ある人物との戦闘修行
れなは更なる修行の為、ある場所に向かっていた。
左手に杖を構え、黒い岩肌の異様な山を登っていく。
周囲には青い空、真下には名も知らぬ町の風景が。
ある人物と、ここで約束をしていたのだ。
「…ここか」
山の山頂に辿り着く。
近くの岩に、ある一人の男が座っていた。
スーツを着ており、真っ黒な体を持ち、両手の指が刃物のように鋭い。
頭の形が四角く、人間ではない。
その男は、れなに気づくと立ち上がり、その顔を見せる。
大きな牙が並ぶ口に、紫色に発光する四角い目。口内は青く、鼻はない。
奇妙な姿だが、れなは彼とはよく知り合っている。
…まあ、決して良い関係ではないのだが。
「…やはりあなたでしたかれなさん。宇宙を飛んでいる途中、どこかのアンドロイドが私に向かってテレパシーを放ってるのに気づきましてね。個人の特定まではできませんでしたがわざわざ私を呼び出すお馬鹿なアンドロイドと言えば貴女しかいませんし、すぐに分かりましたよ」
「急に呼び出してごめんジャーク。まだ逃亡生活続けてるの?」
ジャークは拳を握り、震えながら答えた。
「…当然ですよ!宇宙戦士のやつら、どこへ逃げても追いかけてくるのです…!私より追うべき連中もいるというのに、つくづく暇な方々ですよね!こうなったのも貴女のせいですよ!」
れなを指差すジャーク。指が鋭い事もあり、殺意が伝わってくる。
その視線は、れなの手の杖に向けられている。
「…さあ、用件を言いなさい」
「ジャーク、私を鍛えてくんない」
…数秒、沈黙がよぎる。
れなとジャークだが、今はこうして面と向かって話しているが、本来は敵同士なのだ。
そんな敵に対し、何を言っているのだこのバカ女は、とジャークはつくづく呆れた。
れなは杖を掲げ、黒い光を杖に集め…黒髪になり、杖を地面に突き刺した。
有無を言わさぬつもりだ。
震えながら構えるジャーク。恐れではない。怒りから来る構えだ。
…ジャークはかつて、この姿のれなに敗れた事があるのだ。
「れなさん。相応の報酬はあるんでしょうね」
「一週間だけ地球に身を隠してて良いよ。ただし、悪い事したらすぐ宇宙戦士にチクるから」
ジャークは少し俯き…すぐに顔をあげた。
この遊戯に付き合って、一週間この星に滞在できるなら。
「…行きますよ!」
ジャークは飛び出した。
そして、小手調べに右手の拳を突きだす。
れなは右手の平で力強く受け止めた。
受け止められた瞬間に左足で回し蹴りを放つジャーク。れなはバク転して回避。この姿になれば動体視力も上がる。これくらいは余裕だ。
今度はれなの番だ。ひたすら拳を打ち込み続け、両腕を構えて防ぐジャークを押し出していく。
身震いするような力が拳の一発一発に込められている。
「まあ、流石とでも言っておきましょうか…。でも貴女、その姿は消耗が激しいんでしょう?その攻撃、賢明な判断とは言えませんよ!」
素早くれなの顔を蹴飛ばし、その衝撃で宙に浮き、そのまま空中飛行を開始するジャーク。
れなは見上げながら顔を撫でた。
「私を鍛えてって言ったじゃん。消耗の大きい技を繰り出しても変身が解けないように、持久力高めてほしいんだよ」
「なるほど…?そう来ましたか。なら…」
ジャークは背中を丸め、力を集中する。
…すると、ジャークの体が変化していく。背中を中心に筋肉がついていき、首と胴体が同化して蛇を思わせる頭に。
手足も屈強なものになり、怪獣のような体型に。大きさの方はそのままだ。
変形したジャークは地上に降り、体全体を使ったタックルで攻めてきた!
れなは両手で受け止める。避ける事もできたが、なるべくこの黒髪状態を保つ練習の為にわざと受けの姿勢をとっているのだ。
自身の肉体に対して受け一方のれなに容赦なく左手の爪を振るうジャーク!
切りつけられ、れなが怯んだ隙に頭突きを決めて吹っ飛ばした!
「ぐああ!!」
れなは勢いよく後ろに転がっていき、断崖絶壁のギリギリでどうにか体勢を取り直す。
「あなたの勢い、そんなものではないと知ってますよ」
ジャークは再び空中に飛び上がる。れなも飛び上がり、お返しとばかりに拳を叩き込んだ!
ジャークは石頭で拳を受け止めるが、それと同時にれなは足を振り上げ、ジャークの胸を蹴りつける!
「ぐふっ!」
怯んだ、今だ。
心でそう呟くと同時に、れなはひたすらジャークを蹴りつける!普段の倍以上の速度で足が出る。
ある程度蹴りつけると、とどめとばかりに回し蹴りを繰り出した!
転がっていくジャーク。先程のれなと同じ状況に立たされてると気づいたジャークは直ぐ様足を地面に突き刺し、自身の動きを止め、そのままれな目掛けて飛び出す!
