混戦
ジークとデューク、それぞれ左右の壁に身を寄せて待ち構えていると、次第に彼らの耳にもカタカタと不規則で耳障りな物音が聞こえてきた。そうして暗闇に目を凝らしていると、通路の先から三体のボーンナイトがゆっくりと現れた。先頭の二体はそれぞれ剣を構え、後ろの一体は槍を携えている。カラカラと不快な音を立てながら近づいてくるそれは、白い姿も相まって異様な不気味さを感じさせた。
ジークとデュークはボーンナイトを認識すると、それぞれ目配せして魔物に躍りかかった。
「うぉぉぉぉぉっ!!」
まずは先制とばかりにデュークが中央に躍り出て、ハルバードを一閃させた。不意を喰らったボーンナイトの、前衛二体がなぎ倒される。バラバラと乾いた音を立てて吹き飛ばされるものの、しかしその程度で消滅するほど甘い相手だとはジークもデュークも思っては居ない。後を追う様にジークが死角から飛び出すと、なぎ倒された先頭の一体の頭蓋骨に剣を叩き込んだ。
起き上がろうと再生仕掛けていた骨が、一気にぴたりとその動きを止める。そして眼窩の妖しい青白い光がゆっくりと消え失せ、ボーンナイトが完全にその動きを止めた。ボーンナイトは胴体及び頭蓋骨を粉々に粉砕しないと、その活動を止める事は無い。そうしなければ何度でも起き上がり襲ってくるため、始末に悪い魔物と言える。
横を見ればデュークも返す刃で、もう一体の前衛ボーンナイトを屠っている。残るは槍を携えた一体のみ。しかしボーンナイトは不利を悟るとくるりと踵を返し、一目散に逃げ出そうとした。
「逃がすか…!!」
追いすがり上段から袈裟切りをジークが叩き込む。丁度背骨を粉砕する様に致命傷を与えられたものの、運悪く頭部が転がり落ちてしまった。
「あー!しまった!!」
勢いよく転がって行く頭部。そしてそれは、暗がりに向かってぞっとするような音を上げた。
『カタカタカダカタガタカダカタカタガタカタッ』
通路の奥に向かって、乾いた鳴声が響き渡る。それは通路に反響して、わんわんと迷宮全体に鳴り響いた。
「…なぁデューク、これって…」
嫌な予感に頬が引きつるジーク。
デュークはやれやれとため息をつくと、自身のハルバードを握り直し、後方ではシリウスが詠唱の準備に入る声が聞こえた。嫌な汗が、ジークの背中を伝う。そして程なくして迷宮に響き渡る、無数の足音――。
現れたのは二十体近くのボーンナイトだった。
「あーーーっちっくしょう!!なんでこうなった?!」
「もー、ぐちぐち言ってもしょうがないわ!…ってええええええ?!?!弓兵も居るぅ~?!」
「皆、来るぞ!!」
二十体のボーンナイトは各々の武器を手に持ち、一気にジーク達へと襲いかかってきた。幸いなことに左程広い通路ではない為、精々一度に攻撃してくるのは三~四体が限度だ。しかし不規則な攻撃と、切っても切っても後ろから湧いて出てくるボーンナイトの大隊には、吐き気を催さずにはいられない。しかも頭部まで完全に破壊できなければ、倒したはずのボーンナイトはまた起き上がってくる。
「だーっキリがねぇ!シリウス、まだかっ!!」
自棄になりながらも剣を振るうジークだが、しかしその狙いは的確だ。デュークとうまく連携を取りながら、悪態を突きつつも一体も前衛は突破させない。
「――お待たせしましたっ!ジーク、デューク、避けてください!」
やっとの思いで聞こえたシリウスの掛け声に、一気に左右へと飛びずさる二人。シリウスはボーンナイトたちを真正面に見据えると、両の手を突出し魔法を放った。
『風よ舞え、我が呼び声に…!――エアースラッシュ!!』
シリウスの中で膨れ上がった魔力は術式を宙に描き、そして一気に無数の風の刃となってボーンナイトに襲いかかった。無数のかまいたちは縦横無尽に駆け廻り、ボーンナイトたちをなぎ倒していく。全滅とまでは行かないまでも、その半数以上を一気に行動不能にする様は、正に壮観であった。
「…すっごーい!!シリウス、いつも以上の大火力じゃない?!」
リーザが素直に感嘆の声を上げる。ジークとデュークもその威力に驚き、しばし風がなぎ倒していったその先をみやってしまった。だがそれ以上に魔法を放った当のシリウスが、珍しく驚きに目を見開いていた。
「これは…。精霊の助力があると、これ程までに魔法の行使が楽になるとは、私も思いませんでした」
