第17話 ルカーシュとデート?
「ルカーシュ、遅いな……」
フェルゼン魔法学園の校門前。
放課後に市場調査に行くために、私はルカーシュを待っていた。
さっきまで私の肩の上で、フクロウのルカーシュも授業を受けていたのだが、「着替えてきます!」と言い残して、飛び去っていってしまったのである。
学園前の広場にある時計塔を見て、ため息を吐いた。
その時、ぬっと横から黒い影が出てきて、私は思わず身構えた。
「料理長、お待たせしました!」
「ちょ、ちょっとルカーシュ!?」
ルカーシュは、初めて出会った時と同じように黒いマントにフードを被って現れたのだ。
私は、すぐさま背伸びしてルカーシュのフードを下ろした。
「どうしてそんな恰好で来たのよ!」
「どうしてって、これが俺の一張羅ですから」
私は額に手を当てた。
不気味なものが大好きなルカーシュが何を着てくるかまで考えておけば良かった。
「行くわよ、ルカーシュ」
「え、料理長。そっちは、市場と反対ですよ?」
ルカーシュの言う通り、私は市場がある方とは反対側の道へとずんずん進んでいた。ルカーシュも後ろからついてくる。
「服を買うわよ」
ルカーシュが私に並んで首を傾げた。
本当に察しの悪い男だ。
「だから、デートなら、デートらしい恰好をしてほしいって言ってるの!」
「で……」
ルカーシュの足が止まった。
私も自分で言ってしまったことに気がついて、自分の口を押えた。
もう、なに言ってるのよ、私!
これは、デートじゃなくて、市場調査でしょ!
顔に火がついたんじゃないかってくらい熱くて、私は自分の顔を手で隠した。
ルカーシュが近づく足音がしたけど、恥ずかしくて顔を見られない。
「……行きますよ、料理長」
ルカーシュが私の手を取って、引っ張るようにして歩いていた。
「え」
突然繋がれた手をどうしたらいいのか分からない。
私が手を強張らせていると、ルカーシュが私の手を強く握り返してきたから心臓が壊れるかと思った。
「……デートなら、手を繋いでもいいですよね」
前を歩くルカーシュの耳が赤くなっていた。
ルカーシュに手を引っ張られてたどり着いたのは、衣料品の店が並ぶ通りだった。
ここでルカーシュの足が止まった。
「どうしたの?」
「料理長……どの店に入ればいいか分かりません」
いつものルカーシュに戻ったような気がして、私はぷっと吹き出して笑った。
「いつもは、どこで買ってるの?」
こんな変なローブにマント……どこに行けば買えるのか、逆に気になった。
「いつもは、そこの店です」
ルカーシュが指さしたのは、表通りから横にそれた裏路地にある怪しい店だった。『冒険者のための魔道具店』という看板が下がっている。
どんなものが売ってるのか気になるけど、それはまた今度にしよう。
「じゃあ、こっちの店に入ってみましょう」
私がルカーシュを引っ張っていったのは、表通りにあった紳士服店だ。
ガラスのショウウィンドウの中には、マネキンがジャケットを着て立っている。
店に入ると、さすがに恥かしかったのか、ルカーシュが手を離してくれた。
ちょっとほっとしたのに、なんだか名残惜しいような気もして、私は自分の手を制服のポケットにしまった。
二人で店内を歩いてみたが、ルカーシュは決め手に欠けるのか唸っていた。
「あの……料理長が選んでくれませんか?」
「え!? 」
私は思わず自分の耳を疑った。
森の恵み亭の庭を変える時に、あんなに不機嫌そうにしてた、あのルカーシュが私に服を選ばせてくれるだと!?
これは、考えを変えられる前に早く選ばなければ。
「じゃあ、このジャケットとパンツと、このニットも合わせて!」
本当はこういうのを着てくれたらかっこいいだろうにと、密かに妄想していたのだ。それに近いものをささっと選んでルカーシュに押し付けた。
ルカーシュは、私があまりにも早く選んだことに眉を上げたが、大人しくそれを受け取って、試着室へと入っていった。
試着室の前でルカーシュの着替えを待つ。
自分が選んだ服を着てくれるだなんて……
あんなに臆病だったルカーシュが?
私は、前世で文鳥のブンちゃんが初めて私の手に乗った時に近い感動を覚えて涙が出そうだった。
「デートですか? お客様」
後ろから声をかけられて、びっくり。
紳士服店のマダムがニヤニヤしながら私の後ろで手もみをしていた。
否定しようとした時に、試着室のカーテンが開いてルカーシュが出てきた。
「デートです」
そして、勝手に私の代わりに答えてしまったから、私は口をパクパクさせた。
目の前には、着替えが終わったルカーシュ。
ダークグレーのジャケットにパンツ。
インナーにはワントーン明るいグレーのニットを着ている。
「か……」
かっこいい……
どうしていつもこの格好をしないのかと怒鳴りたくなるほどの破壊力。
「料理長、ありがとうございます」
「ん?」
ルカーシュが視線を下げて頭を掻いた。
「俺が黒が落ち着くのに気がついて、選んでくれたんですよね? いつもと違うけど、これならしっくりきました」
「ん!」
その通りだけど、わざわざお礼を言われると耐えられなかった。
恥ずかしくなって、私は近くに立っていた紳士服を着たマネキンの後ろに隠れた。
「べ……別に」
もうなんて言ったらいいか分かんないよ!
私の反応を見て、ルカーシュは優しく笑ってくれた。
その顔を見ただけで、私は歯がゆくて、唇を噛んだ。




