表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/34

10.従者くん、推しに出会う


 王宮の大広間。荘厳かつ優雅なクラッシックを辿るように、大勢の男女がゆったりと踊る。ぴかぴかに磨き上げられた床にドレスの裾が正円を描き、燕尾服の尻尾すらひらひらと舞うように見えた。


「舞踏会だ……」


 御伽噺の中のような光景に思わず感嘆に近い声を漏らすと。


「そりゃあ、夜会なんだからそうだろ」


 壁にくっつきそうになった背中をぽん、と優しく叩かれる。他所行きらしい燕尾服を着たヴィルジールが少し呆れたような笑顔を私に向けた。


「ああ……でもネロは夜会は初めてか」

「初めてどころか参加する日が来るなんて思ってませんでしたよ……本当に踊るんですね」

「んはっ、踊らなくてどうするんだよ」


 エリーゼと買い物したあの日から、数日。ついに夜会の日がやってきた……のはいいのだが。


「そんなこと言ってたらエリーゼに笑われ……エリーゼ?」

「……あ、ああ!」


 ヴィルジールに声をかけられたエリーゼが、はっとしたように俯いていた顔をあげる。


「そう……ですわね。ネロ、あんまりきょろきょろしないで。世間知らずを連れてるって丸わかりだわ」


 我らが悪役令嬢・エリーゼの元気がなかった。


「……お前、今日はなんか大人しいな? 具合でも悪いのか?」

「そうですよ、お嬢様こういうのめちゃくちゃテンション上がりそうなのに……」

「……別に、何もありませんわ。それに夜会くらい慣れてるもの。今更騒ぐようなことでもありません」


 ドレスを買いに行った次の日あたりから、エリーゼはずっとこんな感じである。ずっと思い詰めたような顔で俯いて、いつもだったらギャーギャー言いそうなところでも反応が薄く、とにもかくにも覇気がない。

 最初は体調でも悪いのかと思ってメイド長に進言して熱測ったり風邪っぽくないか聞いたり腹痛めてないか聞いたり色々してみたが、どうやらどれも違うようだった。「あんたは知らないだろうけど女には色々あるのよ」とはメイド長のお言葉である。大体分かっとるわ!

 というわけで元成人女性としてのスキルをふんだんに使ってエリーゼを気遣ってみたが、それでもやっぱりエリーゼの元気は出なかった。


「……まあ無理はしなくていいけど……今のダンスが終わったら、ネロを連れてオスカー達に顔見せに行こう。そういう世界を見せたいからオスカーはネロを招待したんだろ?」

「そう……ですわね。ネロ、挨拶の仕方は覚えてる?」

「あ、はい。右足を後ろに引いて、こう、ですよね」

「出来てる出来てる。まあオスカーとかミカエルはお前がこういう場に慣れてないって知ってるからな。ちょっと礼儀作法間違ってたって許してくれるさ。行くぞ」


 クライマックスを迎えた音楽が一瞬壮大な音を奏でて、花が萎んでいくようにゆっくりと小さく収まっていく。ヴィルジールに促されるまま、エリーゼと共に壁際から離れようとすると。


「まあ、ネロの礼儀作法がどうだっていいけどね」


 聞き慣れた、生意気そうな声に振り返る。


「ミカエル様!」


 その小悪魔のような雰囲気によく似合う、赤を差し色にした燕尾服を着たミカエルが立っていた。


「ミカエル……第二王子がこんな端っこまで一人で来るなよ」

「はじめの挨拶が終われば主催者の子供に役割なんかないよ。ダンスだって大人が踊るもんなんだから」

「はあ……まったく、お前はなあ……」


 あのヴィルジール先輩もさすがにミカエルには手を焼いているらしい。つん、とそっぽを向いているミカエルになんて言ってやっていいか分からず頭を抱えているのを見ると、なんだが同業者に対する憐れみのようなものを感じた。


