敗北の覇王ロスティナ
事務所にて、火竜が今後の悪鬼の動きについての相談を持ちかけてきた。
葵と火竜がソファーに座って話すなか、横の方ではドクロとテリーが話し合っている。
ドクロとテリーの話題は自宅の水道が錆び付いてきた件について。互いにお前が悪いお前が悪いと責任を押し付けあっている。
そんななか、とある依頼が事務所に舞い込んできた。
玄関から郵便屋のバイクが止まる音が聞こえ、葵がドアを開けると…。
「おらっ!!受けとれええ!」
物凄くガラの悪い声と共に、葵の顔面に紙が叩きつけられた。
郵便屋はさっさとバイクに乗って走り去ってしまう。
唖然とした様子で火竜が見ていたが、葵は笑った。
「この町の郵便はいつもこんな感じよ」
依頼の内容は単純だ。
敗者の谷と呼ばれる場所で、モンスターを倒してほしいとのこと。
とても美しい字で書かれている。上品な客なのだろう。
特になんて事のない依頼だと、葵は早速壁にかけてあったショットガンを手に取ったのだが、敗者の谷というワードにテリーが反応する。
骨の頭をカラカラ鳴らしながら、低い声で話した。
「待て。敗者の谷というと、確か恐ろしい敵がいると聞いた事がある」
全員の視線が、テリーに向く。それを見て、テリーはゆっくりと話し出した。
「あそこにはかつて一つの国を統治していた王がいたらしい。絶大な信頼と力を持つ素晴らしい王だったとされてるが、ある時、国にある集団組織が襲撃にかかり、不意を突かれた王は生まれて初めて敗北、多くの命を奪われた王は己の敗北を悔いて、次期王に直ぐ様王を継承させ、自分はある谷に自らを封印した…。それ以来その谷は、敗北の覇王ロスティナが眠る谷として伝えられているんだ」
死神であるテリーはこういった世界の歴史にも割と詳しい。ドクロは知らなかったのか、兄の話を実に興味深そうに聞いていた。
…葵はやはりショットガンを手に取る。
「困ってる誰かを助ける事は変わりないわ。もしその王様に襲われたりしたら…挨拶の一つでもぶちかましてやりましょ!」
ショットガンを振るって気合いを入れる葵。彼女の横に立っていた火竜は少し驚いて肩をすくめた。
それから一同はテクニカルシティを出て二時間ほど飛行、敗者の谷へつく。
敗者の谷は広い森に囲まれている青黒い色合いの谷だった。
見るからに恐ろしい、怪物でも出てきそうな場所だ。
正直入りたくない。
それ以上に思ったのは、こんな谷から誰が依頼を送ったのだろうか。
…魔力に敏感な死神兄妹は早速嫌なものを感じたようだった。
「この谷…奥底に幾つもの嫌な気配が漂ってるわ。それに一際強い魔力も感じる…」
顔を見合わせる火竜と葵。やはりここには…。
行きたくないが、四人は谷へと突入する。
何やら他の場所とは違う風が吹いてくる。
岩と岩の隙間に風が通ると、何か声のような音が響き渡る。
一応周囲をくまなく見渡すが、やはり虫一匹見当たらない。生物の住むような環境ではない。
悪寒が全身に覆い被さるなか、平たい地面を進んでいくと…。
「…」
一同は、殆ど驚かなかった。
進んだ先は行き止まりだったのだが…そこには、一人の巨人が俯いて座り込んでいた。
黒く、薄汚れたマントを羽織っており、肌が真っ白。
豪華だった面影が僅かに残ったみすぼらしい服を着ている。顔はよく見えない。
これは…。
「ほうほう、やはり来ましたか」
一同は、突然聞こえてきた声に一つの方向を見る。
巨人の隅の岩の上に、スキンヘッドで紬を着た老人が立っていた。その頭には一本の黄色い角が生えている。
火竜は拳を構えて彼の名を叫ぶ。
「叡光鬼!まさかお前が!?」
「そうですとも。どうですあの手紙の私の字。普通に綺麗だったでしょ」
何だかのうのうとした様子の叡光鬼。初対面の葵と死神兄妹は困惑しており、火竜が彼らに伝える。
「この爺さんは叡光鬼。強いぞ!」
それを聞くと三人は叡光鬼を睨みつける。尚叡光鬼は余裕の態度だ。
「覚えてくださり光栄ですね。ですが失礼ながら今回は刀を振るうつもりはありません。代わりにこの方に…」
叡光鬼の台詞と共に、巨人がゆっくりと顔をあげる。
そのしわがれた顔は、真っ赤な目が嵌め込まれていた。
巨人は口を開く。白い煙が口から立ち込めた。
「二度と、負けぬ」
巨人が立ち上がり、左手を掲げると、その手に黄金の剣が光と共に召喚される。
間違いない。こいつが敗北の覇王、ロスティナだ。
まずはロスティナは剣を振り下ろし、火竜を狙う!
火竜はバク転してかわしつつ、両足から炎の弾を発射する!
予想外の攻撃にもロスティナは全く怯まず、剣を振るって弾を切り裂いた!
次に葵が足元へ突っ込み、ショットガンを構えるが、ロスティナは剣を地面に叩き込む事で地面を割り、円状に衝撃波を展開して吹き飛ばす!
