剛強鬼vs粉砕男 月魔塔の戦い
悪鬼達の城にて、亜華魔姫は計画を進めていた。
「地獄石、発見いたしました」
亜華魔姫の目の前で、血管のようなものが浮かび上がった不気味な石を献上する叡光鬼。
亜華魔姫はそこから感じられる寒気がするような魔力を心地良さそうに感じていた。
「実に良い…地獄の力。これを集めれば、この世は…」
亜華魔姫は途中で言葉を止めた。そして、何かを考えこんだ後、不自然に咳払いする。
察しの良い叡光鬼にも、この行動には少々表情を歪ませた。
「…亜華魔姫様?」
「…いや、何でもない。力将はどうした」
叡光鬼はすぐに普段の不適な笑みに戻り、答えた。
「はい。剛強鬼さんは現在南の月魔塔の地獄石の収集にかかっています。あそこは腕利きの兵士達が守っていますが、彼の怪力なら問題ないでしょう」
…そして、南の月魔塔。
ここは昼間でも月が見える不思議な塔だ。それも、本来昼間に見えるような白い月ではない。
夜空に輝くはずの金色の月が、青空に輝いているのである。ちなみに塔自体はそこまで高くない、石造りの塔だ。
兵士達は塔の頂上にて、幻想的な光景に完全に平和ボケしていた。
ここは滅多に敵が来ない場所。兵士達は体に鎧を纏う程度でそこまで重武装ではなく、武器もそこまで高価でもない槍や剣などだ。
…そんな彼らにとって、この後に起きる出来事は天地がひっくり返るようなものだった。
突然、塔が揺れだす。
しかし周りの木々は全く揺れてない。塔だけが揺れている。
「な、なんだ!?」
兵士達は塔の頂上から真下を見下ろす。
そこには、四足歩行の獣のような体から、赤鬼の上半身が生えた…神話のケンタウロスに似た姿の怪物が。
怪物は大声で叫びながら塔を揺らしていた。
「俺は力将だぁぁぁ!!力が強いから力将だぁぁぁ!!」
狂ったように叫び、揺らし、ついに塔は真ん中から折れてしまう。
傾く塔の上で、兵士達はあたふたと動き回る。
このまま地面に衝突して死ぬのだろうか…。
「彼女ぐらい作れば良かった…」
兵士達が諦めかけたその時!
塔の傾きが突如止まった。
驚いて兵士達が下を見ると…。
色黒の大男…粉砕男が、塔を右手一本で受け止めていた。
「何かに掴まってろ!」
彼の一言で、兵士達はとっさに近くにある柱に掴まった。
そして、粉砕男は塔をゆっくりと傾けていき…優しく地面に下ろした。
兵士達は粉砕男に頭を下げながら次々に出ていく。
「てめぇ!この剛強鬼様の邪魔をするたぁ良い度胸してんな!だが俺の目的はあくまでその塔にある!そこどけ!」
「お前みたいな野蛮なやつは何を企んでるか分からない。目的を聞かせてもらおうか?」
自身を見上げる粉砕男の馴れ馴れしい口調を見て、剛強鬼は見下されてるような気分になる。
「てめぇ!!クソみてえにしてやる!」
剛強鬼の拳が振り下ろされる!粉砕男は相手の力を確かめる為にわざと両腕で受け止めたが…。
凄まじい力だ。粉砕男の足元から全方位にヒビが刻まれる。
粉砕男は両腕を振るいつつ、まともに受けてられないと見たらしく、距離を離す。
剛強鬼は剛強鬼で、自身の一撃を真正面から受け止める粉砕男の怪力に驚いたらしい。一瞬口を開いて驚愕を浮かべた後、獣の下半身でこちらに突撃してくる。
地面に穴を空けながら迫ってくる剛強鬼だが、粉砕男は転がって回避、横切ると同時に、器用に蹴りをかました!
よろめく剛強鬼。今度は獣の足をひたすら振り下ろしてくる!
