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44.従者くん、説教する


 前年度の部費申請のファイルを抱えて、生徒会室へ向かう渡り廊下をとぼとぼ歩く。

 なんだか少し戻りたくない。ニーナを探すとかいう大義名分はあるし、少し遠回りして帰ったろうかな。

 大体なんだよ、オスカーもミカエルも、アルフレッド先輩まで……確かに誘惑の香水はめちゃくちゃすごいアイテムだけど、だからってあそこまでニーナが正しいって顔してなくてもいいじゃん。エリーゼにだって言い分はあるわけで、そこをちゃんと聞いてやればみんなだって……。


『お前があいつの成長の機会を奪ってる部分もあるだろう』


 オスカーの言葉が頭の片隅にこびりついてる。

 そんなことない、と切り捨てるには私のやってることはあまりにもエリーゼに甘いような気がした。


「はぁ……」


 ため息をついて、現実から目を逸らすように中庭に視線を向ける。穏やかな陽光、揺れる草花。なんてのどかな光景か……なんて感慨に耽る暇もなく。


「……ん?」


 親の顔より見た銀髪頭が、大きな木のそばに立っているのが見えた。

 エリーゼがそこに立ってるだけなら別に問題ない。問題は、エリーゼの後ろには伯爵家や子爵家のご令嬢がずらりと並び、その向かい……木を背に追い詰められるように怯えた顔のニーナが立っているということだ。

 いや、さすがにそこまでしないだろ。嘘だよな? え、嘘、ほんとに嘘って言って?

 がらりと窓を開ける、と。


「身分というものをわきまえなさい!!」


 恐ろしいほどテンプレのようなセリフを吐く、クソガキの声が聞こえた。


「悪役令嬢じゃねーーーーーか!!」


 思わず叫んで、窓枠を乗り越えて走り出す。目標はただ一点。


「学園といえど平民は平民、貴族は貴族! あなたァ゛ッ!?」

「何やってんのこのお馬鹿!!」


 ご高説かますエリーゼの脳天に拳骨をぶちかます。

 多少痛いかもしれんが知るか!!


「っな、なに、ネロ!? 何するのよあなたっ、主人に向かって!!」

「アホなことしてるからでしょうが!! ほら早くニーナさんに謝ってください!!」

「嫌よ! 私悪くないもの!!」

「集団で詰めるのの何が悪くないのォ!?」


 ぎゃーすか口喧嘩をしていると、取り巻きのご令嬢達はもちろん、ニーナまでもどこか引いた目で見てくる。知ったことか、とは思うけどここでこのまま説教を続けるのも恥ずかしい……。


「ったく、ほら!」

「えっ、きゃあっ!?」


 騒ぐエリーゼを俵のように担ぎ上げて、ぽかんと口を開けているご令嬢達に会釈だけする。そして、ニーナには。


「……すみませんでした。お嬢様には私からしっかり言っておくので、もうお互いに関わり合いにならないのが一番よろしいかと」


 自分でも思ってるより低い声が出た。ニーナは目を丸くした後、にこりと笑って。


「……ふふ。ネロくんとエリーゼ様って、本当に仲良しなんだね?」


 ……きっとこれも、生徒会の面々に伝えられるのだろう。エリーゼの自業自得ではある。でも、だからって。


「……行きますよ、お嬢様」

「っちょ、おろしなさいネロ!! 不敬よ!!」


 エリーゼを抱き上げたまま、私は逃げるようにその場を後にした。




「ネロ!! おろしなさい!! おろしなさいったら!!」


 エリーゼから背中を叩かれてはっとする。気付けば中庭から随分離れた場所にある、鬱蒼と木が生い茂る裏庭までやってきていた。

 ……ま、ここまで来たら別にいいわな。


「ほんじゃ降ろしますよ……っ、と」


 しゃがんでエリーゼを降ろすと、怒りすぎて真っ赤になったエリーゼが私を睨め付ける。


「あなた、主人に向かって何のつもり!? 本来ならクビにしてるところよ!!」

「……クビは、困りますよ」


 こちとら子供の頃からあんた一筋で破滅回避目指してるんだぞ……。

 そんなこと言えるはずもないのでため息だけ返すと、エリーゼが不可解そうに眉を顰めた。


「……あなた今日、ずっとおかしいわよ。クビにするなんて、まさか本気にしてるわけじゃないわよね?」

「してませんしてません。お嬢様の癇癪に付き合えるのなんて私くらいしかいないんですから」

「癇癪って何よ!」


 癇癪は癇癪だろ。ニーナのことが気に食わなくて、あんなテンプレの悪役令嬢みたいなムーブして、きっとまた孤立して。

 エリーゼのためにならないかもしれない。成長を妨げてるのかもしれない。

 分かってるのに、なんでほっとけないんだろう……。

 ぼんやり考えていると、エリーゼがぎゅ、と袖を握ってきた。えっ、何? どうした?


「……クビになんかしてやらないわよ。あなたは一生、私の従者でいるんだわ……」


 俯いて、何かを堪えるような震える声でそう呟く。


 公爵からの手紙を、思い出した。

 そこに書いてあったのは、私を養子にしようと考えてるという話だった。

 エリーゼの悪評は、オスカーを通じてスカーレット公爵家……エリーゼの両親にも伝わっていた。あの分では順当に王妃になれるかも怪しいから、改めてスカーレット家の後継として私を迎え入れたい、と。


 なんで誰もエリーゼの言うこと聞いてやらないんだよ。この子は悪いところばっかりじゃないよ。確かにクソガキだし、口うるさいし、めんどくさいけど。それでも、せめて、私だけは。


「……はい」


 静かに、言い聞かせるように、そう言った。

「好きだな」って思ってくれたらお好みの形で好き♡を伝えてくれるとうれしいです♡

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