36.従者くん、目にもの見せる
「本番と同じ2対2、相手の竜を行動不能にした方が勝ち、でいいですわね」
「はい!」
裏庭で伯爵令嬢二人と対峙したニーナが、自信満々に返事する。いやお前、そんな顔してますけど未だモモに髪の毛もしゃもしゃ食われてますよね……なんて言える無粋さは私にはなかった。
というか伯爵令嬢二人もニーナがそんな段階って分かってるのに堂々と練習試合申し込んでくるんだから、ずいぶんいい根性してるというか……。
まあ、勝てる相手に挑みたいというのは悪いことじゃない。簡単な問題から潰していけ、は受験対策の基本のキだ。
「戦闘不能にならなくたって、勝てないと思ったらいつでも降参してくださって構いませんのよ?」
「そうよ、わたくしたちも平民や奴隷をいじめて遊ぶ趣味はありませんもの」
しかしそれは、自分の実力と目の前の問題を見比べられる力があって初めて成立する話である。
「ネロくん、わたしも出来る限りサポートするから!!」
「そうですね……今は後ろに下がっててもらっていいですよ。自分とモモを守ることだけ考えてもらっていいです」
ニーナより一歩前に出て、竜を使った授業用に配布された黒い革手袋をぎゅ、と嵌める。
「お勉強の時間です。目にもの見せてやりましょう」
伸びしろはあるっていうのに、なんだか勿体無い。そんなご令嬢二人を前に、私はセトの口輪を外した。
「行きますわよッ!!」
練習試合に審判なんてものはいないので、ご令嬢は宣言した途端に竜の口輪を外す。竜がぱふぁ、と口を開いて、そのまま。
「放てッ!!」
「うおッ!?」
……セトが水の玉を作ってギリギリで受け止めてくれたけど、これ確実に私の顔面に当てる気だっただろ……。
水中に浮かぶ石ころを見て、なるほど攻撃側のご令嬢の魔法は岩を精製して飛ばす魔法かと分かった。
大きさ自体は小指の先みたいなもん。でもあのスピードで作って飛ばせるとは……。
「まだまだ行きますわよ!! 放てッ!!」
「うわっ、わ、すごぉっ!!」
素直に感心してしまった。だってガトリング砲かよってくらい装填も発射も速い!
こりゃあセトの反射神経がないと一発ずつは防げなかったな。
しかし何度も水の玉を吐かされているセトは、早くなんか対策しろやと言わんばかりに私を睨む。分かった分かった、と手で返事をして。
「セト、前に言ったあれやるよ。応用編」
そう呟くと、セトは口をさっきより大きく開いた。
「っ放てッ!!」
ご令嬢が小石を放つ。それをまた、水で受け止めた。でも、今度は水球じゃない。
「っ……水の、膜……!?」
広範囲に広げた水の円は、連発された石を全て受け止めるとばちゃん、と崩れる。
「こいつは何も水の玉作るだけの竜じゃないんです。……見誤りましたね?」
手を伸ばして、後ろ側にいる方の令嬢……防御を担当している方に向かって指をさす。
「セト、もう一個応用! 撃て!!」
セトが口を開くと水の塊は弾丸のように形を変えて、びゅん、とご令嬢の抱える竜を狙って飛んでいく。
「っ、砕け!!」
しかし、防御担当のご令嬢がそう言った途端、水の弾丸はぱんっと弾けて霧となってしまった。
はは〜なるほど、あの竜は物質を分散させる衝撃波みたいなのを放てるのか。エリーゼのシャアみたいに鉄を作る魔法ならまだしも、水なんて柔らかいもん簡単に崩される。こりゃあ相性悪いなあ……。
「っ……ほら!! 大人しく降参しなさい!」
そうこう考えている間に飛んでくる小石達を水の膜で受け止める。
「あなた達に勝ち目なんかないのよ!!」
