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37.従者くん、模擬戦に挑む


「ニーナさん、いきますよ!!」

「っ、うん! モモっ、守って!!」


 セトが出した水の弾丸を、モモの防壁にぱんっと弾かれる。そして。


「モモ! 歌って!」


 ニーナが指を組んでそう言うと、モモが大きく口を開いて、どこか物悲しい旋律にのった鳴き声を出し始めた。そうすると、魔法陣はニーナを……いや、もっと広範囲を守るようにぱん、ぱん、と何個も展開される。

 全部押し流してやる勢いで水の弾丸を連発しても、その魔法陣は崩れなかった。


「……できた……!」


 ニーナが指をほどくと、魔法陣が空気に溶けるように消えていく。そしてニーナはモモとともに、私の方に駆け寄ってきた。


「できたできたっ! これならちゃんとネロくんが危ない時も守れるよねっ!」

「はい! これなら優勝もしっかり狙えますよ!」


 防御魔法は数あれど、モモみたいにあんな広範囲に展開できるのはそう多くない。ヒロインとしての運命力というべきか……ニーナにあてがわれたのは扱いが難しい、だけど強い竜だったんだ。


「模擬戦までに間に合うか不安でしたけど、まさか前日ギリギリで仕上げてくるとは……」

「ふふふ、実は生徒会の仕事が終わった後に個人特訓もしてたのだ!」

「えっ」

「ネロくんと頑張ってるとね、わたしも優勝したいって思えてきたの!」


 ニーナがふわりと笑う。その笑顔に一瞬どきっとして……乾いた笑いが出た。

 いや、ニーナとは確かに仲良くなったけどこの子に邪竜回避させてもらおうなんてのは無謀だ……。だってこのままいけば学園での三年間、ニーナは男を落として落として落としまくるに決まってるんだから。

 実際、聖女だってのに気取ってなくて優しくて可愛いニーナに、片想いしてる男子が何人もいるって聞いたことがある。そりゃこんな美少女、モテて当然だよな。


「ネロくん?」

「いやあ……ニーナさんって可愛いなと思って。皆さんが夢中なのも頷けますよ」

「……ネロくんは?」

「あは、身分違いってやつですね」


 ごめんと一言謝ってから、セトの口輪を付け直す。本当は口輪なんていらない気もするが、口輪なしで竜舎に返すと先生からどやされるのだ。


「さ、もう遅いし。モモとセトを返して、私達も帰りましょうか。今日は試合に備えて早く寝なきゃ」

「……そうだねっ」


 まあ何にせよ、これで模擬戦は安泰! エリーゼとオスカーの優勝回避! 私の邪竜回避道は順調に進んでいる!




 模擬戦は一年生の時に迎える重大イベントだ。この日だけは他の授業も全部休みで、一日ずっとトーナメント表に従って、戦って戦って戦いまくる。

 二、三年の先輩どころか卒業済みの先輩や国の要人まで何人か見にきてるあたり、生徒によっちゃ将来の道すら左右する行事なんだろう。王国騎士団に入りたいといっていた男子生徒なんかはぱんぱんと頬を叩いて気合を入れている。

 だが残念、優勝は私が掻っ攫っていく!! 全ては邪竜化回避のため!! お前らの甘っちょろい目的とは違うんだよォ!


「……何にやにやしてるのよ、気色悪い」


 校庭の隅、くっくっくっと悪役笑いをかましていたら聞き慣れた声に罵倒された。


「お嬢様。殿下は一緒じゃないんですか?」

「オスカー様はお忙しいのよ。開会式の宣言をされるのだし」


 エリーゼはそう言いながら、長い髪をふぁさ、とかきあげる。


「……お嬢様、こういう校庭に出る授業の時は髪が汚れるからまとめてくださいっていつも言ってるでしょ」

「う、うるさいわね! 自分でやろうとしたけど上手くできなかったから……っこういうのはあなたが気付いて自分からやるべきなのよ!」

「はいはい、後ろ向いて。ったく、いつまでもクソガ……子供なんだから……」

「ちょっと、今何言いかけたの!!」


 ハーフアップの髪をほどいて、ポニーテールに結び直す。こんな簡単なことなのになんで自分でしないかな。まあ、別にいいんだけど。


「ほら、出来ましたよ」

「……ふん、最初からこうすればいいのよ」


 エリーゼはつんと唇を尖らせたままそう言った。その耳が赤いのを見て、不安になる。こいつ……もしかして熱があるとか言い出さないよな!?


