邪神シンとうごめく影
邪神シン。
邪神というのは人間達が名付けた二つ名であり、本来は人間創造に力を貸した神の一角にして、地獄を創造した神。
そして、シンの力が加わった事で、人間達から発せられる悪意は悪鬼となる。
鬼子は、事務所でシンの伝承が書かれた本を読んでいた。
こうして見ると、シンは今回の悪鬼騒動の件においては元凶のような存在。
しかしながら、人間を作り、罪を罰する地獄を作り上げたのもまた事実。
果たしてシンは悪なのか、それとも正義なのか。
…悪や正義など関係ない領域にいる存在な事は承知していたが、そんな事を色々と考えていた。
「何を読んでおる?」
ソファーに、妖姫がのってきた。鬼子の読む本に興味津々だ。
鬼子は本のページを見せてあげる。
「…!」
妖姫の様子がおかしくなる。
右目が、とても悲しそうに歪んだのだ。
灰色の髪に隠された左目も今どんな目をしているのか分かる。
とても悲しそうな表情をしていた。
「…妖姫?」
妖姫は、本に書かれたシンの伝承画を見て硬直していた。
「…妖姫!」
鬼子が大きな声を出して、ようやく妖姫は我に返る。
「す、すまん。いやその…お前は昔悪鬼のせいで人生を壊された事があるんじゃろ。…れなから聞いたぞ」
鬼子は素直に頷く。
れなならきっと話すだろうと思っていた。仲間の辛い過去は、仲間同士で心を痛めてほしいだろうから。
「このシンさえいなければ…悪鬼など生まれてこなかったかもしれないのに。わらわは悲しいのじゃ」
鬼子は不思議だった。…いつもなら、こんな事を言うような子ではないのだが。
鬼子は笑って本を机に置いた。
「…そうね。でも」
鬼子の目を見る妖姫。
自分と同じく悲しそうな、しかしそれとはまた別のもの…決して悪い気持ちではなさそうな、不思議な顔をしていた。
…笑顔に近かった。
「悪鬼でも、世界に生まれてきた生き物でしょ?私達と、人間と同じく同じ空の下で生きる資格を与えられて、この世に生まれてきたのよ。…だから私、昔の自分の罪滅ぼしって意味もあるけど…悪鬼達とも仲良くやっていきたいのよ」
妖姫は意外そうな顔をしていた。
鬼子は少し恥ずかしそうにこう言う。
「…同じ木に生まれた木の実は、何も違うところなんてない。かっこつけた言い方をすると、こんな感じかしら…?」
妖姫は、黙って鬼子の手をとる。ひんやりとした小さな手が、鬼子の手を不思議と温めた。
「それでは次のニュースです。町の守護神パープルGが何者かに襲撃され、活動停止に追い込まれる事件が発生しました」
ここまでテレビは何気ないニュースを流していたのだが、突然こんな事が流れてきた。
二人の視線はテレビに向く。
巨大アンドロイドのパープルGが円盤に攻撃され、倒れるまでの一部始終が映し出されていた。
「これは一体…?」
…その頃、闇の世界にて。
赤い空の下、闇姫達はある敵との戦いに明け暮れていた。
「うおおお!!全員かかってこいやぁぁぁ!!」
赤鬼の上半身に獣の下半身を持つ悪鬼、剛強鬼が両腕を振るい、迫り来る紫の鎧の兵士達を凪ぎ払っていた。
突如闇の町へと侵入してきた悪鬼に闇姫軍兵士達は慌てている。
その凄まじい怪力に兵士達は成す術なく吹き飛ばされるのみ。
「俺は悪鬼だ!お前ら悪魔ごときが抗える訳がねえ!」
石造りの建物を粉砕しながら突き進む剛強鬼。
「そこまでだ」
そんな剛強鬼の前に、紫の球状の悪魔…デビルマルマンが降りてきた。
剛強鬼は容赦なく腕を振るうが、デビルマンはそれを軽くかわす。
かわしつつ、剛強鬼に問う。
「部下は連れてないのか?」
「これは俺の独断だ!!悪鬼の力を思い知らせてやろうとな…!」
一気に勝負をつけようと両手の拳を振り下ろそうとするが、デビルマルマンは剛強鬼の背後に回り込み、鋭い蹴りをお見舞いする。
剛強鬼が怯んだ隙に両手から紫色の魔力波を撃ちだし、剛強鬼の巨体を吹っ飛ばしてしまった。
派手に地面に墜落する剛強鬼。
「…妙だな。何でこいつ一人で…?やはりこいつも、地獄石とやらを狙ってるのか?」
気絶した剛強鬼を取り囲むデビルマルマンと兵士達。
「…ソサリ渓谷の調査を急いでもらった方が良いかもな」
デビルマルマンは遠くに見える黒い城へと飛んでいった。
場面は戻り、事務所にて。
しばらくテレビを見ていた鬼子と妖姫だが、何やら外が騒がしい事に気づく。
濡縁へ出てみると、外でラオンがナイフを振るって修行していた。何故かやたら張り切っている。紫の髪が美しくなびいている。
「どうしたのラオン?」
「最近人間達がまた新たな兵器を作ってるらしくてな…。私達がこの町の平和を守ってきたのに新たな兵器に浮気するなんて、ムカつくんだよ。だからこうして更に強くなろうとしてるんだ」
ナイフを振り、こちらに視線も向けずに淡々と話すラオンに、鬼子は呟くように言う。
「でも、人間としてはやっぱりどんどん平和を守る兵器も作りたいのよ。新たな仲間が増えればと思うと心強いじゃない」
ラオンはナイフを振るう手を止め、鬼子に歩み寄り、小型モニターをポケットから取りだして突きつけた。
…そこには、パープルGに対する批判的意見が無数に書き込まれていた。
「これ、全部ネットで書き込まれたものだ。私達もいつかこうなるぜ…」
役立たず、もう壊せ…と、パープルGへの心無い言葉が無数に綴られていた。
鬼子は黙りこむ。そんな彼女に、ラオンは続けた。
「勿論悪鬼や闇姫も放置できないが、人間はこういう時つくづく勝手だよ…。鬼子と火竜は勿論別だが、世の中には身勝手な人間が多いんだ。アンドロイドだから、人間じゃないから、ここまで言えるんだよな」
再びナイフを振りだすラオン。
…人間に文句を言いつつも、それでも悪鬼を始めとした敵と戦う気だ。
「私だって人間を守る為に戦うつもりだ。ただ、だからこそ人間には最低限の事に気を付けてほしいものだよな。マナーってもんがあるだろ。…不快な話をして、悪かった」
鬼子は妖姫を見る。
…その顔は、先程よりも更に悲しげだった。




