黒滅波
闇姫は、ある場所にやって来ていた。
黒い霧が全てを包み込む岩山だ。
ここは闇の世界にある岩山。何故こんな所まで来たのかと言うと、ある人物に修行を頼む為である。
空を覆う黒い霧がより濃くなり、目の前の断崖絶壁に何かが降りてくる。
…黒い体を持つ禍々しいドラゴンが降りてきた。
灰色の翼を生やし、先端が尖った尻尾を生やしている。胸には紫の巨大な宝石、体に漆黒のラインが血管のように張り巡らされている。
「久しいな親父」
…闇姫に呼ばれ、ドラゴンは口を開く。口から漏れる黒い煙…。
「随分と丸くなったようだな。この闇王の指導を求めるなど」
「それが娘に対する態度かクソ親父が」
ポケットに手を突っ込む闇姫…反抗する娘を見て笑う闇王。
両手をゆっくり上げ、構えをとる。
「善は急げだ闇姫。私はお前のように暇ではない。早く殴ってこい」
舌打ちすると同時に、闇姫は地を蹴り、闇王目掛けて突撃、途中で闇王そっくりな翼を生やし、闇王の額目掛けて拳を突きだす。
その勢いは、周囲の黒い霧が吹っ飛び、闇の世界特有の赤い空が顔を出す程だった。すぐ真下の岩山も崩壊し、頂点部分が欠けたみすぼらしい見た目になってしまう。
そんな攻撃を受けたにも関わらず、闇王は一切動じない。
闇王は闇姫目掛けて裏拳を叩きつける!
間一髪、闇姫は両腕を構えて受けをとる。
闇姫は赤い目を光らせ、真下にあった岩山目掛けて光線を放ち、バラバラに打ち壊す!
壊れた岩山の瓦礫が空中に飛び散り、闇姫は瓦礫から瓦礫へと飛び移り、闇王目掛けて飛び出す!
闇王は拳を突き出すが、闇姫は空中で回避、生じた隙を突いて空中で踵を振り上げる!
急降下し、踵落としへと移行するが…。
「フェイントが足りんな」
闇王は頭上に左腕を構えて軽々と受け止める。
また衝撃波が放たれ、空中に散っていた瓦礫は砂粒にも満たない程の粒子と化してしまう。
そのまま左腕を勢いよく振り上げる事で闇姫を空中へ投げ出す。
闇姫は無表情のまま背中から翼を広げ、両手に黒い光弾を形成、投げつけようとするが…。
「…っ!」
いつの間にか、闇姫の目の前に超巨大な黒い光弾が飛んできていた!
間一髪かわすが、かわしてる間にも闇王は右手に巨大光弾を形成し、投げつけてくる!闇姫がかわす速度よりも、闇王が光弾を作り上げる速度の方が上だ。
いつの間にか闇姫の周囲は黒い光弾で埋め尽くされてしまう。落ち着いて対処を考える闇姫だが…。
闇王はその巨体で瞬間移動にも等しい速度で動きだし、自身が放った光弾に掠りもせず闇姫の元へ向かう!
闇姫が一瞬表情を歪め、蹴りで反撃を試みるが、闇王は左手を突きだし、人差し指で蹴りを受け止める。
中指を振り上げて闇姫を打ち上げ、薬指を振り下ろして頭を叩きつけ、小指で腹を突き、親指を右腕に打ち付け、最後は平手打ちで闇姫の全身を叩きつける!
吹っ飛ばされる闇姫。吹っ飛んでいる途中に、闇王の尻尾が闇姫を叩き飛ばす!
地上目掛けて落下していく闇姫。先程までここには岩山が聳えていた。かなりの高さを落下してしまう。
闇姫は目を細めながら翼を羽ばたかせ、空中でバランスをとるが、闇王はそんな事すら許してくれない。
闇姫の目の前に飛んできて、右手の拳で殴り付け、左手の人差し指ではたき飛ばし、縦方向に一回転して尻尾を振り下ろし、再び地上へ叩き落とした!