シリウスの右手には件の魔石が一つ、握られていた。ゆったりと明滅するその光は、暗い迷宮の中であっても少しも損なわれていない。どうやら精霊にとっても、大した負荷ではなかったようだ。
「…っと、こうしちゃいられねぇな。シリウスに良い所ばっか持ってかれちゃ、前衛の名が廃るってもんだ!」
「ははは、そうだな。掃討戦は任された!」
掛け声と共に再度飛び出すジークとデューク。二人は片っ端から生き残ったボーンナイトを粉砕し、その活動を止めて行った。
「良かった…!これなら思ったよりも早くかたが付きそう」
一気に数が減り思わぬ大打撃に右往左往するボーンナイトの部隊は、既に二人の敵では無かった。危なげなく一体、また一体と屠って行くうちに、程無くして全てのボーンナイトが地面に散乱した骨片と化した。
「…よし、これで全部だ!――シリウス、助かったぜ」
最後の一体にとどめを刺し、ジークが振り返った。これだけの数のボーンナイトを相手にして、目立った外傷も無く勝利を収められた事に思わず安堵の笑みが零れる。今までであれば、流石に全滅とまで行かないまでも、それ相応の時間と犠牲は強いられたはずだ。正しくジークの意図をくみ取ったシリウスがそれに柔らかく頷くと、しかし異変に気が付いたリーザがいち早く誰何の声を上げた。
「…!!ジーク、デューク!!危ない、離れてっ!!!」
反射的にその場を飛びずさるジークとデューク。すると葬ったはずのボーンナイトの残骸が、カタカタと不気味に動き始めた。
「な、何だ?!ボーンナイトは全て倒したはずだぞ?!」
「やだやだやだやだ、何か気持ち悪い~~!」
「皆さん気を付けて!ボーンナイトの残骸から、大きな魔力のうねりを感じます…!」
あり得ない光景に四人が固唾を飲んで見守っていると、骨はより一層大きな音を立てながらガタガタと動き始め、そして段々と一か所に集まり膨れていった。
「…まさか、合体するのか?」
「冗談じゃねぇ!聞いた事ねぇぞ?!」
見る見るうちに大きく膨れ上がっていく骨の残骸。破壊されたはずの骨同士がくっつきあいながら、それは天井一杯まで伸びあがり、巨大な一体のボーンナイトが形成された。
腰から下は無く、不自然に多いアバラ骨の上に、巨大な頭部。そして無数に枝分かれした複数の手が、それぞれ両脇から生えていた。一見するとムカデの様な風体でありながらも、巨大な人間の頭部が怪しく見下ろしてくる。
カタカタと不気味な音を立てながら、新たな魔物が誕生した。
「…これは珍しい。ボーンナイトキングのご登場と言う訳ですか」
「いやーーーーっ!!ワイバーンといい、こいつらといい、どうして素直に死んでくれないの~~~!!」
「リーザ、違いますよ。厳密にはボーンナイトは既にアンデッドな訳であって、死ぬと言う表現はいささか――」
「二人とも現実逃避は後だ!!来るぞっ!!」
ボーンナイトキングは一際甲高く不快な音を立てると、ジーク達目がけて襲いかかってきた。
ムカデの様な胴体をくねらせつつ、頭毎ジークとデュークをかみ砕くかのごとく突進してくる。それを寸での所で回避すると、しかしボーンナイトキングは無数に生えた腕を振り回し、更なる追撃をかけてきた。
「うぉお、あっぶねぇ!!」
「ジーク気をつけろ!こいつ動きが不規則だ!」
生物の骨格を完全に無視して形成されたボーンナイトキングの腕からは、更に枝分かれしで別の腕が付いている。そしてそれらが別々の武器を握りしめ、人間の腕であればあり得ない動きをしてジーク達に襲い掛かってきた。
ゆっくりと起き上がったボーンナイトキングは、不気味な青白い光を眼窩に湛えてしっかりとジーク達を見下ろしていた。
「…やだ、こいつ、嗤ってない…?」
ぼそりと吐き出されたリーザの言葉に、更にボーンナイトキングの笑みが深まったようだ。
ボーンナイトキング単体であれば、ジーク達の実力からして倒すことが出来ない程の難敵では無い。しかしここはナルバの迷宮。どんな特異性を保持しているかは分からない。しかし、アーシェとエマの救出を最優先に掲げているジーク達にとって、時間をかけて相手の特性を見極めるだけの時間は、正直惜しかった。
「…ふっざけんな、この死にぞこないが!!今度こそ地獄に送り返してやるっ!!」
全力でぶつかって、敵を排除する。しかし相手の出方が分からない以上、それは相応のリスクを孕んでいた。
思わぬ強敵の出現に、しかしジークは再度剣を構えなおすと、雄叫びと共に駆け出した。