「お嬢様、ちょっと……」

「ネロくんっ!」


 エリーゼをこっちに向かせようとすると、ニーナが元気いっぱいに駆け寄ってきた。


「ここにいたんだ! 探したよぉっ、あ、エリーゼ様も! ごきげんよう!」

「……ごきげんよう、フローレンスさん」


 こっちは偉いことにちゃんと髪の毛を二つにまとめて縛ってる。うーん、やっぱり可愛い。


「エリーゼ様の髪の毛、結んであげてたの?」

「はい。お嬢様は昔っから考えなしに暴れ回って髪の毛ぼっさぼさにするんですから」

「してないわよ!! そんなこと!!」

「でもそれなら、ネロくんも髪の毛結ばなきゃじゃない?」


 ニーナの手が私に伸びる。


「ネロくんも襟足、長いし」


 その手を止めるように、すっと私の目の前にエリーゼの手が割り込んだ。


「……私の所有物に触らないで」


 そう言って、ニーナを睨めつける。

 エリーゼの声が低い。ニーナはぱちくりと瞬きをして、私とエリーゼを見比べた。そして、さあっと青ざめて。


「わっ……わたし、そんなつもりじゃ……」


 目に涙をいっぱいに溜めた。え……エリーゼが女の子泣かした!!


「ちょっ、お嬢様!! 何泣かしてるんですか!! いーけないんだいけないんだ!」

「そっ、そもそもその平民があなたに触ろうとするからよ! あなたは私の所有物なのに!」

「すいませんねえニーナさん、お嬢様っていつもあんなんなので……」

「あんなんって何よ!!」

「っう、うん……ごめんね、わたし……」

「大丈夫大丈夫、髪の毛は自分で結ぶので」


 適当にしばって、「ほら」と二人に見せる。エリーゼもニーナも若干納得いかなげな顔をしていたが、開会式が始まる鐘の音が鳴るとすぐに関心はそっちにうつった。

 しかし、私に触られるだけであんなキレるとは……エリーゼってしっかり悪役令嬢なんだなあ……。




「この模擬戦は、竜使いとして今まで勉強したことを活かすまたとない機会です。悔いのないよう、自分の実力を出し切るように!」


 学園長の挨拶や選手宣誓……開会式のプログラムを終えて、ついにトーナメント表が発表される。

 エリーゼとオスカーペアとは……順当にいけば、決勝戦でやっとあたるって感じだな……。


「ネロくん、頑張ろうね!」

「はい!」


 ニーナと一緒に気合を入れて、初戦に挑む。

 校庭には、白線で区切られた模擬戦用の区画がいくつもずらりと並んでいる。

 そのうちの一つ、一番隅っこにある区画……そこではすでに、初戦の相手である子爵令息と男爵令嬢が待っていた。


「よしっ、相手は聖女だけどパートナーは奴隷のシュヴァルツだ! 勝てるぞ!」

「そうですねっ!」


 お向かいででかい声で失礼なこと言ってる……まあ奴隷出身、公爵令嬢のおまけみたいなもん。私は舐める理由なんてありすぎるのだろう。

 実際、アルフレッド先輩やヴィルジールを除いた観客達は皆、「いくら聖女とはいえ平民が貴族に敵うわけない」とどこか楽しそうに噂してる。

 ……目にもの見せてやらなくちゃな。


「それでは第一戦、シュヴァルツ・フローレンスペア対ムルソー・アルベールペア!! はじめ!!」


 ついに、模擬戦が始まった!!

「好きだな」って思ってくれたらお好みの形で好き♡を伝えてくれるとうれしいです♡

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