「それで? 挨拶は目下からするのが礼儀だけど?」


 言い振りこそ生意気だがこのクソガキ間違えたミカエルの言う通りである。ヴィルジール先輩もそれは百も承知のようで、「はいはい」と言うとお手本のように貴族式のお辞儀をやってくれる。私とエリーゼがそれに続くと、ミカエルも少し面倒そうに礼を返してくれた。


「にしても、珍しいな。今回の夜会って単なる王妃様の気晴らしみたいなもんだろ? それにお前ら兄弟が揃って参加するなんて」

「まあ、たまにはね。今回は兄さんがネロを呼んだってうるさかったし、それに……」


 ちら、とミカエルが私の……いや、その隣にいるエリーゼの方を見る。まずい!!


「ちょっと!! うちのお嬢様をじろじろ見るのはやめていただけます!? 不躾ですよ!!」

「なっ……じろじろなんて見てないし!! 大体ネロこそ従者のくせにご主人様の前に立つなんて無礼じゃないのぉ!? そこどきなよ!」

「私はお嬢様の護衛でもあるので!!」


 やっぱりこいつエリーゼに惚れてやがる!! 危険人物だ、今すぐエリーゼから離さないと私の破滅回避計画が全部台無しになる!!

 その一心で二人の間に立ってたのに、ヴィルジールから「ネロ」と咎めるように呼ばれて泣く泣く引っ込んだ。ああ、悲しきかな大人のさが。ヴィルジールみたいな理想の先輩みたいな人に言われたら従うしかないのである。


「ミカエル様……今日はお招きありがとうございます」

「エリーゼ……なんか今日、雰囲気違うね?」

「え? ああ、ドレスを新調したので……どこか変、でしょうか?」

「い……いや、綺麗だと思う……」


 やめろ!! 甘酸っぱい空気を流すな!!


「ミカエル様!! お嬢様はあくまでオスカー様の婚約者ですからね!?」

「は、はぁっ!? 分かってるよ! で、でも兄さんってエリーゼに冷たいし、王子の婚約者になりたいっていうだけなら……」


 やめろォーッと叫びたい気持ちがもうあと一歩で本当に口から出かけた途端、「何をしている」と聞き慣れた声がそれを止めた。

 エリーゼの顔がぱあっと明るくなる。ああ、やっぱり何よりエリーゼを元気づけるのは。


「オスカー様っ!」

「よし、しっかり正装で来ているな」


 ぱきっと輝く白い燕尾服に、金色の刺繍がよく映える。王子様然とした装いにぴんと背筋を伸ばす姿はもはや眩しいまである。


「……? ネロ、なんだその顔は」

「いえ……殿下ってやっぱり王子様なんだなあと……」

「そう思うならやるべきことがあるだろう」


 そうでした。ヴィルジールとエリーゼと共に礼儀作法通りのお辞儀をしてみせると、オスカーは「よし」と言った。犬の躾かい。


「オスカー様、申し訳ありません! ご挨拶に伺うのが遅れてしまって……」

「構わない。ネロにも言ったがこれはあまり格式ばった夜会じゃないからな。気楽にしていろ」

「まったく、オスカーまでこんな端っこに……王妃様が泣くぞ」

「心配するなヴィルジール。ミカエルはまだしも、俺のやることにお母様はとやかく言わない」

「ま、お前はミカエルと違ってしっかりしてるもんなあ」

「ヴィルジール! それどういう意味だよ!」


 さすが乙女ゲームの攻略対象と悪役令嬢。まだ全員子供だし子供みたいなやりとりをしてるだけなのに、揃うとめちゃくちゃ場が華やかになる。惜しむらくはここに推しがいないことか、と考えながらため息をつく、と。


「君がネロか?」


 不意に、後ろから肩を叩かれた。

 振り向くと、筋肉に恵まれた巨躯を軍服に包んだ髭面の中年男……知らないおじさんが立っていた。

 ……え、いや、まじで誰?


