闇姫VS亜華魔姫!
「亜華魔姫様。ご報告に参りました!今日の天気は晴れです!」
とある場所に聳え立つ悪鬼達の城。
夜闇が支配する夜空の下にて。
悪鬼を取りまとめる悪華魔姫は白い髪を揺らしながら城の露台から青空を見上げていた。
後ろには赤い小鬼達が。
「ご苦労だった。引き続き地獄石の捜査に向かえ」
小鬼達は頭を下げた後、嬉しそうな足取りで城の中へと向かった。
「亜華魔姫様」
またもや報告だ。
この声は…亜華魔姫の片腕とも呼ぶべき配下、叡光鬼のものだ。
振り返ると、相変わらずのスキンヘッドに黄色い角、紬。
叡光鬼は頭を下げた。
「侵入者が現れました。こちらをご覧下さい」
叡光鬼が右手を振り上げると、空間が歪み、やがて空間の穴が空いた。
穴のなかに、何かが浮かび上がる。
それは、この城の入り口を映した映像だった。
紫の鎧を着た騎士達が、城の門の前に整列している。
勿論亜華魔の軍の者ではない。やつらは…。
「悪魔…闇姫の差し金か」
「よくご覧下さい。闇姫本人もおいでですよ」
よく見ると、騎士達のなかに闇姫も紛れてる。
黒いツインテールは集団のなかでは目立つはずだが、背が低くて分からなかった。亜華魔姫の表情が引き締まる。
…闇姫は、騎士達を統制していた。
「ようやく突き止めたな。ここが悪鬼の拠点だ。我が軍は百竜をも凌ぐ漆黒の軍。しかしながら相手は悪意の化身。油断はするな。あまり騒がず、静かに向かうぞ」
「おおー!!!闇姫様の仰せのままにぃぃぃぃぃ!!」
騎士達は剣を引き抜き、天に届くような声を響かせ、闇姫への忠誠を誓う。
「…声がでかい」
呆れる闇姫。
…同時に、何かが城から飛び出してきた!!
それは、無数の矢だった。
ただの矢ではない。赤く輝く魔力が宿る不気味な矢だ。
当たればただでは済まない…!
「いくぞバッディー」
闇姫は飛び跳ねると同時に呟き、ポケットから何かを取り出す。
黒い球状の体に四本の腕を生やした悪魔…闇姫四天王のバッディーだった!明らかにポケットに入る大きさではないのだが…。
飛んできた矢を素早く掴む闇姫とバッディー。
四本の手で矢を掴みながらバッディーは笑った。
「闇姫様のポケットは快適ですな!」
やはり、どう見てもポケットに入る大きさではないバッディーに、騎士達はざわめく。
そんな彼らに、バッディーが怒号をあげた。
「お前ら!!今気づかれたばかりだろうが!少しは黙れないのか!!」
「す、すみませえええん!!」
兵士達は一斉に静かになる。…謝罪もまた、やたら大きな声だった。
四本の腕をそれぞれ組むバッディー。
「全く、お前らには期待してるんだ。早いところ悪鬼達を潰すぞ!」
また大きな声を出しそうになり、急いで引っ込める兵士達。
そんななか、闇姫が何かに気づいた。
「おい。何か降りてきたぞ」
闇姫が指差す方向は城の上。
…城の上から、白い髪をなびかせながら一人の女がゆっくりと降りてくる。
血のように赤い着物だ。
真っ赤な目を光らせながら降りてくる女。
その目を睨み付ける闇姫の左目もまた赤かった。
右目を隠す眼帯を少し整えて、闇姫は女が地に足をついたのを見届けた。
「『亜華魔姫』か」
「名を覚えてもらえて光栄だ。最強の悪魔『闇姫』」
亜華魔姫も闇姫の名を覚えていたが、闇姫はふん、と胸を張ってみせた。
名を覚えてもらえて光栄などという言葉は、誰よりも上に立ちたい闇姫には一生縁のない言葉だろう。
「して、悪魔ごときが何の用だ。近い未来我ら悪鬼の目的が達成される。今のうちにコネを売っておいた方が良いと思うがね」
「悪鬼はなかなか使える存在だ。だがそんな態度をとっている時点でバツをくれてやりたいところだな。まあ、私の足を置く踏み台の仕事は与えてやっても良いが」
闇姫は足をゆっくり上げ、自分より少し背の高い亜華魔姫の顔面にひょいと足を張り付けてみせた。
緊迫した光景だが、バッディーは闇姫の柔軟性に心底驚いた。
…直後、この時はまだ落ち着いた状況だったと一同は思い知る事になる。
…闇姫は、即座に足を引っ込めた。
同時に亜華魔姫は突然左手を振り下ろす!!
