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23.従者くん、ピンチになる


「シリウス!! 剣になれ!!」


 一番最初に動いたのはアルフレッド先輩だった。シリウスと呼ばれた小竜の口輪を外すと、そのまま青い光を放ってシリウスは剣になる。


「防壁は張ってやる!! 思いっきりやれ!!」


 ヴィルジールはそう叫ぶと、自分の小竜に「オフィーリア!」と呼びかける。口輪を外されたオフィーリアがかぱ、と口を開くと、魔法陣のようなものが宙に浮いてアルフレッド先輩を守るような位置でぴたりと止まった。


「でっ、殿下!! お二人を止めないと、怪我……っ!!」

「ネロ、お前はミカエルと一緒にエリーゼとアンジェリカを守れ!!」


 オスカーも自分の小竜の口輪を外し、びっ、と人差し指を立てる。指す方向は、骨だけの竜の頭。


「カイン……撃て!!」


 オスカーの合図と同時に、カインが口から風魔法を放つ。その魔法はちゃんと竜の頭に直撃して、バランスを崩したところにアルフレッド先輩が斬りかかった、が。


「ッ、う、おおッッ!?」

「アルフレッド先輩ッッ!!」


 その剣が当たる前に竜は鬱陶しげに身体を揺らし、辺りを薙ぐ勢いで尻尾を振り回す。

 吹き飛ばされたアルフレッド先輩を受け止める。ヴィルジールが張った防壁は……壊れてる。さっきの尻尾の風圧だけで……。

 ……やっぱりあの竜……竜って呼んでいいかわからないけど、強いんだ……。


「アルフレッド様……お嬢様とアンジェリカ様をお願いします」

「っ、は、おい、ネロ!!」


 アルフレッド先輩を置いて、地面を強く蹴る。

 この竜が何だとか、今はどうだっていい! とにかく全員無事に出さないと!!

 その一心で、暴れ回る尻尾を避けながら竜の身体を駆け上る。そして。


「割れろぉッッ!!」


 祈るように手を組んで、脳天に叩き落とした、が。


「……っは、ぁ!?」


 竜の脳天は鐘のような鈍い音を鳴らすだけで、割れるどころかヒビすら入っていなかった。

 手どころか肘まで痺れるような感覚に唖然としているうちに竜がまた身体をぶるんと震わせ、今度は私が吹き飛ばされる。


「のわ゛ーーーーーーーッ!!」

「ネロッ!!」


 ヴィルジールが咄嗟に防壁を張ってくれたおかげで壁に激突は免れたが、だからって竜の攻撃が止むわけじゃない。

 竜は私を標的と定めたんだろう。ぎしり、ぎしり、と骨を軋ませながら寄ってくる竜を見て、私は。


「殿下ーーーッ!! 撤退ッッ!!」


 そう叫んだ。

 オスカーは一瞬躊躇うように竜を睨んだが、すぐに私に向き直ると。


「全員、一度退くぞ!! ネロ、来れるか!!」

「っいけます!!」


 もう一度地面を強く蹴って、竜の攻撃をすり抜けながら走る。


「ネロ、こっちだ!!」

「はい!!」


 その爪が背中を掠めるぎりぎりのところでオスカーから腕を引っ張られて、そのまま転がり込むように。


「……っ全員、無事か……」

「な……なんとか……」


 私たちは、さっき入ってきた扉の向こうにもう一度戻ってしまった。扉越しに、骨と骨が擦れ合う不快な音がまだ響いているのが聞こえた。


「なっ……なんなのよ、あの、竜なの!? あれ!?」


 恐怖のせいか、息を切らしたエリーゼが尋ねてくるが私も答えられない。ゲームの記憶を辿っても、「ネロ」の記憶を辿っても、あんな竜は見たことない。竜の気配を放ってるし竜みたいに強いけど、あんな、ゾンビみたいな……。


「……人工竜……」


 ヴィルジールが、呼吸を整えながら言った。


「聞いたことが、ある……機械人形の研究と同時に、人工的に竜を作る研究が進められてるって……そうしたら、竜使いじゃなくても竜の恩恵にあずかれるだろ……」

「竜を作るなんて……そんなこと可能なのか?」

「……ああ。竜の遺体を使ってるんだと思う」


 竜の遺体……そう言われて、はっとした。

 まだ手先にじんじんと響くような痺れが残っている。あの巨体にそぐわない身軽さも、竜の怪力でも砕けない硬さも、ちゃんと知ってる。


「竜の骨……」


 私が言うと、ヴィルジールが重々しく「ああ」と答えた。


「そ……そんなの勝てませんわ!」


 よっぽど怖かったらしいアンジェリカが、目に涙をたっぷり溜めて言う。


「別の出口を探しましょう! あんなの絶対無理ですもの!!」

「……いや、ダンジョンって、基本的に出口は一つしかないはずだよ」


 ミカエルはそう言って、自分の小竜を撫でた。


「ユニを飛ばしてあの部屋を見たんだ。竜が出てきた洞窟……あそこのとなりにある扉に、『そとへ』て書いてあった。あれがきっと、出口なんだと思う」


 こ……こいつ、私らが必死こいて戦ってるうちにいつの間にそんなことを……。

 目の前にある扉を見る。「さいごのま」と書かれたここは、きっと最後の試練の場なんだろうけど……観光ダンジョンにしては試練重すぎるだろ! 死人出るって!


