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40.従者くん、選ぶ

「って、ててて、てん、転生ッッ!?」


 まずい!! 動揺をこんなに顔にも声にも出す奴があるか!!

 そうわかってはいるが、顔の引き攣りも声の震えも止められない。どうにか、どうにか誤魔化さないと!!


「しっ、知りませんよなんですかそれ、美味しいんですか!?」

「聖女革命ドラゴニックラヴァーズ」


 前世で何度も聞いたゲーム名を前に、「はひゅ」と間抜けな声が出た。


「わたしも好きだったんだ、前世で」


 ニーナの笑顔に不気味なものを感じる。それは、ニーナは柔らかく微笑んではいるが……その冷たい目はじっと私を見据えていたからだ。


「ぜ……前世、ってこと、は」

「わたしも転生してきたの。日本から」


 ニーナも……転生者……!?


「びっくりしちゃったよぉ。いざ学園に入学したら、原作と全然違うんだもん。ヴィルジールはナンパしてこないし、アルフレッドはなんかおバカになってるし……エリーゼとオスカーもあんなに仲良いなんてどうしたんだろうって思ってたけど、ネロくんがそうなら辻褄が合うね」


 しかもゲーム名や原作でのそれぞれのキャラまで把握してるってことは、ちゃんとドララヴァの知識を持って転生してきたってこと。いや、それはいいとして。


「なんで、それを私に……ネロに、話すの……」


 か細い声で聞き返すと、ニーナがふわっと優しく目を細める。

 天使みたいな笑顔が、怖くてたまらない。

 もしかしてこの子は原作遵守派で、原作と同じくネロは破滅すべきとか考えてたら──……。


「わたし、ネロくんを助けてあげたいの!」

「へっ」


 ニーナはぎゅ、と私の手を握る力を強くした。


「ネロくん、ちゃんとドララヴァやった? ネロルート」

「や……やった……」

「じゃあ分かってるよね。ネロくんは人と愛を育まないと邪竜になっちゃうんだよ。わたしに助けてもらうしか、君がこのまま生きる道はないの」


 やっぱり、そこまで分かってるのか……。

 で、でも、だけど。


「ネロが推しなの……?」

「んー、どっちかっていうと推しはオスカーかな? 声優さんも好きな人だし」

「なっ、なら、なんで……」

「あ、安心して。ネロくんが可哀想だからってだけじゃないよ」


 窓から射し込む逆光が、ニーナを後ろから照らす。影になったニーナに神々しさと禍々しさの両方を感じた。


「わたし、逆ハーレムエンドってやってみたいの!」


 思わず、「は」と声が出た。


「ドララヴァ、すっごく好きなんだけど逆ハーレムエンドがないのだけが不満なんだよね! ゲームしながらずっと思ってたの、わたしならオスカーもミカエルもヴィルジールもアルフレッドもネロもみんな愛してあげられるのにって!」

「あ……愛して……」

「うん、愛!」


 そう自信満々に言い切られると、なんだかこっちが疑問を持つことがおかしいような気がしてくる。


「だって、みんなヒロインが攻略するからトラウマとかコンプレックスとか、かけられた呪いを乗り越えるんだよ? 一人だけ選んで他のみんなは知らんぷり、なんて可哀想じゃない。わたしはみんなが幸せな世界がいいな!」


