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33.従者くん、聖女と組む


 桜が散り切って、緑の葉が木を満たした頃。広々とした校庭の真ん中で。


「本日より、竜を扱う訓練を開始します!」


 ついに、竜使いとしての授業が本格的に始まった。


「貴族の方々は竜と接する時間も多く、接し方も心得てるでしょうが……ここにいるのはそれだけではないので、ね」


 実技訓練を担当する先生が、ちらりと集団の隅っこをみる。

 そこにいるのは貴族生まれってわけではなく、才能や学業成績を買われてこの学園に入学した生徒たち──つまりは私含めた平民・貧民の皆さんだった。

 皆どこか緊張した面持ちで、かわいそうなほど背筋を伸ばして立っている。こう見ると、聖女とはいえ平民生まれであそこまで堂々と貴族の中に立てるニーナってほんとすごいんだな……ヒロインの素養がありすぎる。


「それでは一人一匹竜をお渡しします。この竜は今後三年間の授業中、パートナーになる竜ですからね。よく躾けておくように」


 先生がぱちんと指を鳴らすと、助手らしき数人の人々が鳥籠のようなものに入れられた小竜を運んでくる。竜は皆私を見てはぎょっと目を見開いたが、知らんぷりした。こっちにはこっちの事情があるんじゃい。


「それでは名前を呼ばれた者から順番に竜を取りに来るように!」


 そんなプリント渡すみたいな、と思いながら、整列して自分の順番を待つ。鳥籠の中、口輪を嵌めて無気力に丸まっている小竜を見ると、なんだかやるせない気持ちになった。


 私がもらったのは。


「この子は水魔法を放つ力を持っています。強力な魔力を持っていて気性も荒いので、扱いには充分気をつけるように」

「はあ……分かりました」


 白い体に尻尾の先だけ青く染まった、他の小竜より一回りは大きい竜だった。こりゃあ捕まえるのも難儀しただろう。唯一こいつだけが鳥籠にめちゃくちゃ引っ掻き傷があるし。

 エリーゼもオスカーもミカエルもアンジェリカもニーナも、それぞれ受け取った小竜を珍しげに眺めている。小竜なら実家で飼ってただろ、と思うけどうちの犬とよその犬は違うんですみたいな感覚なのかもしれないな。


「皆、竜は行き渡りましたね。それでは今後の授業のスケジュールを説明します」


 先生が手を叩くと、今度は助手の人が箱を抱えてやってくる。なんだあれ? びっくり箱……なわけないか。


「皆さんにはくじを引きでペアを決めてもらいます」


 あ、出た! 二人組作るやつ! 訓練着って体操着みたいだし、体育の授業っぽいな〜と思ってたけどやっぱりそのくくりなんだ! まあ急に二人組作って〜よりは全然マシだけど。

 あ、いや、待てよ、これ。


「ペアを組んだら、皆さんには六月に行われるペア対抗模擬試合に向けて、竜に攻撃魔法・防御魔法を発動させる訓練をしてもらいますからね」


 夏前にあるでっかいイベントだ!!

 そうだそうだ、もうそんな時期だ! ヒロイン、つまりニーナはここでナントカくんとペアになったらいいな〜とかってぼんやり思うだけで意中の男とペアになれて、試合の結果次第で好感度が決まるやつ!!

 はは〜なるほどなるほど、つまりここでエリーゼとペアになりますようにって祈っておけば!!


「お嬢様っ! 番号なんでした!? 私12番!!」

「13よ」


 人生とはままならないものである。ため息をついていると、「エリーゼが13か」と聞き慣れた声が言った。えっ、おい、まさか。


「俺も13だ」

「っえ、オスカー様っ!?」


 オスカーとエリーゼがペア!?


「よっ、よろしくお願いいたします! ペアとして相応しく振舞ってみせますわ!」

「ただの授業のペアだろう。そう気張るな」


 いやいやいやだめだめだめだめ、そんなことしたらせっかくこつこつ積み上げてきた好感度が無に帰してしまう!! だけど公正なくじ引きの結果だぜ!? どう口出すんだこれ!!


「……ネロ、百面相してないでいい加減エリーゼ離れしたら?」

「百面相なんかしてないですけどッ!?」


 ミカエルにはわからないのだ、私がいかに重大な悩みを背負っているか!! こっちはそんな甘っちょろい話じゃないんだよ!


