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交錯する思い3

昨日とは一転した天気。アンネリーは忌々しげに舌打ちすると、顔を伏せる様にして外へ出た。昨日の様な曇天ならいざ知らず、アンネリーは晴天が嫌いだ。何もかもを白日の下にさらけ出そうとするような、そんな暴力的な逃れえない力を空から感じる。フードつきのローブを更に目深に被ると、足早にアンネリーはギルドを後にした。


先ほどまでの会話を思い出すと、アンネリーは再度舌打ちをした。


集められていたのはギルド幹部が三名。それぞれの思惑はあるのだろうが、三人に共通しているのは無名のアンネリーに対する、不躾までの好奇心だ。ある程度予想はしていたものの、色々と詮索されるのは好きではない。そもそも、自分は調査隊を辞退する為に来ていたのだ。何故か面接の形式になっており、アンネリーは益々眉間の皺を濃くさせるのだった。


さして広くも無い部屋の中央に座っている壮年の男が、ギルド長であると名乗っていた。恐らく元冒険者なのだろう。初老と言うにはまだ早い顔立ちで、その体つきは未だに頑健。そん所そこらの冒険者等、未だ簡単にいなせるのではないかと思わせる程だ。


そしてその両隣にいるのが、ギルド長の実質的な補佐役に当たる男性と、如何にも魔術師といった出で立ちの少女が一人。男性の方はギルド長より少し年齢は若そうで、神経質そうにキョロキョロと眼鏡の奥から辺りを見回していた。そしてその反対側に座っている魔術師は、まだ若い。精々十六に届くかどうかと言った、まだあどけなさの残る少女だった。しかしその落ち着いた物腰と雰囲気から、見た目通りの小娘ではない事は事実だろう。どこか上品ささえ感じさせる物腰から、ともすると王都から派遣された魔術師かもしれない。控えめながらも相手を探ろうとする視線に、アンネリーは気づかれない様にゆっくりと息を吐いた。


「アンネリー殿。今日はわざわざ出向いてくれて、感謝する」


ギルド長が口を開くと、それが開始の合図となった。


「俺はナルバの冒険者ギルドを預かる、ヴィル・バレックス。こっちが俺の補佐を担当しているニール。そして彼女がシュゼット・ファムニール。最近王都から派遣されてきた、見ての通りの魔術師だ」


ニールとシュゼットは紹介されると軽く会釈を返した。


「――アンネリーだ。ナルバで魔道具屋を営んでいる」


簡潔に名乗りながらも、アンネリーは内心驚きを禁じ得なかった。ファムニール家と言えば王都でも屈指の名門貴族で、魔導一族として知られている。ファムニールを名乗る者は総じて何らかの魔導に関わっており、様々な形で時の王達を補佐してきた。先の混迷期には一度一家衰退の憂き目にあいかけたが、革命の際ファムニール家の息子二人が現王を補佐したことは有名な話だ。


(ファムニール家には年の離れた末娘がいると聞いていたが…)


まさか簡素な椅子に座って自分と相対する事になるとは――。後ろで高くひとまとめにした薄いピンク色の髪は、毛先がふわふわとしていて可愛らしい。しかしその外見とは裏腹の実力の持ち主と言う事は、アンネリーにも見て取れた。


(ファムニール家を送り込んでいると言う事は、本格的に王都が教会を牽制すると言う事か…)


険しくなりそうな表情をひた隠し、アンネリーは前を見据えた。


「回りくどい話し方は好きじゃないから、単刀直入に聞く。ジーク達から調査隊への参加は断りたいと聞いた。理由を聞いても?」


ヴィルは責めるわけでもなく努めて冷静に、アンネリーに声をかけた。ともすれば威圧的になってしまう、自分の風貌を良く理解しているのだろう。少なくともそういった配慮ができる人間なのだなと、アンネリーは少し好感を持った。


「私はしがない魔道具屋だ。迷宮で生き残れるだけの戦闘力がある訳でもないし、知識と言っても精々が田舎で暮らすに事足りる程度。今回は私の知識力を買ってと言う事だったが、まぐれなら誰にでもありうる。それ故に調査隊の件は辞退したい」

「ジーク達から聞いているとは思うが、完ぺきとは言えないまでも警護は俺たちギルドの方で最大限の便宜は図る。調査期間はまずは一週間。その後体制を再度整えてから、順次中・長期の調査へと移行していく予定だ。もちろんこの間の衣食住だけでなく、ギルドから僅かにはなるが謝礼も出す。見つかった魔道具等に関しては、ギルドがその所有権を持つ形にはさせてもらうが、論文を発表するなら個人の名で行ってもらって構わない」

「もちろん、『門』を潜れなければ待遇は変わります。その場合は個別にギルドからの『依頼』と言う形で、中の研究員のサポートをお願いします。これは通常の依頼になりますので、受ける・受けないは貴女の自由です。ただあまりまだ大々的な告知はしたくありませんので、今回関わった方々に率先して受けてもらいたい、と言うのが正直な所ですね」


