悪鬼と地獄石と暴虐 冷鬼
「悪鬼だ!!」
テクニカルシティの目立たない小道にて、ビルに挟まれる道のなか、複数人の人間が何かを取り囲んでいた。
それぞれバットやら鞄やら…手に持っていた道具を使ってそれを袋叩きにしているようだった。
「…ついにこの町にも悪鬼が出始めたか。悪鬼殲滅隊に報告するぞ!」
事が済むと、人間達は去っていった。
…しばらくして、空中から地上を調査していた葵が、緑のサイドテールを揺らしながら降りてきた。
放置されていたのは、全身から血を流しながら倒れる無惨な赤い小鬼が。
葵は一応隠していたハンドガンを向けながら近づく…息はもうない。
「…きっとこの後はゴミとして処理されてしまうのね」
物悲しげな顔をする葵。
とにかく、ここに悪鬼がいたという事は異常事態だ。葵は拠点である事務所の仲間達に報告しようとするが…。
「これはまた、人間も派手にやるな」
葵はその声を聞き、即座にハンドガンを向けた。
…ビルの上から、灰色の翼を広げた闇姫がゆっくりと降りてきたのだ。
「闇姫!何でここに!?」
「ドーナツを買っていた。人間はドーナツを作る技術だけは称賛に値する」
ドーナツが入っているであろう袋を揺らしながら地上に降りる。
葵の横に立ち、無惨な悪鬼の死体を見下ろす。
無様そうに見下ろしつつも、どこか別の嫌悪を感じているかのような顔をした。
「悪鬼だからここまでやれるのだな。元はと言えば自分達の悪意から誕生した存在だと言うのに、他人事のように」
葵は闇姫を睨みつつも、銃を下ろす。横顔を向けたまま、闇姫は言った。
「鬼子や火竜のような良い人間もいる、お前はそう言おうとしているだろう。愚かしい人間でもまともなやつはいる、お前はそう言うだろう」
葵は、闇姫から視線を下ろす。
「本当に人間という生き物は愚かだな。親父と共に宇宙を渡り歩いた事もあるが、ここまでクソみてえな生き物は見た事がない」
闇姫は昔から人間を見下す。そして今回はその人間の悪意から誕生した悪鬼が敵だ。
いつも以上に、人間への当たりが強かった。
単純に機嫌が悪いだけかもしれないが…。
悪の道を行く闇姫には、悪意から誕生した悪鬼は、自分と重なるのかもしれない。
まあそんな事を本人に直接言えば、こんな下等などと一緒にするなとでも言いそうなところだが。
「言っておくが、私はこいつに同情などしていない。同じ悪の道を行く者でも私とこのカスとでここまで違うのかと呆れてるだけだ。たかが人間ごときに。こんな下等などと一緒にするな」
やっぱり、とでも言いたげな葵。
…その後は闇姫はまたいつものように自分の城に帰ってしまい、葵も事務所へと帰った。
今日も事務所では妖姫がれみと一緒に人形遊びしており、その向こうのソファーでは粉砕男が新聞を読んでいる。
新聞紙を下ろしてこちらを見る粉砕男。端から見れば父親だ。
「今日は早かったな。何かあったか?」
葵は粉砕男に先程の事を話す。
一連の話を聞いた粉砕男はうーむと腕を組んで深刻そうな顔をした。
「悪鬼が本格的に町に現れた事、人間達の過激な言動、それに闇姫がその光景を見に来た。悪い事が山積みだ」
まさにその通り。数分のなかに色々な不安要素が出てきていた。
「悪鬼は鬼子と火竜が頼りよね。二人が一番悪鬼に慣れてるし。問題は…」
二人は頷きあう。
闇姫が問題だ。
やつは少しのきっかけですぐに行動を起こす。今回の悪鬼の動きが活発になっている件など闇姫が放置する訳がない。
恐らく今も調査を開始しているだろう。
…そして、闇姫はと言うと。
「次の地獄石はここです」
ダイヤモンドに手足と黄色い角を生やしたような姿の闇姫軍四天王の一人、ダイガルが闇姫に頭を下げる。
闇姫の目の前に聳え立つのは、青く輝く美しい氷山。
曇り空の下でも尚美しく輝いている。晴天だとどれほどの光を放ってるのだろう。
…こんな光まみれの場所は、闇姫にとっては破壊したくなる程忌まわしい場所だ。
「とっとと済ませるぞ」
ダイガルは四天王で一番強く、そして一番闇姫との付き合いが長い。
闇姫が彼を選抜したのは、この氷山にて何者かが待ち構えている事を魔力で察知したからだ。
念には念を入れた方が良い。闇姫は、慎重に氷山へと侵入した。
氷山内は全て氷が支配している。全身を冷気で挟まれてるような感覚だ。
いくら強くとも寒いものは寒い。二人は真顔のまま身を震わせて歩いていく。
しばらく進んでいくと…。
「ここに来る事は分かっていたぞ闇姫!!」
生物のいないはずの氷山に、声が響いた。
直後、氷の壁を砕いて敵が現れる!
