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59.従者くん、友達に怒られる


「……ほ、本当によかったんですか? 殿下……」


 王宮へと戻る馬車の中、向かいに座るオスカーに尋ねると何でもないように「何がだ?」と聞かれた。

 何がって……全部だよ!! 監視のためとはいえ第一王子と同じ馬車に邪竜が詰め込まれてるこの状況から、何もかも全部!!


「だ、だって私ってほら、邪竜だし……」

「ネロ!! あなたオスカー様に楯突く気!?」


 ……おそらくは私のストッパーとして、隣に座るエリーゼがずい、と私に身を寄せて話に割り込んでくる。


「もう邪竜じゃなくなったの! あなたはただの竜なのよ!」

「い、いやそれにしてもでしょう……さっきの災害で被害とか出たんじゃないですか?」

「それは知らないけど……」

「知らんのかい! 調べてから物言いなさいほんと!」


 ぎゃーぎゃー言うエリーゼを見て、オスカーが呆れたように息を吐く。


「……お前のそういう、うるさいところが昔から苦手だった……」

「えっ」


 急な暴露に私もエリーゼも間の抜けた声を上げた。


「権威を傘にきて、勉強嫌いで……それでもお前と一緒に遊んでいたのは、ネロがいたのもあるが……ネロがいたおかげで、お前のいいところにちゃんと気付けたのも事実だ」


 オスカーは、まっすぐエリーゼを見る。


「エリーゼ。子供の頃から……いや、ニーナが現れてからも。君には随分ひどいことを言った。謝って許されることではないが、これからも俺と……『幼馴染』を続けてくれるか」


 エリーゼが目を見開いた。

 私も、びっくりして言葉を失う。だってオスカーが本当に謝るなんて思ってなかった。剣術勝負をしたあの日から、ずっと。

 エリーゼは躊躇うように俯いてから、意を結したように顔を上げて。


「……はい。これからもどうか仲良くしてください。殿下」


 ……初めて、人の初恋が終わる瞬間を見た。


 馬車が学園の前で止まる。エリーゼが御者の手を取って降りていくのを見送った後、私も降りようとすると。


「……ネロ。お前は自分が邪竜だと自覚したのはいつだ?」

「へ? そりゃ生まれて間もなくからずっと邪竜なんですから、もうずっとですけど……」

「そうか」


 オスカーはそう言うと。


「ぎゃぼーーーーーーっ!?」

「ネロぉ!?」


 私を馬車から蹴り出した。

 えっ、なんで!? マジで何!?

 驚いたエリーゼが駆け寄ってくるが、それより先にオスカーから胸ぐら掴まれて起こされる。何、何、なんなの!?

 混乱する私に、オスカーが。


「邪竜だとか……呪いだとか……何も、聞いていない……」


 オスカーの声が震えている。それが涙のせいだと分かったのは、オスカーが顔を上げた時にぼろぼろに泣いていたからだった。


「なんで言わなかった!!」

「っえ、いや、言えるわけないでしょ!? だってそんなこと言ったら討伐されるし……」

「するわけないだろう!! そんなこと!!」


 オスカーはそう言うと、私にぐっと顔を寄せる。


「俺たちは、友達だろうが!!」


 転生に気付いて、6年。いや、前世で画面越しに見ていた時から。こんな子供みたいにめちゃくちゃに泣くオスカーを初めて見た。

 ぽかんとしていたら「返事!!」と怒られて「はいっ」と背筋を伸ばす。


「……前にお前がおかしいと言った時、聞かなかったのは俺だ……悪かった。でも……っ、あれくらいで俺を見限るな」

「で……殿下……そんな無茶苦茶な……」

「ああ。無茶苦茶だ。お前が思っているより俺はずっと、幼稚で、騙されやすくて、どうしようもないんだ」


 もはや開き直ったオスカーが、ふん、と胸を張る。胸を張るところじゃねーだろそこは。


「だから……俺が間違えた時は、今度はお前が、友達として俺を殴れ。いいな」

「そんな王子を殴るなんて……」

「いいな?」

「……ま、拳骨くらいなら……」


 まったく、わがまま王子である。

 やれやれと息をついていると、その光景を遠くから見ている──王国騎士団の人に両隣を抑えられたニーナと目が合った。その顔にいつもの笑顔はなく、冷え切った無表情でこっちを見いる。

 隣にいるのは護衛……っぽくはない。なんだか、まるでニーナが捕えられてる、ような。


「……ニーナ」


 オスカーが呼ぶと、ニーナが冷たい目を揺らすことすらなく、「はい」と答える。覚悟を決めているかのような、あるいは全てを諦めたかのような声音に、ぞっとした。

 そして初めて、ニーナが漂わせていた誘惑の香水。あれの匂いがまったくしないことに気がついた。


「……君は竜を抑える力もないのに聖女を騙り、魔法を使って人々を惑わせた。その責任はとってもらう」

「…………わかりました」


 ニーナは静かにそう言うと、騎士団達に連れられて王宮の裏口、おそらく罪人達が行くところへ向かっていく。

 その後ろ姿に何か声をかけようとして、やめた。

 多分、今更何を言ったって、私があの子に出来ることはもうないのだ。


「……ネロとエリーゼはこっちだ。ついてこい」


 オスカーは鼻を啜ると、次の王としての威厳をもって、歩き出す。

 さっきまで泣いて喚いてたのが嘘みたいで、なんだか可笑しくて、頬が緩む。

 朝日を浴びる王宮を見て、ようやく私は帰ってきたんだと実感した。

「好きだな」って思ってくれたらお好みの形で好き♡を伝えてくれるとうれしいです♡

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