34.従者くん、提案する
まずい。非常にまずい。
「オスカー様、生徒会のお仕事まで時間がありますわよね? よかったら特訓に付き合っていただきたいのですけどっ!」
「ああ、構わない」
放課後を知らせる鐘が鳴った途端、エリーゼがオスカーに駆け寄って行く。
と……止める隙すらなかった……いや!! まだ遅くない!!
「特訓いいですね〜、私もご一緒したいなッ」
「だめよ! これはオスカー様との秘密特訓なんだから!」
「作戦会議も含めてるからな。本番で当たるのを楽しみにしておけ、ネロ」
クソがよ!!
二人が楽しそうにあーだこーだ言いながら講義室を出るのを見て、背筋にじっとりと冷や汗がにじむ。
……これ、結構やばくない?
六月にある模擬試合といえば、オスカーエンドを目指すなら絶対優勝しなさいとどの攻略サイトでも言われてるイベントだ。理由は簡単、ここでオスカーとペア組んで優勝したらめちゃくちゃ好感度上がるから!
つまり、オスカーとペアを組んで優勝した場合……オスカーのエリーゼへの好感度は爆上がり! エリーゼはそもそもオスカーに片想いしてるんだから順当にいけば両想いとなってしまう!!
そして私は邪竜になってニーナと誰かしらに討伐……嫌ーーーーーーーッ!!
「……ネロくん、どうしたの? すごい顔してるよ?」
叫びたい気持ちを堪えていると、ニーナから声をかけられた。
「あ……いえ、考え事を。ニーナさんはもう生徒会室に?」
「ううん、実はね」
ニーナの手には、鳥籠が抱えられていた。中ではニーナに全く懐いていない小竜がなんとか鳥籠から脱出してやろうと暴れ回っている……。
「ネロくんに、竜との仲良くなり方教えてもらいたくて」
ニーナは困ったように笑った。
一般庶民の人が竜に接する機会なんかほぼほぼない。奴隷市場や竜売りの店で売られてる竜は大抵凶暴だし、大人しい竜はめちゃくちゃ高値で取引されるからだ。
そんなわけで。
「い、いい……? ネロくん、鳥籠開けるよ……?」
「はいはい、どんと来いですよ」
「えいっ……きゃああっ!」
「あーららら」
平民育ちのニーナが竜をうまく扱えないのなんて、当たり前のことだった。
学園の裏庭、鳥籠から離された瞬間にあたりを飛び回るニーナの竜に向けて手を伸ばす。竜は一瞬躊躇うように瞳を揺らしたが、渋々といった感じで私の手に降りた。
「ったく、女の子なのにお転婆なんだから。何がそんなに気に食わないかね」
「ね……ネロくん、今のどうやったの!?」
「あー……企業秘密です」
教えてもニーナに同じことは出来ないからね……。
ニーナはエリーゼよろしく教えて教えてとせがんでくるかと思っていたが、意外にも「分かった」とすんなり受け入れた。そうだ、この子をうちのわがままお嬢と一緒にしちゃいけないわ。これは私が失礼でした。
「その子、魔力を込めた歌声を出せるらしいんだけど……まだ口輪も外せないの。クラスで口輪を外したことないのわたしだけだよ……」
「あらまあ……」
ゲームでも最初の方はかなり頑張って育成した記憶がある。お助けアイテムも惜しみなく使ってようやく使い物になったヒロインだ。そりゃあ現実で最初からうまくいきました、なんてこたぁないよな。
ふむ、と顎を撫でる。
「……私でよかったら、お力になりましょうか」
「えっ」
落ち込んでいたニーナが顔を上げた。
「お嬢様と殿下は秘密特訓とかいうのをしてるらしいです。私たちもしませんか? 特訓」
「で……でも、ネロくんはもう完璧に竜を従えられるじゃない。わたしなんかに付き合わなくても……」
「ま、そう言わずに。ペアのよしみですよ。ニーナさんにはいつも生徒会でお世話になってますし」
にこりと微笑んでみせると、ニーナは逡巡するように目を伏せた。しかし、すぐに私をまっすぐ見て。
「……なら、お願いしちゃおうかな」
ふわりと柔い笑みを浮かべた。うーん。やっぱり可愛い。
「でも、意外だな。ネロくん、わたしのこと苦手なのかと思ってた。いつも都合がって言っておでかけとか断られちゃうし……」
「そんなことないですよ。お嬢様が行くって言ったら私だって同行します」
「二人っきりとかは?」
「……二人? なんで?」
首を傾げるとニーナが何がおかしいのかくすくす笑う。よく分からない子だ。ま、天然なんだろう。
この天然ボケのヒロイン様は、まったくもって察してない。私が特訓を申し出た本当の理由。
「やるからには私も優勝したいですし、頑張りましょうね! ニーナさん!」
「うん!」
優勝したらオスカーの好感度がブチ上がる……なら優勝を阻止したらいいんだよ!!
残念だったなエリーゼ! お前の敵は育成次第でどうにでもなるヒロインと竜の扱いなら誰にも負けない邪竜じゃ!! オスカーとのフラグなんて建てさせてたまるかよ!! 絶対負かしてやるからな!!
ごごごと気合いを燃やす私を見て、ニーナは何がおかしいのかまた笑っていた。
生徒会室に行くと、秘密特訓を終えたらしいエリーゼとオスカー含め、もうすでに全員席に着いていた。
「遅いぞ、ネロ、ニーナ」
「そうよ! 生徒会役員としての自覚が足りないわ!」
「すっ、すみません! 模擬戦に向けて練習してて……」
「ニーナさんのせいじゃないですよ。私から提案したんです。優勝したいですし」
私が言うと、ヴィルジールが「もうそんな時期か」と笑う。
「懐かしいなあ。去年はアルフレッドと組んで優勝したんだよな。表彰の時にアルフレッドが緊張しすぎて表彰台から落ちて……」
「おいヴィルジール!! その話はやめろ!!」
「えっ、何です、その話詳しく聞かせてください」
「ネロ!! 興味を持つな!!」
アルフレッド先輩に拒まれまくる私を見て、オスカーはなぜかうむうむと満足気に頷いていた。
なんだこいつ? 私とアルフレッド先輩が仲良しなのがそんなに嬉しいのか?
「ネロの向上心のなさは以前からどうにかしてやらないとと思ってたんだ。優勝したい、なんていい傾向だな」
あっ、そっち。そりゃあこっちは優勝に今後の運命がかかってますからね……。
「ニーナの影響なんじゃない?」
「そうですわ! ニーナ様って、いっつもすごく前向きですもの!」
ミカエルとアンジェリカの話に合わせて、私も「そうかもしれないですね」と適当に言っておいた。破滅回避のためなんて言えないし、言ったって分かるわけないからだ。
「でも遅れないようにしなきゃですね……すみません」
席に着いて、机に溜まってる書類を手に取る。
そして、ふと気付いた。
いつもならその通りよとか反省しなさいとかうるさそうなエリーゼが、黙ったままである。
「……お嬢様、元気ないんですか?」
黙ったまま書類に目を通すエリーゼに声をかけると、エリーゼは視線をちらりともこちらにやらず。
「……別に」
どこかつまらなそうに、そう答えるだけだった。
「好きだな」って思ってくれたらお好みの形で好き♡を伝えてくれるとうれしいです♡