銀の閃光が走ると同時に、亜華魔姫の左手に刀が出現した!
「…!!うおおおおおおお!!!」
同時に、兵士達は叫んだ。
悪鬼の城の門が開き、無数の小鬼が飛び出してくる!
小鬼の金棒と兵士の剣がぶつかり合う。
バッディーは、小鬼達のなかに一つだけ小鬼とは異なるシルエットがあるのに気づく。
スキンヘッドから黄色い角を生やした老人…叡光鬼だ。
亜華魔姫と同じく刀を持っている。それに対して四本の腕を構えるバッディー。
「あなたが闇姫軍四天王のバッディーさんですね。四本の腕による手数攻めに入ればいかなる相手も余裕を保てない。好きな食べ物は紫プリン」
「お前凄いな!俺のファンか何かか?」
バッディーが四本の腕で同時に拳を叩き込む!
叡光鬼は背後に跳ねつつ、刀を地面に叩きつけて地割れを起こす!
飛行するバッディー。
頭だけじゃない。かなりの刀の腕だ。
「誰がそんなものに。私は知将と呼ばれる悪鬼でございます。あなた方全員の情報は全て把握済み。兵士の方々のお名前はそれぞれ田口さん、山中さん、古山さん、真倉さん…」
「すげえ!マジで全員の名前知ってるのかよ、その様子だとどうやら闇姫様のスリーサイズも知ってるようだな!許さん!!」
バッディーは驚きっぱなしで拳を突き出しまくり、叡光鬼は自慢の頭脳で拳の軌道を読んでひたすら避け続けた。
「さすが闇姫…。一度私に膝をつかせただけの事はある。私の刀にここまで負わせるとはな」
亜華魔姫も驚きを隠せなかった。これまで多くの敵を切り裂いてきたであろう刀が闇姫の打撃で傷だらけになっていたのだ。
しかし、亜華魔姫が刀を天に掲げると同時に刀は赤い光を纏い、刻まれていた傷が全て修復されてしまう。
闇姫は拳を構えたままそれを睨み付けた。
そしてそこから更に激しい攻撃の打ち合いとなる。
閃光を放ちながら振り回される刀に対し、闇姫は黒いオーラを纏う拳を使って刀を受け流す。
隙を突き、亜華魔姫の顔面に拳をお見舞いするが、亜華魔姫もよろめき際に刀を闇姫の頬にぶつけてみせた!
互いに距離を離す。闇姫は頬から垂れる血に目を向け、舌打ちする。
「中々鍛えてきたじゃねえか。だがあいにく私の妹が刀の使い手でな。やつとの取っ組み合いである程度は慣れてる。簡単に倒せると思うな」
闇姫は両手を下ろし、全身の力を抜く。
目を閉じ、意識を集中させる。
「!闇姫様のあのお姿が見れるぞ!」
兵士達は剣を振るいつつ闇姫を見た。
闇姫のツインテール髪が少しずつ白い光に包まれていき、やがて全身が美しい閃光に包まれる。
亜華魔姫は、表情を固めたままその光景を見つめていた。
…そして。
闇姫の髪は白く染まり、今までとは全く異なるオーラを纏いだした。
変わったところは髪色くらいで、赤い左目も眼帯も変わらないが、亜華魔姫の刀を握る手により力がこもった。
理性的な警戒ではない。その力に、亜華魔姫の潜在的な意識が危険だと訴えていたのだ。
叡光鬼とバッディーもその光景を見ていた。
こればかりは、叡光鬼も少し顔を下げて不安を浮かべる。
「…あれが噂に聞く闇姫の超変身ですか。何でも闇を極めた先に光をも手にしたのだとか」
バッディーはニヤリと笑う。
「…はぁっ!!」
亜華魔姫は今までにない勢いで声を張り上げ、低空飛行しながら闇姫へ向かう!
