鬼子VS亜華魔姫
白く、長い髪に血のように目と赤い着物の女が、とある廃墟街を歩いていた。
彼女は、ある者に手紙を送っていた。
ここへ来るようにと書いた手紙を。
「…手紙を出したのは貴女?」
後ろから聞こえてきた声に、女は振り返る。
赤い髪に赤い着物の悪鬼狩人、鬼子が立っていた。
その左手には紫の着物に灰色の髪で左目を覆った幼い少女…妖姫の手が握られていた。
「一体何の御用かしら?」
鬼子の言葉が、静かな廃墟にこだます。
「…ここは、悪鬼に滅ぼされた町だ」
「そうね。私も悪鬼に全てを奪われた過去があるの。この場所の過去の悲惨な光景が目に浮かぶようだわ」
女の言葉に、鬼子は動揺一つ見せずに答える。今にも倒れそうなビルの横、冷たい風に身を任す。
…その目は、女に向けられていた。
女はゆっくり歩きながら語りだした。
「邪神シンが作り上げた人間の悪意から誕生した悪鬼。つまり奴らは人間の本質の化身。この凄惨な光景は、人間自身の手で作られたも同然だ。人間は悪鬼を通じて、果てしない破壊を世にもたらすという事だ」
「何が言いたいの?」
右足を上下に動かし、地面を踏み続けている鬼子。じれったそうに、妖姫も真似をした。
女は立ち止まり、左手をあげた。
…すると、その左手の平に炎が宿る。
「単刀直入に言う。お前、わらわの下につかぬか」
鬼子は首を横に振りながら言った。
「…やっぱりね。貴女は悪鬼ね。魔力で分かったわ」
「そう。わらわは亜華魔姫。悪鬼女王、すなわち全ての悪鬼の指導者だ」
亜華魔姫の中の炎が勢いを強めた。鬼子の瞳のなかで、炎が揺らめく。
鬼子は妖姫を手で軽く押した。隠れていろ、というサインだ。
ワタワタと走って建物の裏に隠れる妖姫。
「もう一度問う。わらわの下につかぬか。お前ともう一人の悪鬼狩人の男。お前達は人間ごときの下につくにはあまりに惜しい力の持ち主だ。人間は近い未来悪鬼に滅ぼされる運命にある。もし人間につくというのなら、お前達も消し炭に変わる事になるぞ」
鬼子は…背中に隠していた鞘から鎌を取りだし、腰を落とす。鬼子から放たれる闘志で、周囲の砂埃が宙を舞う。
「あいにく私と火竜もこう見えて人間だから…。悪鬼狩人を名乗ってる以上、あんたらの味方はできないわよ」
「そうか残念だ。ならば邪魔になる前に今ここで逝ってもらおうか。亜華魔の火に焼かれてな」
表情一つ変えず、亜華魔姫は炎を発射した!
鬼子は鎌を円を描くように振り回しながら炎を弾いて亜華魔姫へ突撃する!
周囲に放たれていく炎が、朽ちていた建物に燃え移り、戦場はたちまち炎に包まれる。
そして、極限まで距離を詰めて鎌を振りかぶり、亜華魔姫を切りつけようとするが…。
亜華魔姫は今度は右手から氷の刃を射出、回転して鬼子を切り裂いてくる!
あまりの速さに避けられず、腹を切られる鬼子。
血を吹き出しつつも堪え、今度は鎌を振り上げ、氷の刃を打ち砕く。
それを見た亜華魔姫は後ろに勢いよく飛び跳ね、一気に距離をとる。
攻撃の合図だと、鬼子は鎌を正面に構えて防御の姿勢に出る。
亜華魔姫が右手を天に向けると、突然凄まじい風が吹き出す!