「ぼくは36だったからネロともペアじゃないか……誰なんだろ」

「えっ、ミカエル様が36番ですの? そうしたらわたくしとペアですわ!」

「アンジェリカかぁ、なら安定だね。ネロも早くペア見つけてきなよ」


 オスカーとエリーゼがペアになったショックで忘れてた。私にもペアっつーもんがいるんだった。

 周りがペアを見つけて二人一組になってる中、あぶれてる人たちに向かって「12の人ぉ」と声をかける。そうしたら。


「あ、わたし12だよ!」


 ニーナが、小走りで駆け寄ってきた。

 ニーナ!? なんで!? いや運か! ゲームでは念じたら一緒のペアになれたけど、実際そんなことなかったもんな!


「よかった、話したことない人とペアだったら緊張しちゃうけどネロくんだったら安心だね!」

「はあ……よろしくお願いします」

「うん、よろしく!」


 ニーナが手を差し出してくる。握手か、と思い私も手を出して、握ろうとすると。


「ぁ痛ァッッ!?」


 後ろから背中をぶっ叩かれた。こんなことをするのはもちろん。


「っ、何するんですかお嬢様ッ!!」

「あなたが平民に鼻の下デレデレ伸ばしてるからよ!!」

「伸ばしてないですって!!」


 ぎゃーぎゃー喚いていると先生から睨まれたので二人して押し黙る。くそ、エリーゼのせいで私まで評定下がった……。


「皆さん、ペアは見つかりましたね」


 先生は咳払いをしてから生徒達を見渡す。


「今からペアとなった二人には攻撃担当・防御担当に分かれてもらいます。攻守はトーナメントが終わるまで変更不可なので、よく話し合って決めるように!」

「先生、なんで二人一組なんですか? 一人で攻撃も防御もできるじゃん」


 ミカエルが手を挙げて尋ねる。

 まったく、分かってねえな。そんなのここが乙女ゲームでこれがフラグ成立のためのイベントだからに決まってんじゃん!


「竜の扱いに慣れていないうちは竜に攻撃も防御もさせるなんて難しいですからね。まずは簡単な命令一つを聞かせること。これがこの模擬試合の目的です」


 あっ、ちゃんと理屈あるんだ……。




 竜の扱い方について簡単に講義を受けた後、いざ授業が始まってみると。


「うわっ、こいつ引っ掻いた!」

「きゃあっ、髪の毛を引っ張らないで!!」

「竜ってこんな凶暴なの!?」


 うーん……阿鼻叫喚って感じだ……。

 まあ仕方ない。貴族の家で飼えるほど大人しい竜なんてごく一部だし、そういう竜はかなりの高値で取引されてるから飼ってる貴族もごく一部。つまりは新入生の大半は竜に慣れていない生徒だから、この惨状も無理はない。


「……うちの竜は大人しい方だったからな……」

「こっ、こら!! オスカー様になんてことするの!?」


 さすがのオスカーやエリーゼも自由奔放に動き回る竜になす術がないらしい。オスカーの頭だの肩だのを這い回る小竜をエリーゼが何度も捕まえようとしては失敗してるのが滑稽だった。

 ほんで、私はというと。


「……ほら、怖くないから。来い来い」


 怯えていた竜は少し手を伸ばしただけでそろりそろりと腕にのぼる。


「今は無理だけど、そのうち口輪外してやるから」


 竜はひんやりした体をぺったりと私の腕にくっつけて、どうだかなと言わんばかりに目を閉じた。うーん、割とこっちのことを舐めてる竜だ……。

 新入生がぎゃーぎゃー騒ぐのは毎年恒例なのだろう。先生は眉ひとつ動かさずぱん、と手を叩くと。


「それでは、今日はここまで! 竜は次の授業までに鳥籠に戻しておくこと! いいですね!」


 学園の隅にある鐘がりんごんりんごんと鳴くのと同時に、半ば無理やり授業を終わらせた。

 なるほど、竜を無事に鳥籠に入れるのが最初の課題ってわけか……。まあ余裕ですけどね。

 小竜に鳥籠に入るよう言うと、すんなり入ってくれる。なんだかズルのような気もするが、それ以上のハンデを背負ってんだから許してよね。

 さて、おそらく困難を極めてるエリーゼの手助けでもしてやるかと思った途端。


「ネロくん……よかったら、手伝ってもらっていいかな?」


 背後からした声に振り向くと。


「……わたし、竜に触るの、はじめてで……」


 空の鳥籠をもったニーナが、授業開始前とは似ても似つかないぼさぼさ頭で立っている。その頭のてっぺんには、勝ち誇った顔をした桃色の小竜がででんと居座っていた。

「好きだな」って思ってくれたらお好みの形で好き♡を伝えてくれるとうれしいです♡

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