キノコ悪鬼 茸鬼 化けキノモ
「今度こそは地獄石を手に入れるぞ」
ある町のあるビルにて。
何人かの男達に、赤いスーツを着た男が指示を出していた。
壁には「悪鬼撲滅」とテーマを掲げた貼り紙があった。
部下のうち一人がリーダーと思われる赤スーツの男に問う。
「リーダー。地獄石とはそもそも何なのか教えて下さい。我らはそれすら知らされずに毎日地獄石の探索に勤めております。せめて詳細を教えて下さっても良いのではないでしょうか」
リーダーと呼ばれた男は顔をあげ、即答した。
「詳細は教えられん。ただ我々に救いを与えるエネルギーを秘めている事だけは伝えておこう」
ため息をついて持ち場へ戻っていく部下達。
リーダーの目は、何かを睨むようにつり上がっていた。
不穏な動きのあるなかで、葵とラオンは妖姫にある事を頼んでいた。
「このキノコ採ってくるのよ?今日のキノコパーティの材料だから」
葵が、背中にカゴを背負う妖姫と目線をあわせながら彼女の小さな手に赤いキノコの写真を置く。
妖姫は不服そうな顔をしていた。
その横でラオンは腕を組みながら呟くように言う。
「住まわせてやってんだ。お使いぐらい行くんだな」
「何じゃと!お前、前から思ってたがあまりにも礼儀がなっとらんぞ!」
ラオンに頭突きしようとする妖姫を押さえつける葵。
動けない妖姫を見下ろしながら、ラオンは笑う。
「こんな挑発にのるとはまだまだガキだな」
「お前ぇ!!ブドウみたいな髪の色してるくせに!」
その一言に明らかにカッ、とした顔をするラオン。煽った方が煽りにのってどうするのか…。
結局葵がなだめてくれたのだが、妖姫は地団駄を踏みながら森へと向かった…。
妖姫の姿は周りには見えていない。かつ森には狂暴なモンスターもほとんど現れない。
このお使いは特に問題の無いもの…のように見えた。
あっという間に森に辿り着いた妖姫。やはり不服な顔をしつつも割と素直にキノコを探しだした。
途中、地面に這いつくばり、芋虫のように動きながら虫視点で探し回ると言う明らかにしなくて良い奇行に出る。
「何でわらわがこんな地べたを這いながら探検しないといけないのじゃ!」
しばらく這い回り、茂みに入り、柔らかい土の上に出た時…。
「あっ!」
思わず声があがる。
茶色い土の上に赤く、綺麗なカサのキノコを発見する。
それも一本や二本ではない。無数のキノコが集中して生えていた。
早速妖姫はキノコを引っこ抜き、カゴに入れ始めた。
これならすぐに帰れそうだ。
妖姫は少し楽しくなってきた。キノコが面白いくらいスポスポと抜けるからだ。
あっという間にそこら中のキノコを全て取り尽くしてしまう。カゴにはまだスペースがあった。
こうなれば他のキノコも適当に取っておこうと調子に乗り出したのだが…。
「ぐがああああ!!」
突如恐ろしい叫び声と共に茂みからモンスターが現れた!
巨大なキノコのような姿をしている。
胴とカサの部分に悪そうな顔がついた姿をしている。屈強な手足も生えている。
葵はモンスターなどいないも言っていたのに…。
「葵!!騙したなぁぁ!!」
モンスターが振り下ろしてきた拳をかわしつつ妖姫は叫ぶ。
モンスターは容赦無しに妖姫に蹴りをかまそうとしたのだが…。
そこから更なる乱入者が現れた。
「がぁぁぁぁぁ!!」
新たな乱入者も、同じような野蛮な叫びをあげながら木々を薙ぎ倒し、キノコモンスターに突っ込む。
全身からキノコを生やし、頭にもキノコのカサがある赤鬼だ。よく似たやつだ。
「こいつは…茸鬼!」
妖姫はこいつの名前を知っていた。キノコの悪鬼だから茸鬼。そのまんまだ。
「確かこいつは」
言いかけると同時に茸鬼は頭を振り回しだす。
周囲に黄色の粉が散布されていき、キノコモンスターが咳き込みだした。
妖姫も咳をし始める。
「毒胞子!早くここから逃げなければっ!!」
立ち去ろうとする妖姫だが、不運にも木の根につまづいて転んでしまう。
更に不運とは続くもので、キノコモンスターが茸鬼を殴り飛ばし、妖姫目掛けて茸鬼の尻が飛んでくる!
このまま文字通り鬼の尻に敷かれて死ぬのか…いや自分はそもそも死んでるので二重に死ぬのかそれとも…。
と色々考えていると、尻がすぐそこまで迫っていた!
「ギャアアアアアア!!!!」
今までにない叫びをあげる妖姫!
だが、不運の後には幸運も続くらしい。
突如茸鬼は方向を変え、妖姫のすぐ横の地面に勢いよく墜落した!
呆然と見上げる妖姫。そこには…。
「危なかったな」
紫の髪を揺らすラオンが立っていた。
すぐ横にはライフルを持つ葵も立っている。
「ごめんね妖姫。このモンスター、本来はこの辺にいないはずなんだけど…!」
突進してくるキノコモンスターにライフルを向け、発砲!