たしかにほとんど2対1だし、水の攻撃は散らされる。圧倒的不利な状況だ。しかし。
「やり方としちゃ、及第点ですね」
私がそう呟くのと。
「っきゃあッ!?」
ご令嬢二人が尻餅をつくのが同時だった。
「なっ、何これ、泥!?」
「あっ、りゅ、竜が……っ!!」
竜達が二人の手を離れた、その隙に。
「セト、閉じ込めて」
二人の竜をまとめて水の玉で包み込む。竜達はがぽっ、と泡を吐き出した後、その口をゆっくり閉じてえらを開いた。
「なっ、なんで……ッ」
「簡単な応用編ですよ。水の魔法をかけたんです。お二人の足元に」
どろどろに崩れた地面にはまりこむようにへたり込んだ二人に、手を差し出す。
「お二人の竜、とっても強かったです。だから、もう少し鍛錬すればもっと伸びますよ」
二人ともぎりぎりと歯を軋ませてから、ぷい、とそっぽを向いた。この状況でも奴隷の手は借りないか……。ここまでくるとかなり徹底してて好感すらあるな……。
「セト!」
竜を覆っていた水魔法を解く。ぱしゃんと水の玉が弾けて、濡れた竜がぶるぶるとその身を振った。
自力で立ち上がるんなら別にもうここにいる理由もない。
「ニーナさん、行きましょうか」
「う、うん……ネロくんってすごいんだね!」
「いや、セトが優秀なんですよ。かなり頑張ってもらったし、今日はハムステーキ食べさせたげようね」
肩にのったセトが目に見えて浮かれる。生意気なところもあるけどこういうところは素直で小竜らしいんだよな。
セトの顎を撫でながら、令嬢二人に背を向ける。そして、歩き出そうとした瞬間。
「…………ッ、放て!!」
苦し紛れな声と同時に、何かが迫ってくる感覚。
振り向くと、ようやく泥から抜け出せたご令嬢が、憎々しげにこっちを睨んでいた。その足元では竜が口を開き、作り出された石がニーナに向かって飛んでいる。
やばい!!
「ニーナ……ッ!!」
手を伸ばすが、あと一歩届かない。このままじゃ、ニーナに当たる……!!
そう思った、瞬間。
「っきゃ、あッッ!?」
ニーナの頭にのったモモが、口を開いて……鳴いた。
鳴き声は丸い魔法陣になって、ぱんっ、と石を弾く。
「っ、モモ……!?」
モモはふーっ、と尻尾を立てて、泥まみれの令嬢二人を威嚇する。ニーナを、守るみたいに。
「〜〜〜〜〜っっ、覚えてなさい!!」
二人はテンプレみたいな捨て台詞を吐いた後、逃げるようにその場を走り去る。
残された私達は、皆モモに目を向けた。
「ぼ……防御魔法……? モモが、守ってくれた、ってこと……?」
「は、はい……そういうことになりますね……」
驚きに何度もぱちくりと瞬きを繰り返して、二人で顔を見合わせる。そして。
「や……やったーーーーーーーーー!!」
思わずハイタッチをした。
「すごいすごいすごいっ! モモが魔法出してくれたよ、わたしのためにっ!」
「はい! ニーナさんが頑張ったのが伝わったんですよ!!」
「ううん、ネロくんのおかげだよ! ネロくんがお世話の仕方教えてくれたからモモと仲良くなれたんだもん!」
「いや、私は何も……でも、本当にすごいっ、なんだよお前、あんなの出来るんなら最初からしろよ!!」
うりうりとモモを撫でると、満更でもなさげにふん、と鼻を鳴らす。素直じゃないけど、なんだかんだこいつなりにニーナのことを慕ってるんだなあ……。
「ネロくん! 優勝しようね! 模擬戦!」
「はい!」
夢のまた夢みたいだった目標が、ようやく形になってきた!
「好きだな」って思ってくれたらお好みの形で好き♡を伝えてくれるとうれしいです♡




