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47.従者くん、失望する


 エリーゼがニーナに怪我をさせて、数日。


 結局、エリーゼは停学処分となった。


 暴力事件を起こしておいて退学にならなかったのが不思議なくらいだとオスカーは言っていた。きっと、エリーゼが公爵令嬢だから……その恩恵があるのも大きいだろう。でもきっと、その身分だけで庇えるギリギリのラインだった。


「ニーナ、頬はまだ痛むか?」

「もう大丈夫だよ、オスカー。心配性なんだから」

「ぼくら皆心配してるよ。まさかエリーゼがあんなことするなんて……」

「いや、俺はいつかやると思っていた。まったく、あいつは騎士団の訓練の時に何を学んでいたんだか……」

「そう言うなよ。多分エリーゼもかっとなったんだ。……でも、ニーナのためにも今後は距離をとってやるのが大事かもしれないな」

「そうですわね……ニーナ様、まだエリーゼ様が怖いんでしょう?」

「っ……ごめんねアンジェリカ、みんな……わたし、ほんとはまだ……」

「無理もない。あんな暴力を受けたんだ。……エリーゼは、生徒会から除籍した。何かあればいつでも俺に言え」


 エリーゼのいない、エリーゼの居場所のない生徒会室は、ますますニーナを中心に歪んでいく。


「……ネロ様? ずっとだんまりで……どうしたんですの?」

「あ……すみません、ちょっと、仕事に集中したくて」


 私だけがそれに馴染めないで、ただ黙々と仕事をしていた。


 生徒会の嫌なところは生徒会長……つまりオスカーの判断で在籍も除籍も左右されると言うことだ。私がどれだけ皆に馴染めなくたって、真面目に仕事してるうちはオスカーも私を切り離さない……いや、仕事をサボったって在籍させ続けるかもしれない。

 だって、ニーナが。


「ネロくんは、エリーゼ様からわたしを庇ってくれたの……ありがとうね」


 そう言って、こっちに笑顔を向ける。こいつはまだ、私のことを攻略しようと狙ってる。


「ネロ! 見直したぞ! エリーゼばっかり構っていたお前がな」

「今回の件でエリーゼも少しは反省してくれるといいけどなぁ」


 俯く私に、アルフレッド先輩とヴィルジールが好き勝手声をかけてくる。アルフレッド先輩は推しだし、ヴィルジールだってめちゃくちゃ頼りにしてる先輩だ。だけど。


「……今日の分の仕事、終わったので……すみません、先に失礼します」


 これ以上ここにいたくなくて、逃げるように生徒会室を後にした。




 放課後の誰もいない廊下を、とぼとぼ歩く。


 状況が悪化しすぎてる……。


 誘惑の香水、エリーゼの悪手、私のやることなすことも全部、ニーナの手の上で踊らされてるような感覚がする。こうやって逃げてるのも実際ニーナの計算のうちで、いつか私もエリーゼを捨てて、ニーナと。


「ネロ!」


 暗いところに沈みかけた考えが、遮られた。


「……殿下」


 振り向くと、オスカーがいた。

 走って追ってきたのか、息を切らしている。最近はどこに行くにも何をするにもニーナと一緒だったのに、なんで一人で。そんな疑問は、オスカーが息を整えながら言った。


「……どうした?」


 この一言で、ああ心配してくれたのか、とすぐに胸に落ちた。


「お前はいつも変だが……最近は特別変だ。何があった?」


 近付いてくるオスカーを見ていると、いろんな思い出がぶり返す。


 エリーゼに謝れって言ったせいで剣術勝負なんてする羽目になったこと。負けを認めてくれなくて、オスカーから剣術を習うようになったこと。エリーゼとオスカーと街に行ったこと。図書室で皆で勉強したこと。アルフレッド先輩と仲直りするために騎士道を教えてくれたこと。皆で頑張ってダンジョンを脱出したこと。

 ……泣きそうな顔で、自分の出自を告解したこと。


 唇を噛む。


 オスカーなら……オスカーなら、もしかして。


「……最近、皆、変ですよ……」


 絞り出すように、言った。


「聖女様だからってあんなに持て囃して、皆言いなりで……エリーゼ様だけ仲間はずれにして……昔はあんなに仲良しだったじゃないですか。あの人が来てから、皆、おかしいですよ……」


 あ、だめだ。泣きそう。でも、絶対、ちゃんと伝えなきゃ。


「だから……ッ」

「ネロ」


 俯いていた顔を上げて、オスカーと目を合わせる。

 何の光も反射していない、濁った空のような瞳を見て、息を呑んだ。


「……お前、またエリーゼに何か吹き込まれたのか」


 その瞬間、すっと頭の芯が冷えるのが分かった。

 ぐ、と握りしめていた拳を緩めてだらんと下げる。


「……ニーナは素晴らしい女性だ」


 その一言を皮切りに、オスカーはニーナがいかにすごいか語り始めたが、もう聞く気はなかった。


 あ、オスカーってもう、違うんだ。


 幼馴染で、自分勝手で、プライド高くて、だけど王子としての器はちゃんとあるって思えたオスカーはどこにもいないんだ。ここにいるのは、ヒロインに攻略されてる乙女ゲームのキャラの「オスカー」なんだ。私の知ってるオスカーは、もう。


「……そうですね。私が、誤解していたのかもしれません」

「そうだろう」


 オスカーがいかにも優しげな笑顔で私の肩を叩く。その手を振り払う元気すら、今日はなかった。

「好きだな」って思ってくれたらお好みの形で好き♡を伝えてくれるとうれしいです♡

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