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27.従者くん、占われる


 先日のダンジョンでの人工竜の暴走は、設計者にとっても事故に等しいものだったらしい。


「本当はあの竜も機械人形と一緒で、軽い試練を出してくるように仕組んだって話だが……元の竜の魔力が強すぎたんだろうな。しばらくあのダンジョンは立ち入り禁止。王国騎士団が調査に入るらしい」


 ヴィルジールが紅茶を片手に「とにかく、一件落着ってことだな」と笑う。


「だから、今日は俺からのお詫びっていうことで。マナーなんて気にしないで、好きに食っていいからな」


 円卓に並べられた、見たこともないお菓子の数々。壁に備え付けられた棚に並べられた、たくさんの調度品。

 ヴィルジールの好奇心とか知識欲は、こういう珍しいもの好きの家族も一因なんだろう。


「それじゃあ遠慮なく……」

「ネロ!! はしたなく手を伸ばさないで!!」

「エリーゼ、ヴィルジールが無礼講といったんだ。好きにさせてやれ」

「これって外国のお菓子? 初めて見た!」

「はは、結構独特な匂いがするけどな。慣れれば美味いよ」


 今日はヴィルジールの招待で、リーラ侯爵邸のサロンで開かれる、小さなお茶会にお呼ばれしていた。

 メンバーはダンジョンに行った七人……のはずだが。


「アルフレッド様、遅いですねえ……」

「鍛錬が終わってから来ると言っていたからな」

「真面目だよねえ、騎士団は休養日なのに基礎訓練は欠かさないんだから」


 アルフレッドとアンジェリカだけがまだ来ていなかった。


「私は一刻も早くアルフレッド様にお会いしたいんですけどね……」

「……ネロのそういうところがアルフレッドに引かれる原因なんじゃないの」

「引かれてませんよ、失礼な。一緒に騎馬訓練♡ もした仲なのに」

「あの時はあなた、アンジェリカ様に鼻の下伸ばしてただけじゃない!」

「人聞き悪っ!! あのですねえ、あれには色々事情があって……」

「事情って何よ、この女好き!」


 エリーゼとぎゃあぎゃあ言い合ってると、ヴィルジールの家のメイドさんが「坊ちゃま」と部屋に入ってきた。


「アルフレッド様とアンジェリカ様がおいでです」

「お、やっとか。通してくれ」


 ヴィルジールが手を振ると、サロンの扉がメイドさんによって開けられる。


「皆様! ヴィルジール様、本日はお招きありがとうございますわ」


 その向こうには、ちょっとよそ行きっぽい服に身を包み、なぜか大荷物を抱えたアンジェリカと。


「……おい、ネロ……こっちを見るな……」

「いいじゃないですか見るくらい。大丈夫です、夢に見るくらいなので」

「気色悪いんだよ!!」


 これまたよそ行きらしい服のアルフレッド先輩が立っていた。

 なんだそのサスペンダーは。あざといな。そこの隙間に札束ねじこんでやろうかな。


「はは……これで全員揃ったな。うちのシェフにケーキを焼かせてるんだ。今出させる」

「はー……豪勢ですねえ」

「そりゃあ、お詫びだからな」


 運ばれてきたケーキもとても子供のお茶会に出すには勿体無いほど手が込んでいて、ヴィルジールが今回の件を相当気に病んでいたのが伝わってくる。

 全員無事帰れたんだし気にしなくていいんだけど、罪悪感解消クエストというやつだ。今は遠慮なくこのケーキを食べるのがヴィルジールのためだろう。


「……ダンジョンは相当苦戦させられたが、いい経験ではあった。こんなに美味いケーキも食べられたしな」


 オスカーがに、と口角を上げて言う。ヴィルジールは一瞬目を見開いた後に、「ならよかった」と笑った。


「そうそう、みんなで集まる時って大体夜会とか、妙に肩肘張った時だからさあ。あんな感じでみんなで遊びに行く機会とか、もっとあってもいいよね……」

「ミカエル様、みんなでですよね? お嬢様が行くなら私も行きますからね?」

「分かってるよ!! あ、でも、エリーゼが……ネロ抜きがいいなら……」

「お嬢様!! なんか言ってやってくださいよ!!」

「あんまりうるさかったら置いて行くわよ」

「そんな犬みたいな……」


 きゃっきゃっと盛り上がりながら、ヴィルジール邸が準備したお菓子を食べる。


「あっ、お兄様! これ美味しいですわ!」

「そうかそうか。それなら俺の分もやろう」

「え〜、じゃあアルフレッド、ぼくにはこれちょーだい」

「誰がやるか!」

「……ミカエルには俺のをやる」

「オスカーもそれ食いたいんだろ。ほら、ミカエルには俺のやるから」

「オスカー様はこれがお好きなんですのね! 私のでよかったら……」

「……いいのか? エリーゼ」

「ええ!」


 なんだかお茶会ってよりお菓子パーティーって感じだ。ドララヴァってもっと攻略対象同士がヒロイン取り合ってギスギスしてたイメージだった。だけど、こうして見ると小さい頃は案外仲良しだったんだなあ……。

 なんだかしみじみとしてしまう。紅茶を飲んで、息をついて。


「このまま、みんな仲良しがいいな……」


 思ってたことが、口から漏れた。

 一気に皆が静まり返って、はっと我に帰る。やばい! だいぶ恥ずかしい、っていうか身分的にありえないこと言ったぞ!?