更に念入りに闇王は両手の指から紫の小型光線を連射し、更に闇姫を押していく。
そして、地上に直撃する寸前で、闇王は人差し指を軽く振り上げた。
…同時に、闇姫がぶつかろうとしていた地面から岩の棘が生え、闇姫の体を貫いた。
吐血しながらも、闇姫はいつも通りの無表情で闇王を睨む。
「大人気ねえな」
「何だ?まさかこれで俺が力を出してると思ったのか?まだほとんど力を出してないんだぞ」
闇姫は岩から体を引き抜き、空飛ぶ闇王を見上げる。これほどのダメージを負ってもまだ立っていられるのだ。
「親父、教えろ。私には何が足りない」
「お前に足りないもの…それは『意欲』だ」
意欲…。流石の闇姫も首を傾げそうになる。
そのまま黙って理由を聞く。
「まずお前はこの闇王の後を継ぎ、世界を支配して何がしたい?」
「決まってるだろ。悪が栄える闇の世界を築き上げ、世界の全てを悪に変える」
闇王は腕を組む。形はドラゴンでも、そのオーラはどこか人間のようだ。
「…闇姫。それで、その後はどうする」
「何を聞きたいんだ」
闇王は翼を伸ばし、ゆっくりと降りてくる。
巨体が降りたにも関わらず、足音は一切鳴らなかった。
「俺は世界を支配したらこうしたい。まずはお前と同じく世界を悪に染める。そこからは俺を支配者として崇めさせ、手始めに俺を崇める像を建たせる。そして未来永劫この闇王の名が栄えるよう、儀式や風習を作り上げる…永遠に悪の世界が続くようにな」
闇姫は闇王を睨む。
つくづく自分より勝ってる部分が多い嫌な父親だ。
「俺はその世界を実現したくて仕方ない。だから、戦闘にも…」
闇王は突然両手を振り上げ、翼を羽ばたかせる。
闇姫も素早く反応して構えるが…。
突如、目の前の闇王の姿が消えた。
流石に驚き、背後をとられたかと振り替える闇姫。
だが、背後にも闇王の姿はなかった。
「…このように、身が入る訳よ!!」
…地面にヒビが入り、勇ましい声と共に地面が砕け、闇王の拳が突き出してくる!
何と、今まで目の前にいたはずの闇王が地中に瞬間移動していたのだ。闇姫は全身を殴り上げられてしまう。
地面に落ちる前に闇姫を蹴飛ばし、凄まじい勢いで地面に叩きつける闇王。
竜巻のような土砂が巻かれ、地球全土が一瞬揺れた。
…巨大なクレーターの中、闇姫は膝をついて息を切らしていた。
口から垂れる血を親指で拭き取り、尚も冷静な声を発した。
「野望というやつか」
闇王は頷く。そんな彼に、闇姫は近くにあった瓦礫に腰かけ、足を組みながら言ってみせた。
「良いだろう。私は闇の世界を作り、他の星にもこの手を伸ばす。地球どころか、宇宙全てを支配する、真の最強の悪魔を目指す。その第一歩…下劣な悪鬼どもを引き裂く」
それを聞き、闇王は恐ろしい高笑いをあげた。
「ふはははは…それでこそ我が娘よ。良いだろう。精神上の話はここまでだ。この技を教えてやろう!」
闇王は両手に黒い霧を纏いだす。
感じた事のない魔力だ。
闇姫の中の闇の魔力が、何故か異様に反応している。
そして、血が叫びだす。
強力な技が来ると、全身が訴えているようだ。
「黒滅波!!」
闇王が両手の黒い霧を叩きつけあうと同時に、霧が弾けるように周囲に広がり、広範囲に放たれる。
闇姫は避けようと飛行を始めたが…。
「…!何て速さだ。まさか…」
霧は凄まじい速さで上空の闇姫にも届き、呑み込んでしまう。
黒い霧に包まれた闇姫は、激しい悪寒を感じ、少しずつ体に痛みを覚える。
痛みはどんどん増していき、次第にあの闇姫が声をあげる程のものに。
「ぐあっ…」
苦しみながらも翼を羽ばたかせ、周囲の霧を払い除ける。
…闇王は、誇らしげに闇姫を見つめていた。
「その顔、どうやらこの技を理解したようだな」
「…闇の魔力を解き放ちつつ、空気中の魔力を侵食しながら敵に向かわせる…」
親指をたて、正解、という風な反応をしてみせる闇王。
…いわゆる範囲攻撃だった。
闇姫はすぐにこの技を気に入り、闇王に言う。
「親父、この技今すぐ教えろ。親父より使いこなしてやる」
「良いだろう。じっくりしごいてやる」
闇王は指を鳴らす。更に殴る気満々だ。
上等…今の闇姫の心情はその一言に尽きるのだった。