その勢いは、鬼子の防御が瞬時に解かれてしまう程だった。
亜華魔姫は今度は大地に手をつける。
風の次は地割れが起き、鬼子は無数の岩と土砂で空中に吹き飛ばされてしまう。
「ぐうううっ…!!」
更に空中の鬼子目掛けて亜華魔姫は高速飛行を開始、痛みに耐えながら鬼子は空中で姿勢を整えて鎌を振り下ろすが、そんな反撃すらも亜華魔姫は無慈悲に回避、背後に回る。
亜華魔姫の右手に赤い光が集まり、刀が形成されるのが、鬼子の視界の隅に映った。
「っ!!」
振り返って鎌を振るおうとするが、それより速く刀が鬼子の背中に叩きこまれた。
「くあああああ!!」
地割れ以上のダメージだった。
背中から血を流しながら鬼子は勢いよく落下、地面に叩きつけられる。
鎌を地面に突き立てて立ち上がる鬼子、目の前に降り立つ亜華魔姫。
予想以上の技の数々。今見ただけでも炎、氷、風、地と四つの属性も使ってきた。
しかも亜華魔姫の様子を見る限り、まだまだ余裕らしい。今晒した技はほんの一握りにしか過ぎないのだろう。
「語る事もあるまい。その痛みから解放してやろう」
刀を構える亜華魔姫…。
「待ちやがれ」
冷ややかな声と共に、亜華魔姫の髪が何者かに引っ張られた。
物陰から見ていた妖姫が真っ先に驚いた。
「あやつは!」
…黒いツインテールを風に揺らす闇姫が、亜華魔姫の髪を掴んでいた。
亜華魔姫の目の前にいた鬼子ですら、闇姫の接近に気づけなかった。
そして亜華魔姫も、今の今まで闇姫には気づけなかった。
「っ!悪魔風情が触れるな!」
闇姫の手を振り払うべく、左手から氷の刃を放つ亜華魔姫!
闇姫は避けようともせず、胸にその一撃を食らう。
血を流しつつも、その表情は余裕そうだ。
「なるほど。中々痛いじゃないか。簡単に倒せる相手ではなさそうだ」
亜華魔姫は刃を引き抜く。
闇姫は胸から血を吹き出しつつ、亜華魔姫に歩み寄る。
亜華魔姫の額から汗が流れた。しかし、尚も睨み続ける。
闇姫は亜華魔姫の胸ぐらを掴む。
「あの悪鬼狩人のとどめを刺す時は気を付けろ。やつを見てみろ」
亜華魔姫は鬼子を見る。
よく見ると…鬼子の鎌には赤い光が纏われていた。
先程亜華魔姫がとどめを刺そうとした際に、反撃を撃ち込む準備を進めていたのだ。
恐らくあの反撃で放つ攻撃で亜華魔姫の攻撃を相殺しようとしていたのだろう。
はっ、とする亜華魔姫。
「そうか…。全く気づけなかったわ。まあ反撃を受けても戦い続ければわらわが勝っていただろうが…」
台詞の途中で、闇姫は亜華魔姫を投げ落とす。
膝をつきながら、亜華魔姫は続けた。
「今回は引き分けとしてやろう。流石に最強の悪魔相手にやりあうのはあまりに無謀というものよ…」
亜華魔姫の足元から炎が吹き出し、全身を包み込み…。
炎が消えた頃には、姿を消していた。
鬼子はゆっくり体を起こす。
「また会ったわね闇姫。何で私を助けたの?」
「お前はれなたちと同じ、私の軍に討たれるべき存在だ。悪鬼ごときに殺させる訳にはいかん」
それだけ言い残すと、闇姫は翼を広げて空の果てへ飛んでいってしまった。
「なるほど。そりゃ大変だったな」
事務所にて。空を見上げる鬼子と火竜…。
悪鬼と闇姫、二つが敵として襲い来るようだった。
「助けて貰ったけど…闇姫なりの宣戦布告って事で良いのよね…?」
「あいつはずっとれなを倒そうとしてるからな。悪鬼が動き出した今、より活発に活動を始めてるのかもしれない…」
それにしても亜華魔姫は強かった。今のままではまず勝てないだろう。
「…修行だけじゃ無理そうね…。何か対抗できる手段は…」
鬼子の脳裏には、ある一つの武器が浮かんでいた。
…かつてれな達と共に潜り抜けた戦いで手に入れた地獄の刀、獄炎刀だ。