「いや、今のは違くてですね!? ほら王族貴族ってギスギスするじゃないですかそういうのがなければなって」

「……ネロ」

「まあ私平民っていうか従者だから関係ないんですけど! あっ、ヴィルジール様このお茶美味しいですね!」

「……ネロ、落ち着け」


 誤魔化すための早口がオスカーに制される。


「……元より、そのつもりだ。何も心配するな」


 オスカーが、優しく微笑んだ。円卓に座るミカエルも、ヴィルジールも、アルフレッド先輩も、エリーゼも、何を当たり前なことをと言わんばかりの態度で、なんか、なんだか……。


「不安を取り除くには占いですわーーーーーーーッ!」


 ちょっとおセンチになりかけた気持ちはアンジェリカの高らかな宣言により押し流された。


「うっ……占い、ですか?」

「ええ!」


 アンジェリカが抱えてきていた大荷物、その正体は。


「わたくし得意ですの!」


 タロット水晶トランプ星座盤……ありとあらゆる、占いグッズだった。


「……占いなんて当てになるのか?」

「おい! アンジェリカの占いは百発百中だぞ! 明日の天気も当てられるし!」

「そんなの空見たら大体わかるでしょ……」


 オスカーとミカエルは懐疑的だが、私は全然信じる派だった。

 なぜならゲーム中何度もアンジェリカの占いに助けられたから! 好感度もアイテムの位置も正確に当てられて、占い目的で攻略対象の誕生日だの好きな色だのまで把握している! そんなの信頼をおくしかない!


「俺も興味あるな、占い」


 意外なのは、ヴィルジールも占いに興味を示したことだった。


「単なる統計学とか心理効果の重なり合いだって思ってたけど、案外そういうのって馬鹿に出来ないというか……ちゃんと理屈があるんだなって思うんだ」


 なるほど。学者志望らしい理由である。


「わ……私も気になりますわ」


 うちのお嬢様も、おずおずとアンジェリカの方に顔を向けた。


「こ、恋の行方とか分かるのよね……?」


 こっちはこっちでこの年頃の女の子らしい理由だ。

 オスカーもミカエルも半信半疑気味に首を捻っていたが、皆やりたがってるしと占いを受け入れた。ククク……お前らもアンジェリカさんのすごさを知るんだよォ!!


「それで、アンジェリカ、何を占ってくれるんだ?」

「そうですわね……皆様の未来、なんていかがでしょう?」

「さすがアンジェリカ……迅速で素早い判断だ」

「アルフレッド、アンジェリカのことなら何でも褒めてない?」


 皆の未来、か。確かに気になる……。

 と、いうのも私にだって一応自覚はあるのだ。ほっとけないとか曇らせたくないとかそういう理由で、本来手出し無用だった子達の未来まで変えちゃってる、という自覚が……。

 なので。


「まずはお兄様……お兄様は一歩間違えたら陰のある、とっても強い美青年騎士になれましたわ!」

「なるほど、今は陰がないだけか」

「前向きすぎでしょ」


 本来は父の喪失を抱えたクールキャラになるはずだったアルフレッド先輩は可愛い脳筋のまんまだし。


「ヴィルジール様は……今のまま頑張ってくださいまし!! 女好きの軟派な殿方への道がすぐ横に迫っていますわ!!」

「っえ、ええっ!?」

「ヴィルジールが? 意外だな……」

「面白がるなよオスカー!」


 本来は軽薄なナンパキャラになるはずだったヴィルジールも知的で頼れる兄貴分となって。


「ミカエル様はもっと愛らしく育たれる予定だったんですけれど……今の方がずーっと頑張り屋さんですのね!」

「なーにそれ、今が愛らしくないみたいじゃん!」

「お前は愛らしいっていうか、小憎らしいって方が正しいだろ」


 本来は天使の顔して腹黒いショタキャラになる予定だったミカエルも、今じゃすっかり生意気なクソガキに育ってる。

 あまりにも干渉しすぎてる……ゲームシステム崩壊……と思うが、私は邪竜化回避できればそれでいい、と自分に言い聞かせた。邪竜化回避が最優先、他は二の次! 未来を変えようが知ったことか!