それでも葵は空中飛行に移り、ロスティナを撹乱しようと飛び回る。
テリーは悩ましそうな顔をしていた。
「ロスティナはかつて千もの敵軍を一人で制したという伝説もある。やつを俺達だけで抑えるのは困難だ。だからって、何が目的なのか知らんがこのまま放置しておく訳にもいかない…」
テリーの横ではドクロが両手から黒い光弾を発射する。
葵と火竜に集中していたロスティナだったが、全身に青い魔力の壁を展開する事で光弾を防いでしまう。
「お兄ちゃんこいつどうするの!?何とかしてよっ」
「今考えてるわ我が妹よ!可愛い妹の頼みでもそんなすぐには思い付かん!」
守りに徹底していたロスティナだが、ついに葵と火竜を蹴りで吹っ飛ばし、二人に剣を振るった!!
剣は火竜に直撃、脇腹から血を吹き出しながら叩きつけられる火竜。
「ぐ!!くそっ!!」
覇王の力を身で思い知る火竜。火竜がやられた分とばかりに葵はショットガンで発砲、ロスティナの顔面を撃つ!
顔を抑えるロスティナ。はじめてダメージを与える事に成功したが…。
「負けぬと言っている…。敗北の雷をくれてやる」
ロスティナが剣を掲げると、空が光り、青い雷が谷に落ちる!
端から見れば超常現象だ。実際に偶然谷の近くを通った人間達はまた雷が落ちないかと携帯カメラを構えている。
雷は地面に衝突すると同時に周囲に電撃が広がり、炎が吹き上がる!
炎はオレンジ色だが、よく見ると青い電気が迸っている。
ドクロとテリーはこの炎から雷の魔力を察知した。一度に二つの属性を纏えるとは…。
更にロスティナは炎を軽やかにかわしながら剣を振り回してくる!
四人の敵を相手しているとは思えぬ程余裕に満ちた乱舞だ。はじめこそ四人は回避できていたが、炎と剣をかわすのに集中しすぎるあまりロスティナの足にまでは意識が向いていなかった。
テリーが蹴りあげられ、空中で剣を振り下ろされて叩きつけられてしまう。
「お兄ちゃん!!」
ドクロが彼に駆け寄ろうとするが、ロスティナは彼女も蹴り飛ばし、岩盤へ叩きつける!
火竜と葵はロスティナの背後から近づくが、ロスティナは振り返り様に剣に雷の力を集めて青く光らせ、振るうと同時に稲妻の嵐を撃ち放つ!
二人は両手を構えて防御するが、それでも勢いよく吹き飛ばされてしまう。もし防御していなかったら今のが致命傷になっていたかもしれない。
更なる追い討ちとしてロスティナは飛び跳ね、剣を叩きつけて大地に衝撃を与え、地中から岩を出現させた!
全員が空高く吹き飛ばされ、地面に叩き落とされる。
何という強さだろうか。
叡光鬼は地に伏す一同を滑稽そうに笑っていた。
「畜生…。どうすりゃ良い」
火竜の言葉に、葵は震えながら答えた。
「もう一人一人の力じゃ無理そうね…!…こうなればエネルギーの共有よ」
今まで幾多の戦いを乗り越えてきた葵はある戦法を知っていた。
ドクロとテリーも頷き、葵に駆け寄る。
火竜も流れを見て葵に近づく。
「手を繋ぐわよ」
そして、四人は手を繋ぐ。
火竜はドクロと葵に挟まれる形で手を繋いでおり、少し恥ずかしそうだ。
だが…何か大きな力を感じとる。
これは…手を伝い、四人のエネルギーが互いの体内を巡りあっているのだ。
葵からはアンドロイドのエネルギーが、ドクロは死神のエネルギーが。
火竜の炎の力も、両隣の二人に流れていく。
何か危険を感じたのか、ロスティナは剣を掲げてこちらに走ってくるが、遅かった。
「今よ!!」
葵が叫び、ショットガンから火竜の力を込めた炎の弾丸を放つ!
先程までは鉄の弾丸だったはず、とロスティナは反応が遅れるが、剣を振り下ろして真っ二つにする!
間髪入れず、テリーが全身の硬度をアンドロイドのエネルギーで更に高め、ロスティナの足へ体当たり!!
弾丸に気をとられていたロスティナは反応できず直撃、仰向けに転倒する。
ドクロは火竜の力で両手から炎を発射してロスティナを包み込み、最後に火竜が拳を振り下ろす!
「俺達の勝ちだ!!!」
拳が死神の黒いオーラと、葵の緑のオーラに包まれ、普段の倍以上の力を宿す。
ロスティナの胸に拳を直撃させ、衝撃波を放つ!!
「ぐはあああああああ!!!」
衝撃波が谷全体を振動し、岩が崩れ落ちていった。
岩が落ちるなか、ロスティナは苦悩に顔を歪めながら言った。
「またもや敗れるとは…強き者達よ…!必ず余もその次元へ追い付いてみせる…。その日まで、余はこの敗北を償うとしよう…!」
ロスティナは岩に埋もれていき…最終的に岩山のなかに呑み込まれた。
小石が転がるだけで、もう動く事はなさそうだ…。
それを見たテリーが、いつの間にか岩から降りていた叡光鬼に言う。
「さてはお前…封印されていたロスティナを目覚めさせたのか…!何故そんな事を…」
「…なるほど。なかなか面白い能力をお持ちですね」
問いに答えず、顎に手を添えて一同を見る叡光鬼。
「ロスティナを復活させた甲斐がありました。貴殿方の実力、見せて頂きましたよ」
それだけ言い残し、叡光鬼は姿を霧のように消してしまった。
「…何なんだあいつは…?」
テリーの呟く声と共に、谷はまた静けさを取り戻した。