「話に聞いてはいたが……思ったより小さくて痩せてるんだな! いや、良い良い、これから大きくなるんだからな」

「へ、あ、あの」

「それで? 剣の扱いはどこで習った? スカーレット公爵が奴隷商から買ったと聞いているが、その前にどこかで修行を積んだのか?」

「へ? いや、その」

「今はオスカー坊ちゃんに剣を習っているんだろう? 一度私のところにも来るといい、筋がいいと聞いているからな」


 なんだこのノンデリゼロ距離おじさん!!

 困惑しすぎて挨拶すら忘れていると、ようやくオスカーが「ギルバート」と間に入ってくれた。


「ネロが困っている。それくらいにしてやれ」

「ああ、これは坊ちゃん。申し訳ない、気持ちが昂って」


 ギルバート……ギルバート? なんか聞き覚えが……。

 しかしこの人の良さそうなおじさんだって私より身分が下だってことはないはずだ。


「お……お初にお目にかかります。スカーレット家の従者のネロ=シュヴァルツです」

「ああ、良い良い。そういう畏まったのは性に合わないんだ」

「は、はあ……」


 皺一つない軍服もぴしりと整えられた髪も上流階級のそれなのに、態度だけがフランクすぎて噛み合わない。頭の上に大量のはてなを浮かべた私を見かねて、オスカーが「ネロ」とおじさんの方をくい、と顎をさした。


「彼はギルバート=アズール。アズール侯爵家の当主で、俺の剣の指南役だ。そして、王国騎士団の団長をしている」

「……っへ? て、ことは」

「紹介したい、と言ったのはギルバートじゃない。ギルバート」

「ああ、そうでしたね。アル! アンジェ!」


 騎士団長が声をかけると、少し遠くの方にいた少年と少女が同時にこちらの方を見た。

 少女の方は青黒い長髪におっとりとした印象を与える垂れ目。人見知りしているのか深い赤の瞳が躊躇うように揺れている。

 そして、少年の方。

 青黒い短髪、褐色の肌。真紅の瞳がこちらを品定めするように睨め付けていて、子供らしからぬ気迫を背負って、ずんずんとこちらに迫ってくる。

 うそ、うそ、と語彙を失った感想が頭を埋め尽くす。


「……お前がネロ=シュヴァルツか?」


 こちらを見下した不遜な態度に、ムッとする気持ちは一欠片も湧かない。それどころか。


「あっ……アルフレッド先輩だーーーーーーーッ!!」


 噴き出るような嬉しさに、思わずアラサーオタク女性としての声がダダ漏れになってしまった。




 アルフレッド=アズール。ドララヴァの攻略対象で王国騎士団長の息子。寡黙で無愛想、聖女であるヒロインにも最初はつっけんどんな態度をとるが実は暗い過去を抱えている弱さを持っており……。


「おいオスカー! なんでこいつはこんなに俺のことを見てくるんだ気色悪い!!」

「い……いや……俺も分からない……本当にどうした? ネロ」

「あ、失礼」


 オスカーにやんわり止められてようやく我に帰るが、正直まだ全ッ然興奮が止んでいない。


「ちょっと、焼き付けておこうと思って。網膜に」

「気色悪い!!」


 アルフレッド先輩……私の推しキャラは、騎士団長の陰に隠れながらそう怒鳴った。


「そ……そう言うなアルフレッド。お前だってネロに会いたがってただろう……今日は少し変なだけで、いつもはもっと……いやいつも変な奴か」

「ちょっと殿下、アルフレッドきゅん間違えたアルフレッド様の前で滅多なこと言わないでください」

「変人なのは言われなくても伝わってる!!」


 オスカーの言っていた紹介したい奴、というのはどうやらアルフレッド先輩のことだったらしい。剣術の作法こそなってないが強い奴がいる、とオスカーが話したら、まんまとそいつに会ってみたいと言い出してくれたそうで。

 ありがとうオスカー。転生に気付いてからオスカーにはろくでもない目にばっか遭わせられてきたけども。


「それで……アルフレッド様って次いつ空いてるんですか? 次はいつ会えるんです? 私、なんなら毎日会いたいんですけど」

「そのじっと見てくるのをやめろ!!」


 アルフレッド先輩に会わせてくれたことだけは一生分の感謝をしたってし足りないな!!