…しかし!
「くらえやぁぁぁ!!」
れなもジャークに飛び込んでいき、顔面に拳を叩きつけた!!
「ぐおああああ!!」
こればかりはジャークも声を荒げるしかない。強烈だ。
それに、この一つ一つの行動に対応していく冷静さ、そして行動力…黒髪で単に強化されるのは戦闘力だけではないようだった。
震えながら膝をつき、呟くジャーク。
「…まるで闇姫さんと戦ってるようですよ」
「はあ!?あんなやつと一緒にすんな!」
ゆっくりと立ち上がり、ジャークは両手の拳を握る。
そして、またもや力を高め出した。
「こうなれば…私の持てる全ての力を使うしかありません!」
今までとは比較にならない勢いで魔力を上昇させていくジャーク。
れなもまた、その気迫に負けぬよう深く構える。
…丸まったジャークの背中は少しずつ元の形に戻っていく。両肩と背中、頭部からは青いクリスタルが形成されていき、紫の目は赤く染まり、羽のような異形へと変形する。
黒い体に赤と紫のライン模様が浮かび上がり、背丈も最初のジャークよりも高くなる。
これが、ジャークの最終形態だ。この姿ともれなは一戦交えた事がある。
…黒髪状態でも勝てるか分からない。
だが自分から仕掛けた勝負。退く訳にはいかない。
ジャークは右手の指を天に向け、黒いモヤを指先に集める。
ジャークの必殺技、悪霧魔波だ。これ一つで星を滅ぼす程の威力があるのだという。
容赦なくれなに悪霧魔波を発射!更に飛んでいく悪霧魔波と共にジャーク自身も突進していく。
れなは右手の平を構え、叫ぶ。
「ブラックオメガキャノン!」
右手から放たれる黒い破壊光線。悪霧魔波を貫き、瞬時に消滅させる!
同時にその先にいたジャークにもぶつかろうとする光線だが、ジャークはこの攻撃を読んでいた。
「軌道さえ読めてればこんなもの!」
右手に魔力を集め、光線を叩きつけるジャーク!光線はれなの方へと弾き返されていく。
だがれなもまた、この反撃を読んでいた。足先にエネルギーを集中させ、光線を蹴りつけてまたもやジャークへ向かわせる!
両腕を構えて防御を試みるジャークだが、れなは光線と共にジャークへと向かう!
「ふっ!」
光線が迫ってるにも関わらず、即座に防御を解き、右手の人差し指を構えるジャーク。
同時に背中を大きく反らし、光線を避ける姿勢に出る!防御より回避を選んだのだ。
そして指先からまたもや悪霧魔波を放とうと、黒い霧を集めるのだが…。
「そうはさせない!」
れなはジャークを蹴りあげる!
蹴りの勢いで上昇するジャーク。これにより、光線の軌道に入ってしまう。
「しまっ…」
言いかけながら、ジャークは光線に飲み込まれた!
勢いよく黒い爆発が発生し、ジャークは山へと叩き落とされる…!
「ぐぬうう」
全身から煙をあげながらもまだ立ちあがり、空中のれなへ飛んでいくジャーク。
今度こそとどめだ。
れなは右足を振り上げ、向かってきたジャークの頭部へ踵を叩きつけた!!
「っ……」
ジャークは、再び山へと叩きつけられた。
…一見、れなの圧勝に見えるが…れなの髪も、戦闘が終わるなりすぐに元の髪に戻ってしまう。
「ああ…人工の心臓が震えたわ」
胸を押さえるれな。
慣れない姿で強敵を相手する…よく考えれば無茶な事だ。
勝てたのは運が良かっただけだろう。特に最後の光線の弾きあいは、内心ヒヤヒヤしていたものだ。
「…はあ…。ほんと、気にいらない人ですよ、貴女」
元の姿に戻り、仰向けになって青空を見上げるジャーク。
…その横で同じように仰向けになるれな。
「やー、負けるかと思った。流石ジャーク」
「貴女ですね…。それ負けた方から言われるとどれだけ悔しいか…」
立ち上がるジャーク。れなも真似するように立ちあがる。
「…用事は済んだのでしょう。さあ、私はこれで失礼しますよ」
飛び立とうとしたジャークに手を伸ばすれな。
「え、待って!一週間泊める話は…」
「…よくよく考えれば宇宙戦士など私の敵じゃありません。もしまた追い付いてきたら、その時は真正面から正々堂々と潰して見せますよ。…何より、私には悪さをせずに生きていくなど不可能です。悪さをすれば貴女とまた戦う事になるでしょう!」
振り替えるジャーク。
「何より、貴女のような人と毎回戦うなど、私はごめんですからね!」
再び空に向き、勢いよく飛び去るジャーク。
…れなは笑った。
遠回しに、強さを称賛してくれたのだ。
「…私も、ジャークに余裕で勝てるぐらい強くなってやる!」
れなは杖を引き抜き、再び修行を開始したのだった。