 ひどい理想論だ。そんなの出来っこない。だけど。


「……どうやって……」


 方法を知りたくなるくらいには、ニーナの目は本気だった。


「そうだな〜、本当は模擬戦優勝したかったけど、誰かさんがエリーゼに勝ちを譲っちゃったからね」

「そ、それはすいません……」

「大丈夫大丈夫! これから試験にプロムに、好感度あげるイベントなんて山ほどあるんだから! わたし、全員ちゃんと一周はしてるから大丈夫だよ!」


 なんだかそう自信満々に言われると本当に大丈夫なような気がしてくる。緊張しているのが馬鹿らしくなって、体の力をふっと抜いた。


「何それ……じゃあアンジェリカの友情エンドも見た?」

「見た見た! 最後のスチルめちゃくちゃ気合い入ってたよね!」

「オスカーの出現率めちゃくちゃ低いイベントは? あの、騎士団の副団長と勝負するやつ」

「見たに決まってるよ! あの副団長、同じ会社の別作の攻略対象なんだよね!」


 思った以上にちゃんとやりこんでる……この子なら、私の邪竜化を……世界の危機を防いでくれるのかもしれない。

 そこで、ふと気付いた。


「あ、でもエリーゼはルートがないよね」


 エリーゼは悪役令嬢。オスカー達みたいな攻略エンドやアンジェリカみたいな友情エンドは用意されていないのだ。


「ま、でも大丈夫か。ああ見えてエリーゼは単なるクソガキだから、多分ニーナさんが優しくすればころっと……」

「何言ってるの、ネロくん」


 ニーナは笑顔を崩さないまま。


「エリーゼにはちゃんと悪役として破滅してもらうよ?」


 そう言った。


 目を見開く私に、ニーナが「だってそうじゃん」と笑顔で続ける。


「エリーゼは悪役令嬢なんだから、みんなに疎まれて、嫌われて、最後にはわたしをいじめた罪で国外追放されなきゃいけないの。そうしたら、みんなはわたしのことを守らなきゃって一致団結するでしょ?」


 こいつ……何、言ってんだ?


「にっ……ニーナさん、皆が幸せな世界がいいって」

「皆にエリーゼは入ってないよ」


 笑顔のままなのに、鈴を転がすような声なのに、瞳だけがやけに冷たい。どっ、どっ、どっ、と心臓が迫るように鳴る。ニーナが、私の手を自分の方に寄せた。


「大丈夫。エリーゼは悪役令嬢なんだから、どうなったって自業自得なんだよ」


 頭の中に、前世の記憶がぶり返す。

 笑い声が満ちる教室。その真ん中で、今にも泣きそうに肩を震わせる生徒。それを、ただじっと見てるしかできない私。

 そして、次に思い出したのは。

 10歳の頃、前世の記憶を思い出した朝。庭園で一人で泣く、エリーゼの姿だった。


「え」


 ニーナが間の抜けた声を漏らす。私が、ニーナの手を振り払ったからだ。


「ネロくん?」

「っ……私、は……」


 俯いていた顔を、あげた。


「私は、あんたとは手を組まない……!」


 ニーナが目を丸くする。でも、止められなかった。止めちゃいけないと思った。


「邪竜化なんて、自分で回避できるし……っ、あんたはあんたで好きにしたらいいよ。だけど、あんたの言う皆に、エリーゼが入ってないなら、それは……っそれなら、私だって入らない!!」


 椅子から立ち上がり、逃げるようにニーナに背を向ける。


「そういうことだから!! 手当てありがとう!!」

「……あはっ、じゃあね、ネロくん」


 逃げるように医務室を後にして、早足で廊下を進んで……誰もいない廊下の隅で、深い深いため息をついた。


 な……なんであんなこと言っちゃったかなァ!?


 別にニーナが助けてくれるんならそれでよかったじゃん!! エリーゼなんか知ったこっちゃないじゃん!! 割とあいつはたくましいんだから国外追放されたってなんだかんだうまくやるって!! それにニーナにだってうまいこと言えばエリーゼを追放しないやり方だって……!!

 そう、何度も何度も自分に言い聞かせるが、どうしてもニーナに「やっぱり私も逆ハーレム入れて♡」なんて言いに行く気にはなれない。


「これからどうしよう……」


 なんだか自分がとんでもなく馬鹿なことをしたような気がして、項垂れた。

「好きだな」って思ってくれたらお好みの形で好き♡を伝えてくれるとうれしいです♡

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