この暴れぶりには対抗しづらい。反撃を決めずに素直に離れる粉砕男だが、剛強鬼は今度は後ろ足を振り上げて地面を抉り、岩石を放ってくる!
岩石を殴り、蹴り飛ばし、破壊する粉砕男。
だが一つだけ防ぎきれずに直撃を受けてしまう。
「ぐっ…!やるな!」
粉砕男は剛強鬼を見上げる。体格の時点で不利だ。
どう挑めば…。
「俺達悪鬼を舐めるなよ。俺達が本気になれば…こんな事だってできる!そう…!悪鬼だからな!」
剛強鬼は地面を勢いよく踏みつけた。
すると地面を衝撃が貫き、地底深くまで届き、地面が揺れだす。
「おっと…これはやばい感じか?」
嫌な予感がした粉砕男は空中飛行、地面から離れるが…。
突然地面から溶岩が放たれ、空中の粉砕男に荒れ狂う竜のように襲いかかる!
とっさにかわす粉砕男だが、溶岩は次々に放たれ、粉砕男の行く手を阻んでいく。
更に剛強鬼の拳が放たれ、粉砕男は対処が遅れていく。
ついに剛強鬼の拳の一撃と溶岩を浴び、地面に叩きつけられてしまう。
溶岩の噴水のなか、迫りくる剛強鬼。
「ガハハ、悪鬼の力、思い知ったか。俺ぁ悪鬼だ!悪鬼なんだ!悪鬼の前では、お前ごとき」
「ちょっと待て」
台詞の途中、粉砕男は背中の痛みに耐えつつ声を出す。剛強鬼は不満そうにしつつもしっかり口を閉じた。
「さっきから悪鬼、悪鬼と言いすぎじゃないか?」
黙りこむ剛強鬼。
第三者から見れば、それがどうしたという話だが、粉砕男は何やら妙なものを感じていた。
こいつは何か…大きなものを背負ってるように見えるのだ。
これは…目的を探らなくてはならない。
「…うるせえ!俺は悪鬼だ。悪鬼こそ最強、悪鬼こそ天下!お前たちごときの好きにはさせん!!」
隠し事が下手なタイプのようだ。好きにはさせん、などと意味深な言葉を発している。
だが…剛強鬼は再び足を振り上げて地面を踏みつけようとしている。溶岩攻撃を更に仕掛けてくる気だ。
これ以上聞き出すのはやめといた方が良い。
粉砕男はすぐさま飛び出し、剛強鬼の足に掴みかかった!
粉砕男の勢いによろめく剛強鬼。今だ、と粉砕男は心で叫ぶ。
左手で拳を握り、そのまま足を殴り付けて剛強鬼を転倒させた!
「ぐらっ、ドテーン!!」
独特な声と共に倒れる剛強鬼に、粉砕男は右手で拳を握り、飛翔。
太陽を背に剛強鬼に渾身の拳を振り下ろした!
獣の下半身の足をバタつかせつつも、まだ腕は使えると両腕を構えて防御する剛強鬼。
拳が腕に炸裂し、衝撃が両者の全身を駆け抜ける!
剛強鬼の腕は凄まじい硬さだった。だが、粉砕男の拳という矛の鋭さも負けてない。
「うおおおおおおおおおお!!!」
粉砕男は拳に力を集中、魔力が拳に入り交じり、放出され、両者の間に爆発が起きた!!
ダメージを負ったのは剛強鬼だ。
「ケーオーダウウウウン!!」
やはり独特な声をあげながら、剛強鬼はダウンした。
「…ちく、しょう。だが、悪鬼は負けてない。次会った時はミンチにしてやる…!」
剛強鬼は右手に光を集めた。光は全身を包みこんでいく。
「覚えておけ!俺の名は粉砕男だ!」
光は完全に剛強鬼を包み込み…姿を消した。
「さて…やつもまた悪鬼の勢力の一人という訳か。どうしたことか」