ヴィルに比べると幾分高いトーンで、先ほどニールと紹介された男性が補足した。忙しなく手元の書類とアンネリーを交互に見ながら、落ち着きなく視線を動かしている。しかし一瞬アンネリーと目が合うと、びくりとしてそれ以来視線を合わそうとはしなくなってしまった。


「確かに魅力的な提案だが、私は自分の技量にそこまで自身がある訳ではない。私は保守的な人間でね。一度潜ってみて、ギルドの期待に添えなければ、魔道具屋としてこれ以上の醜聞はない。どうしても、マイナス面ばかりに目が行ってしまう」

「――ほぅ?そんな弱腰な姿勢には、見えんがな」


意地悪そうな顔をしながらニヤリと笑うヴィルだが、アンネリーは無視することでそれを躱した。鼻から自分が嘘くさい人間だと言う事は、嫌と言うほどわかっている。何を言った所で信じられないのが明白なのであれば、面の皮を最大限厚くするだけだ。


「――アンネリー殿。今回迷宮の新区画で見つかった、扉の意匠について伺いたいことが。貴女はなぜ、これがジュブイエール遺跡の物であると分かったのですか?」


話題を変えたのはシュゼットだった。話すたびにふわふわと揺れる淡いピンクの髪は可愛らしいものだが、恐らくこれが今回の『面接』の主目的だろう。アンネリーは内心身構えると、何気ない風を装いながらシュゼットに答えた。


「正確には推測、です。シュゼット嬢。私は思いつきを言っただけにすぎない。私はナルバに来る前は、タロンに一時期滞在していたことがある。あそこはカルローナにも近いし、何より人の種類が雑多だ。何の経緯かは忘れたが、似たような意匠を見たことがあったから、ジュブイエール遺跡の名前を出しただけと言うのが、正直なところだ」

「…なるほど。つまり詳細な調査や精査の上ではなく、ただ単に見たことがあるからと…?」


探るような少女の視線に、アンネリーはため息をつきながら頷いた。


「その通りです。――正直、困惑している。何の根拠も無しに言った言葉が、一人歩きしているような所だ。それについては、私が軽率だったのだが…」


深く椅子にもたれながら、アンネリーは弱弱しく首を振った。自分には分不相応な依頼だと言う事だが、それを見てシュゼットは同情するようにくすり、と笑った。


「――お気持ちお察し致します。それにしてもタロンですか。あそこは南方、東方の方々が集まる貿易都市。王都でも見ない珍しい物が溢れていると聞きます。アンネリー殿が魔道具師として学ばれたのも、彼の地でしょうか?」

「ああ、タロンでは沢山の物を学ばせて貰った。現在の私を形作ったのが、タロンでの経験であると言っても、過言ではない」

「アンネリー殿は一風変わった魔道具を作られると聞きました。その技術もタロンで…?」


こくりと頷くアンネリーに、シュゼットはほぅ、ため息をついた。


「羨ましいです。私はまだ、タロンには行ったことが無いんです」


シュゼットの素直な言葉に、アンネリーは思わず苦笑いを漏らした。これが演技であるならば、彼女は相当な役者だ。悪女の素質を持っていることになる。


「俺はその、アンネリー殿の珍しい技術にも興味があった。ギルドに居る古参の冒険者の中にも、何人か顧客がいるようじゃないか。特に、魔力を扱えない者たちからの評判が良い。皆助かっていると言っていた」


朗らかにヴィルが伝えると、アンネリーはほんの少し、表情を緩めて頷いた。


「そう言ってもらえているのなら、それは素直に嬉しい事だ。――これからも、精進させていただく」


あくまでも調査隊に加わる気は無い。言外そう匂わせるアンネリーに、今度はヴィルが苦笑する番だった。


「――調査隊の件だが、もしも考えが変わるようならいつでも言ってくれ。正直、優秀な人材であれば確保しておきたいと言うのが、こちらの本音だ」

「お心遣い、感謝する」


軽く頭を下げると、話は終わったとばかりにアンネリーは立ち上がった。しかし扉に手がかかる所で、シュゼットに呼び止められた。


「最後に一つだけお聞かせください。何故貴女は、これを見てカロンガの廃都と思われなかったのでしょうか?」


何気なく問われた質問の意図を掴み兼ね、アンネリーは振り返った。シュゼットは真っ直ぐにアンネリーを見つめてくる。その視線に心の中にざわつきを覚え、訝しく思いながらもアンネリーは答えた。


「――面白い事を聞かれる。幾らなんでも、それは無いだろう」


肩を竦めて答えると、今度こそアンネリーは扉の向こうへと姿を消した。


扉が閉まると、アンネリーは不覚にも思わずため息が漏れてしまった。ほんの短い時間であったのにも関わらず、どっと疲れが押し寄せてくる。それにしてもまさか、ファムニール家の末娘が居るとは。アンネリーは人知れずため息をつくと、足早に廊下を抜けギルドを後にした。


あああ…

新キャラが三人も…

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