第12話 おにぎり弁当
午前中の授業が終わった昼休み。
私は、ナタリアとルカーシュを連れて、人気のない学園の中庭へ駆け込んだ。
中庭に来るとルカーシュは、私の肩からベンチへと飛び下りた。
「ちょっとルカーシュ! 急にくるだなんて、どういうこと!?」
ナタリアは、「あ、そのフクロウ、ルカーシュさんだったんですね!」と横で驚く。気がついていなかったのね……
「だって、料理長が心配だったんです。現に俺が来なかったら、危なかったじゃないですか!」
小さなフクロウからルカーシュの声が出てる。
かなり違和感があるけど、それどころじゃない。
「私は、ルカーシュがクルーガー先生に捕まっちゃうんじゃないかって心配したんだから! 私が機転を利かせなかったら、ルカーシュは今頃、鳥かごの中だったかもしれないんだよ!」
私とルカーシュは、二人して睨み合った。
「まぁまぁお二人とも、痴話げんかはやめて、お弁当でも食べましょうよ。貴重なお昼休みが終わってしまいますよ」
ナタリアは呑気なもんで、ベンチに座りランチボックスを開き始めた。
私もルカーシュを睨みながら、ベンチに座った。
「ほら、今日のお弁当は、お嬢様特製のおにぎり弁当ですよ」
「おにぎり!」
一番におにぎりをつつき始めたのはルカーシュだ。さっきまで怒っていたのに、調子のいいやつだよ、ほんとに。
弁当箱の中のおにぎりを嘴でつつくので、私がお弁当の蓋におにぎりをルカーシュ用に取り分けてあげた。小さな嘴で器用に食べている。かわいいから、唐揚げと卵焼きとブロッコリーも一緒に蓋に乗せてあげた。
大きなランチボックスは、二段のお重だ。
一つには、三角に握ったおにぎりを詰め、もう一つには、唐揚げや卵焼きといったおかずを詰めてみた。
「むむ! 料理長、このおかか煮、絶品ですね!」
ルカーシュはおにぎりの中の具にまでたどり着いたようで、羽を広げて大喜びだ。
おにぎりの具は、梅干しとおかかと焼きたらこの三種類にしてみた。
我が公爵家には、当然専属の料理人がいるのだが、前世の記憶が蘇ってからは、お昼ご飯は自分で作っていた。父も作ってくれとおねだりしてきたので、父の分も一緒に作って持たせている。
この世界では、聖女が食事を振舞う文化もあるせいか、貴族令嬢が料理をすることに抵抗を示す人は誰もいない。むしろ好意的にとらえる人がほとんどなのである。
ナタリアは、一番に卵焼きを箸で摘まんで一口。
すぐに頬を押さえて悶え始めた。
「はぁ……お嬢様の卵焼き。ふわふわで最高です」
この卵焼きは、実はふわふわになるようにはんぺんをすりつぶして入れた、特製卵焼きだ。ナタリアが気がついてくれて、私も大満足だ。
私は、自分も焼きたらこのおにぎりを手に取って、食べ始めた。
この焼いたたらこの食感と塩気がたまらないんだよね。
「それにしても、この国の聖女が民に料理を振舞う人だなんて、知らなかったな」
くちばしに米粒をつけながら言ったのは、ルカーシュだ。
「え、そうなんですか? 子どもでも知っている有名な話ですが」とナタリア。
聖女巡礼は、半世紀に一度の大きなお祭りだ。
この国の国民が皆楽しみにしている行事なので、知らなかったというのは確かに不思議だ。
「あ、俺、元々は隣国のエルフィリア王国の出身なんです。母と二人でこっちに引っ越してきたので、実はこの国のこと、知らないことも多いんです」
そうだったのね、と相槌を打つ。
いつぞやにルカーシュがエルフィリア王国の王子なんていう根も葉もない噂がたったことがあったけど、全部が間違いだったわけではないってことか?
「まぁ、私もナタリアも先代聖女様の巡礼の時は、生まれてなかったから、実際どんなものなのかは知らないのよね。国中を巻き込むお祭りになるっていうんだから、楽しみだよね」
ナタリアもうんうんと頷く。
「聖女の巡礼に合わせて、外国からも観光客が来たり、キャラバンが来たりするらしいですよ。その時は、このメンバーで遊びに行きましょうね」
私は、頭の中でルカーシュとナタリアと一緒にお祭りに行くことを想像してみた。
飾り付けられた王都の街並み。
きっと広場では、皆でダンスを踊ったりするんだろうな。
あとは、美味しい屋台とか……
前世のタコ焼きを思い出して、私はじゅるりと涎をすすった。
「ん? 待って……そしたら私たち森の恵み亭でも、屋台を出すべきじゃない?」
お祭りというのは、人の財布のひもを緩くさせる。
これを逃すのは、経営者として失格だ。
私の言葉に、ルカーシュとナタリアが笑った。
「なら、その時は屋台用のメニューも考えなくちゃいけませんね、料理長」
「そうね、考えると楽しくなってきちゃった」
父には、次の婚約が決まるまでの趣味だと言われちゃったけど、せめてこのお祭りまでは、三人で森の恵み亭をやりたい。
元々は断罪回避のために始めたことだったけど、私の中でそんな思いが芽生え始めていた。
「あ、あの……ソフィア様」
三人で、そんな話をしながらお弁当を食べていると、私たちに近づいてくる生徒が一人――
私はその声の主を見て、目を見開いた。