「……つまり、あの竜をうまく撒くか、倒すかしか方法はないということか……」


 オスカーはふむ、と顎を撫でる。冷静を装ってはいるがその眉間には深い皺が刻まれていて、かなりの重圧がかかってるのが、言われなくたって分かった。


「……わ、悪い……」


 不意に、ヴィルジールが口を開く。

 その顔は、可哀想になるくらい真っ青になっていた。


「こ、こんな、危険なダンジョンって、思わなかった……」


 か細い声に、震える唇。


「俺が連れてこなきゃ、こんな……」


 はっとする。この子も普通の11歳の男の子なんだ。

 ……いや、違う。今にも泣きそうなアンジェリカも、それを必死で宥めてるアルフレッド先輩も、じっと唇を噛んでるオスカーも、考え込むみたいに頭を抱えてるミカエルも、不安げに私に視線を向けるエリーゼも、みんなみんな、まだ子供なんだ。

 …………私、以外は。


「……私が、全員を出口から逃すのはどうです?」


 私の提案に、全員の目がこっちを向いた。


「あの人工竜? 壊したりは無茶そうですけど、回避に徹すれば皆を逃がすくらいは多分、出来ます。ただかなり危ないので、どうしても一人ずつになっちゃいますが……」

「一人ずつって……その分お前が往復するということか!? あの竜の攻撃の中を!?」

「いや、アルフレッド。ネロなら、もしかしたら……」


 オスカーもそれが最善策だと思ったらしい。躊躇に瞳を揺らして、何度も出かけた言葉を飲み込んで、そして。


「……ネロ、お前が──……」

「だめよ!!」


 やっと出かけた言葉を、エリーゼが遮った。

 いや何してんの!? 丸くおさまりかけたじゃん今! そう思ってエリーゼを見るが、叱り飛ばすにはあまりにも、その顔が真剣そのものだった。


「そんなの、ネロが危ない目に遭う回数が増えるだけじゃない……!! 絶対怪我をしないとか、死なないとか、そんな保証ないわ……!!」

「お嬢様……」

「大体あなたが怪我をしたら明日から私のお茶は誰が淹れるのよ!!」

「ええ……」


 ちょっと感動しかけたのにこのメスガキ……。


「……俺もエリーゼに賛成だな」

「えっ、アルフレッド様!? 私のこと心配してくれてるんですかッ!?」

「違う!! お前一人に頼りきる戦法は、お前が崩れた途端機能しなくなるからだ!!」


 あっ、なるほど。兵法とかそっち系の理由でしたか。


「騎士は一人で騎士なのではない! 皆で騎士なのだ! やはりネロ、お前はまだまだ騎士道の学びが足りないな!!」

「で、でもアルフレッド様……そんなこと言ったって、どうやって切り抜ければ……」

「……騎士道……」


 ヴィルジールがぼやくように言って、ばっと顔をあげた。


「ネロ! 切り抜ける方法がある! お前一人じゃなくても!!」

「へっ?」

「隣国に巨体の兵を倒す寓話があるんだ! 巨兵は狭きに誘い込め、って!」


 オスカーもミカエルもはっと目を見開いた。えっ、えっ、何?


「なるほど……そうか、その作戦ならいけるな!」

「にしてもヴィルジール、そんな御伽話よく覚えてたねえ!」

「はは、うちのじいやが何でも読み聞かせてくれるじいやで助かったよ……」


 私がまったくついていけないでいると、オスカーがまっすぐこっちを見据えて「ネロ」と呼んでくる。その射抜くような眼光に、思わず背筋がぴんと伸びた。


「ミカエル。アルフレッド。ヴィルジール。エリーゼ。アンジェリカ。作戦会議だ。全員で生きて帰るぞ。いいな?」


 声変わりを迎える前の幼さを含んだ声が、それでもなお確かな威厳をもって問いかける。

 気圧されるように、引っ張られるように。


「……はい、オスカー殿下」


 全員で頷いた。

「好きだな」って思ってくれたらお好みの形で好き♡を伝えてくれるとうれしいです♡

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