魔姫は小刀を構えつつ突撃してくる!

衝撃を纏いながら叩きつけられる小刀。闇姫はその衝撃すら難なく左手で受け止め、右手で小刀をとる。

膝蹴りをお見舞いしようとしたが…亜華魔姫は華麗にバク転して素早く距離を離す。

離された距離を詰めるように闇姫は飛び出し、拳を突きだそうとする。

だが亜華魔姫は以前より遥かに素早い身のこなしで回避、瞬時に回転して切りかかり、小刀が闇姫の顔を掠めた。

血が出るのを見もせずに、闇姫は拳を振り上げる。

また亜華魔姫は素早く下がるが、これが闇姫の狙いだ。

闇姫は亜華魔姫が下がった先に瞬時に回り込み、背中を蹴っ飛ばしてみせた。

勢いよく前のめりに倒れそうになるも、その一瞬で小刀に魔力を込め、小刀を大太刀に変化させ、地面に突き刺す事で転倒を免れる。彼女の特技の一つなのだろう。

素早く体勢を立て直し、攻撃に移る。

回転しながら大太刀を振るう亜華魔姫。闇姫は下がってかわし、僅かに生じた隙を突いて手刀を突きだすが…大太刀が今度は通常の刀に変化し、突然振るう速度が上昇した!

闇姫は手を切りつけられてしまう。

手刀は無理と見て右足で亜華魔姫の脇腹を蹴りつけた!

「良い蹴りだな…だがこれはどうだ?」

重い一撃を負いつつも刀を赤く光らせ、カッター状の光線を発射、連発してくる!

華麗にかわす闇姫。しかしかなり正確な精度の光線だ。一工夫入れた動きをしないとかわせそうにない。

飛び跳ねた直後、翼を背中から射出して一瞬高く飛翔、高速で地面に降りて土砂を散らし、地面を転がって急接近、光線を放ち続ける亜華魔姫に下から蹴りを決める!

吹っ飛ばされる亜華魔姫。

「ぐっ…」

闇姫は白髪の姿も備えている事を忘れていなかった亜華魔姫はなるべくダメージは負いたくなかったのだが、やはり厳しかった。

とはいえ、闇姫も全く消耗していない訳ではない。

「前より腕を上げたな」

闇姫は翼を射出、より勢いをつけて接近し、渾身の一撃を決めようと拳を構える!


…亜華魔姫は吹っ飛ばされた状態で、こちらに向かってきた闇姫に刀から光線を発射してきた!

直ぐ様回避する闇姫だが…その瞬間、亜華魔姫は密かに笑みを浮かべた。

「…っ」

回避した際に生じた隙を突き、刀を更に振りやすい小刀に変形させ、こちらに向かってきた闇姫に素早く小刀を突き刺した!!

胸を刺され、闇姫の動きが止まる。

更に闇姫に刺さった状態で小刀を大太刀へ一気に伸ばす事で闇姫を貫通、そこから刀に赤いエネルギーを込めて燃えるような痛みを巡らせる!

闇姫の顔に僅かに苦痛が浮かぶ。亜華魔姫は表情を変えないまま大太刀を引き抜き、振り下ろし、闇姫を地面に叩きつけた。

叩きつけた際の衝撃で大気が揺れる。

血を流す闇姫を見て、悪鬼と戦っていた兵士達は闇姫へと視線を移す。

バッディーとデビルマルマンは百戦鬼の突き攻撃をかわしつつも、苦悩の表情を浮かべた。

ガンデルも驚き、その隙に叡光鬼の刀で頭を切りつけられる!

「ぐ…!」

よろめくガンデル。



デビルマルマンとバッディーは息を切らし、百戦鬼は槍を地面に突き立てて赤い長髪を風に揺らしながら余裕を見せた。

「降参しろ。地獄石を全て渡すなら命だけは見逃してやる。いかにお前達が悪魔と言えど、物で命には変えられまい」

それを聞いてバッディーが四本の手全ての拳を握りながら叫ぶように言った。

「調子に乗んなよ?俺達は世界が終わろうとも降参しない!」

直後、デビルマルマンが翼を広げてバッディーに続く。

「その通りだ!俺達天下の闇姫軍!下劣な悪鬼ごときに白旗はあげん!」

足を踏み出す両者。



そんな両者の声を聞き、ガンデルも体勢を立て直す。

叡光鬼はいかにも見下した感じの目で彼を見た。

それにも負けない程、哀れむような目で叡光鬼を見るガンデル。

「降参を求めるなんて、情けないね。降参させないといけない程自信がないのかな。もしかしてこれだけで勝った気でいるのかな?」

刀を構え直す叡光鬼。



…剛強鬼の拳を両腕で受け止めながら、ダイガルが叫ぶ。

「我ら闇姫軍!こいつらを永遠の闇に突き落とすまで戦いは終わらん!!」

それと同時に、悪鬼に押されていた兵士達が一気にヒートアップ、より大きな声をあげながら悪鬼達に突撃する。


亜華魔姫はこの状況の変わりように少々驚いているようだ。

…更にそこへ追い討ちがかかる。

「私の部下はよくできてるだろう」


…闇姫が起き上がったのだ。

亜華魔姫は大太刀を振り上げ、闇姫に向けるが…。



「…っ。白髪にはならないのか。まだ何か隠してるな」

亜華魔姫は、闇姫の新たな戦術を薄々予測していた。

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