闇姫は、パキパキと指を鳴らすばかりで構えようともしない。
亜華魔姫の刀が闇姫の首に直撃しようとしたまさにその直後…。
…気づくと、亜華魔姫の視界は天に向いていた。
夜空を見上げながら、亜華魔姫は空高く吹き飛ばされていたのだ。口からは、血を吹き出していた。
慌てて下を見ると、左手の人差し指を構えた闇姫が立っていた。
まさか…あの指で突き飛ばされたというのか?
よく見ると闇姫は右手にも何やら構えを作っていた。
「亜華魔姫様、危ない!!」
叡光鬼の声が響いた頃には遅かった。
闇姫は、右手の指を軽く鳴らす。
…同時に、亜華魔姫の背中から凄まじい豪音が響き、白と黒の異様な大爆発が起きた!!
亜華魔姫は勢いよく地面に叩きつけられ、真っ赤な着物は背中から飛び散った血で更に赤くなる。
叡光鬼は地に伏す亜華魔姫に急いで駆け寄ろうとするが、バッディーが四本の腕を広げて素早くそれを阻む。
震えながら亜華魔姫は闇姫を睨んだ。
闇姫は表情を変えず、かつ今の攻撃の姿勢すら全く変えない、つまり指を鳴らした直後の姿勢のまま話した。
「お前が飛び込んできた辺りから、私の魔力を手早く背中に纏わせておいた。飛び込んだ時点でお前は私の指と魔力の挟み撃ちにされてたのだ」
主を傷つけられた小鬼達は怒り狂い、闇姫へ向かってくる!恐ろしい形相は完全に理性を失っていた。
これが悪鬼の本性…あらゆる生物を殺す文字通りの殺人鬼だ。
「雑魚ごときが闇姫様に触れるな!」
バッディーが小鬼達を掴んで一人一人を投げ飛ばしていき、一ヶ所へ集める。
集まった小鬼達目掛けて飛びはね、四本の手を叩きつける!
同時に小鬼達は凄惨な音と共に押し潰され、血が飛び散る。
「…!ぐっ!ぎぎっ!!
闇姫の首筋に食いつこうとする一人の小鬼がいたが、闇姫は手のひらを向け、そのまま小鬼の頭を握り潰してしまう。
小鬼の頭は…あまりの握力で赤い砂粒と化していた。
一瞬だった。痛みも感じなかっただろう。
そんな光景を見せられても、亜華魔姫は尚闇姫を睨んでいた。
「亜華魔姫様!」
叡光鬼が亜華魔姫を抱え込み、門へと駆けていく。
闇姫軍の兵士達が手から紫の光線を放つが、叡光鬼は左手を振り上げ、白い光の壁を張って攻撃を防ぐ。
あっという間に城へと駆け込んでいく。追おうとした兵士達だが…。
「待て」
闇姫がそれを止めた。
…直後、地響きのような豪音が響き渡る。
…見上げると、何と城が動いていたのだ。
驚く兵士達を尻目に城は北へと進んでいく。
何かに引きずられてるように見えるが…確かに城そのものが動いていた。
兵士達は驚きのあまりまた騒ぎ立てているが、闇姫とバッディーはもはやこのくらいは慣れっこだった。冷静に城を見届ける。
悪鬼を知り尽くしたつもりでいたが、またもやこうして未知の要素に遭遇しようとは。
「我々も動く城にでも乗って遠足でもしたいものですね…」
バッディーが呟く。
闇姫は、自身の頬の傷を見た。
「…」
亜華魔姫の一撃…警戒する必要がありそうだった。