勢いよく吹っ飛ぶキノコモンスターにラオンが突っ込んで蹴りをかまし、更に勢いをつけてみせた!
ライフルを下ろしつつ、葵はキノコモンスターの気絶を確認しにいく。
「こいつは化けキノモ…。やっぱりこの辺りにはいないはずなんだけど…」
隙だらけとばかりに茸鬼が飛びかかり、拳を叩き込もうと拳を振りかぶる!
葵は直ぐ様茸鬼にライフルを向け、銃弾を放つ!
銃弾は茸鬼の額に直撃、血を吹き出しながら苦痛に顔を歪める茸鬼。
しかし茸鬼は化けキノモのようにはいかない。
全身のキノコが震えだし、勢いよく空中に発射され、三人目掛けて飛んでくる!
葵は飛んでくるキノコに銃撃、ラオンはナイフで弾けさせ、妖姫はやはり転がってかわす!
しかし、弾けた瞬間にあの黄色い粉が吹き出し、場が黄色く染まる。
「二人とも気を付けろっ!これは毒ガスゴホッ!!」
苦しそうに咳き込む妖姫。
葵とラオンはアンドロイドなので影響を受けていないが、黄色く染まった霧に包まれ、更に森の木々も邪魔して視界は最悪だ。
辺りを見渡している葵目掛けて飛んでくる茸鬼の拳!見事にぶん殴った。
「うぐ!!」
吹っ飛ばされつつもライフルで狙撃しようとするが、どうやらこの霧のなかは茸鬼のテリトリーらしい。
まるで空中飛行していると錯覚するくらい華麗な動きをしながら接近し、葵を踏みつけてきた!
「ぐぁっ…」
何度も葵を踏みつける茸鬼。
葵は何とか立ち上がるが、容赦なく茸鬼の拳が襲いかかる。
妖姫は葵を助けようと飛び出していくが、ラオンがそれを止める。
「待て…!煽りとかでも何でもなく、お前の戦力じゃ敵わない!」
「そ、それでも、葵が全力で尽くしてくれてるのに主たるわらわが何もしないでどうするのじゃ!」
ラオンの手を噛み、無理やり振りほどく妖姫。
そのまま無我夢中で葵に飛び跳ねる!
…妖姫の体が一瞬紫色に輝いた。
「…んっ!?」
真っ先に声をあげたのは妖姫だった。
奇妙な事が起きた。
…妖姫の姿が薄くなり、葵の背中側で宙に浮いていたのだ。
紫の粒子が周囲に飛んでおり、葵とは別のエネルギーが葵を覆ってる。
「ええ!?」
驚く妖姫。当然葵とラオンも驚きを隠せない。
しかし、これは思わぬ好機だったのだ。
「…!立てる!」
葵はすぐに立ち上がり、ライフルを茸鬼に向ける。
引き金を引くと銃口が輝き、五発の弾丸がほぼ同時に連射される!
「ど、どうなってんの!?」
撃った葵が一番驚いてる。
茸鬼は弾丸に打ちつけられて派手にひっくり返る。
何が起きてるのか分からないが、とにかく今はこの訳の分からない勢いにのるしかない。
葵が飛び跳ねると、後ろの妖姫もついてくるように飛び跳ねた。葵の背中にぴったりとくっついてくる。
蹴りを叩き込むと、茸鬼は暴風を放つ勢いで吹っ飛ばされる。いつも以上に力が出ている事が分かる。
更に拳を叩き込んでダメージを蓄積させていく。
「ラオンお願い!」
葵の勢いに呆然としていたラオンだが、その一言ではっ、と集中を取り戻す。
吹っ飛んでいく茸鬼目掛けてラオンはナイフを紫電に包みながら斬撃をぶちかます!
茸鬼は斬撃の勢いで上に飛ばされ、森の木々を突き抜け、葉っぱの雨が降り注いだ。
「そこだわ」
葵は冷静に呟き、ライフルから輝く弾丸を発射した。
弾丸は茸鬼の背中にぶつかると同時に大爆発!
とうとう森より遥か先へと吹き飛ばされていった。
…戦いが終わると、葵の背中から妖姫が離れ、尻餅をつく。
「葵、妖姫、今のは…?何か凄かったが…」
ラオンが駆け寄る。
妖姫は何とかかっこつけたくて胸を張りながら言った。
「じ、実は今のはわらわの真の力なのじゃー!。」
「使い慣れてた能力なのにあんな初見みたいな反応するのか?」
すっかり喋らなくなる妖姫。妖姫もぶっつけ本番でやっただけでやり方も詳細も一切分からない。
今たまたまできただけなのだ。
「…う、うん!今できたのじゃ!今はじめて!」
…ほんの少しだけ、妖姫はおかしな素振りを見せていた。
「…名付けるとしたら、今のは『憑依』だな」
妖姫は悪霊だ。だから憑依したと言う他なかった。
…しかし、つくづく妙な悪霊だ。
とにかく、今回は妖姫のおかげで助けられた。
「キノコは苦手なのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
その日の夜、キノコ鍋を前に妖姫の妖姫はあちこちを逃げ回っていたという…。