「私はっ!? 私の恋占いはどうなのっ!?」


 さすが女子、興味津々のエリーゼが身を乗り出してアンジェリカに尋ねる、が。


「ん〜〜〜……エリーゼ様の今の恋は無謀ですわ!」


 迎え撃つが如く撃沈させられていた。哀れエリーゼ、あんたはちゃんと私が引き取ってやるからな……邪竜化回避のためにも。


「運命に邪魔されてるって感じですわ……諦めた方がよろしいかもしれません」

「っそ……そんな……」

「ま、お嬢様。それも星の巡りってやつですね!」

「そうそう、仕方ないよエリーゼ!」

「何いきいきしてるのよ!!」


 だってやっぱオスカーとエリーゼのルートはないんだって確信して嬉しいんだもん。

 たまにやばいかもって思う場面はあれど、これはもうゲームの強制力みたいなもん! 大丈夫大丈夫! だから、あと警戒すべきはこのめちゃくちゃ睨んでくるクソガキだけで!


「元気出してよエリーゼ、ぼくのお菓子あげる!」

「私も私も! 好きなのとってっていいですよ!」

「いい……今食べる気分じゃない……」

「ほ、星の巡りは日頃の行いで変わることもありますから!」


 アンジェリカのフォローに、エリーゼが「ほんと?」と持ち直す。

 そう、確かに行動によっては好感度は変わる……だけどあんたのフラグは私が全部折ってやるぜ! あんたは私の邪竜化回避に付き合うんだよ!!


「……アンジェリカ、俺は」


 皆の阿鼻叫喚を見て、オスカーも興味が出てきたらしい。


「えーと、オスカー様は……このまま行けば、立派な王になれますわ!」

「そうか」


 オスカーがどこかほっとしたように胸を撫でるが、アンジェリカがそれを咎めるように「けれど」と言った。


「……女難の相が出ていますわ」

「女難?」

「ええ」


 アンジェリカが水晶を覗き込む。


「その女性にはまだ会っていません。会えば必ず、オスカー様の運命を捻じ曲げますわ。死神ではありません。運命の悪女というべきです」


 ……そんなキャラいたか?

 皆で首を傾げるのを見て、アンジェリカが慌てて「気をつければ大丈夫ですわ!」と言った。


「占いは脅すためのものではありません! 運命を知って、対策するためのものなのです!」


 なるほど……とはいえそんな災害みたいな女、対策できるのか? 会ってないってことはうちの悪役令嬢ではないっぽいし、本当に誰なんだ……?

 ゲームシナリオを辿るように思い返すが、まったく心当たりがない。まあ、今考えても仕方ないか、なんて考えていると。


「ネロ様はっ」

「わ、私も!?」


 私が占われる順番が来てしまった!!


「当たり前だ! アンジェリカの心眼に震えろ!」

「心眼か知らないけど……ネロの占いってぼくも気になる!」

「そうだなあ、お前も面白い結果出るかもしれないぞ〜?」

「いっ、いや、私は……」

「観念なさい! 皆の未来を見てくれるってアンジェリカ様は言ったのよ!」

「アンジェリカ、占ってくれ」


 やばい! アンジェリカの占いは百発百中! もしこれでネロ様が邪竜でーすとか言われたら詰み……!!


「…………ネロ様には、とっても大きな秘密がありますわ」


 水晶を見つめるアンジェリカが、そう言った。


「秘密……?」


 エリーゼが聞き返すと、アンジェリカが「ええ」と頷く。


「それは本当にびっくりするような秘密で、わたくし達の誰も信じられなくて、きっと、ネロ様自身も信じたくないような秘密なんですけれど……」


 アンジェリカは、私の方を向いて微笑む。


「でも、ネロ様がネロ様のままでいてくれることが、幸せの鍵ですわ」


 ……私が、私のままで? いや、今の体は「ネロ」のなんだから「ネロ」にとっとと戻れってことか? でもそしたら邪竜化回避出来なさそうだし、そもそも戻り方とか分かんないし……。

 考え込んでいると、エリーゼが「ネロ!」とがなった。


「秘密って何よ! 教えなさい!」

「びっくりした!! 急に耳元で叫ばんでくださいよ!」

「ま、まあまあエリーゼ……ネロだって心の準備ができたら話すんだろ。な?」

「でもっ、従者のことですもの!! 何だって知る権利があるわ!!」

「あー……いつか話しますよ、そのうち、気が向いたら、多分」

「絶対話さないじゃないそれ!!」


 のらりくらりとエリーゼの質問責めをかわしながら。


『でも、ネロ様がネロ様のままでいてくれることが、幸せの鍵ですわ』


 アンジェリカの占い結果が、胸の内に妙に響いていた。

「好きだな」って思ってくれたらお好みの形で好き♡を伝えてくれるとうれしいです♡

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