鬼と犬を組み合わせたような顔に、氷の刃の両手を持つ悪鬼だ。
彼を見て、ダイガルが即座に言う。
「城のデータベースにのっていた悪鬼ですよこいつ。冷鬼です。氷使います」
「見れば分かる」
余裕の会話をする二人に冷鬼は両手の刃を光らせ、問答無用で切りかかってきた!
二人は同時に避け、そのままスタスタと通りすぎていく。
「ま、待て!このノリは戦う感じだろ!?」
思わず突っ込む冷鬼だが…闇姫は振り替えって呟いた。
「何言ってんだ。もう戦いは終わってるだろうが」
はてな、という顔をする冷鬼だが…突然意識が遠退いていき…。
そのまま倒れてしまう。
「出直す事だな」
闇姫とダイガルは、冷鬼に手刀を打ち込んでいた。
冷鬼はそれを視認すらできずにやられてしまったのだ。
その後も冷鬼が次々に現れたが、見事に全く同じくだりで倒していった。
最後に戦った冷鬼も、口から冷気を吐いてきたくらいで後は同じ。
「ま、待て!このノリは戦う感じだろ!?」
「何言ってんだ。もう戦いは終わってるだろうが」
闇姫が言い終わると、パタリと倒れる冷鬼。
深くため息をつく闇姫。さすがに飽きてきたようだ…。
「闇姫様、ここですよ」
ダイガルがある氷の壁を指差した。他の場所にもあるような、特におかしなところのない薄氷の壁のようだが…。
突如壁が青くなり、勢いよく氷が砕け散ってしまった!
二人は転がって回避する。
…壁の向こうには、両腕の刃から細かい氷の棘を生やし、頭から氷の角を無数に生やした巨大な冷鬼が潜んでいた。
恐らくこいつがボスだ。
刃の両腕を揺らしながらやや猫背の姿勢で二人に近づいてくる。
そして、素早く刃を振り下ろす!
二人は氷の刃を片手で受け止める。冷鬼は冷気を吐き出し、刃を押さえる二人を押し離した。
「ここまでの冷鬼隊を蹴散らしただけの事はあるな。だが俺はより強力な氷の力を取り込み、悪意によって促進する悪鬼細胞を活性化させた上で特訓して部下達を統制して巨大化した冷鬼!勝てると思うな…」
「いちいち説明するな!!」
ダイガルが飛び出し、冷鬼の右手の刃を蹴りつけた!
刃は崩壊し、早速武器を一つ失わせた。
冷鬼は左の刃を掲げて強く輝かせる。
「ク、クソ野郎めがぁ!!こうなればいきなり俺の最終奥義をくらえ!!」
刃が地面に叩きつけられると同時に無数の氷の棘が地面から生えながら向かってくる!
迫る氷の棘を見ながら闇姫は腕を組み、ほお、と言った感じの息を吐いた。
「なかなか魔力効率が上手い技じゃねぇか。ダイガル、避けるぞ」
闇姫とダイガルが右に動くと氷の棘も右に動く。
闇姫が天井に飛び上がると棘は壁を伝って天井に向かってくる。
天井から素早く下りて床に降りると氷の棘は闇姫の頭上で止まり、氷柱となって落ちてくる!
闇姫は数十本の氷柱一本一本の軌道全てを見抜き、掠りもせずに回避する。冷鬼はそんな闇姫を見てニヤリと笑う。
「アホが。それ!!」
更にもう一発刃を叩きつける。
すると、また氷棘の群れが出現
、頭上から降り注ぐ氷柱と地面を伝う氷棘の二つが襲い来る!
だが闇姫はこの氷棘をも視野に入れた。
翼を射出して僅かな高さのなかを精密に飛行、氷柱も氷棘も一発も当たらず尽きてしまった。
「…っ!?当たれよっ!!」
やけになる冷鬼はひたすら刃を叩きつけて魔力の浪費も考えずに氷棘を撃ちまくる。
期待外れとばかりにため息をついた闇姫は右手を突き出す。
「ダイガル、やれ」
ダイガルは氷の床の上、全く滑らずに猛スピードで冷鬼に迫る!
必死に氷棘を放つ冷鬼だが、ダイガルはその体の硬さのみで棘を破壊していく。
棘が変化した水色の粒子を纏いながら、ダイガルは冷鬼に痛烈な体当たりをお見舞いした!!
「ぎゃああああ!!」
冷鬼は叫びながら、氷の壁を突き抜けていき、氷山の外まで飛ばされていった…。
「さて闇姫様。邪魔はいなくなった事ですしこの先を調べましょう」
冷鬼が飛び出してきた壁を見る闇姫。
…壁の向こう側には一直線の道が続いていた。
その道をひたすら歩いていくと…。
「ありましたね」
頷く闇姫。
行き止まりの手前に、血管のような模様が張り巡らされた不気味な石、地獄石が置かれてあった。
ダイガルは地獄石を担ぎながら疑問を浮かべる。
「…にしてもこれ、何なんでしょうね?単なる強力なエネルギーとも思えませんが」
不気味な魔力を放ち続ける地獄石の模様は、燃えるように輝いていた。