「はは! 剣も使わずうちのやんちゃ坊主を震え上がらせるとは、大したもんだ!!」


 息子が変質者(ではないと自分では信じたい)の前に晒されているというのに、騎士団長は豪快に笑っている。これは実質親公認。仲良くなる以外の道はない。

 なんとかお近付きに、と物理的に一歩近づいたらミカエルとヴィルジールに同時に肩を掴まれた。解せない。


「お父様……わたし、お母様のところに戻りたい……」


 アルフレッド先輩と一緒に騎士団長の陰に隠れていた少女……アンジェリカが、軍服の裾を引いた。

 アンジェリカはアルフレッドの妹で、ドララヴァにおいては主人公に好感度を教えたりするサポートキャラ。

 悪役令嬢エリーゼと違って可愛さ、守りたさが全身から溢れ出ている。どうせ転生するならあっちのお嬢様に仕えたかった……いや、違う。あっちのお嬢様になりたかったなァ〜〜〜〜と大人が向けてはいけない視線を向けてしまう。まあ、ネロになっちゃった今は叶わぬ夢か。


「まったく、アンジェは甘ったれだなあ。よしよし、母さんのところに連れて行ってやるからそんな顔するな」

「っち、父上、俺も……!」

「お前はここだ、アル。騎士団長の息子として、王子への礼を尽くせよ」


 かくして、アルフレッド先輩は保護者という盾を失い。


「じゃあ……ゆっくりお話しましょうか……」

「おい止めろオスカー!! こいつは本当になんなんだ!!」


 私もこれはチャンスだと意気込んだのだが主人たるエリーゼがかつて聞いたことのないような声で「やめなさい」と言ったので大人しく引き下がった。


「アルフレッド様、申し訳ありません。私の従者が……」

「……ったく、しっかり躾けておけよ、エリーゼ」


 騒いで乱れた燕尾服を直しながらアルフレッド先輩が言う。

 しかし、ゲームで見た印象と違うな。ゲームではもっと無口でたまに喋ってもツンケンしてたイメージなんだけど、実際に喋ってみると普通の11歳の子供というか……当たり前だけど。

 アルフレッド先輩はタイまでしっかり直すと、その赤い眼光をきっ、と鋭く私に向けた。やだ、私のこと好きなのかも。


「出鼻を折られたが……俺がこの夜会に来たのは、お前に会うためだ。ネロ=シュヴァルツ」

「はい、まずは交換日記からしましょうね」

「わけのわからないことを言うな!!」


 仲良くなりたいんじゃないの!?

 アルフレッド先輩はこほん、と一つ咳をして、私に向き直した。


「オスカーからお前は相当強いと聞いた。話に聞いてるだけの父上も相当お前を勝ってる。だけど俺は剣の修行もちゃんと積んでいないお前を認めない」


 重々しい声でそう言うと、ぴ、と私を指差す。


「俺とも勝負しろ、ネロ=シュヴァルツ。騎士の戦い方というやつを見せてやる!」


 な……仲良くなりたいのに前評判が最悪!!


「アルフレッドとネロかあ、面白いかもね!」

「えっ、ミカエル様、ちょっと」

「アルフレッドは腕自慢だもんなあ、一筋縄じゃいかないかもしれないぞ」

「ヴィルジール様まで」

「そうだな、俺も興味深い」

「殿下っ!! 私普通にアルフレッド様と仲良くなりたいんですけど!!」


 助けを求めるようにエリーゼの方を見ると、エリーゼは。


「……ネロは、いくら強くたって従者ですわ」


 肩を丸めたまま、ぼそりと言う。


「ですから……そんな、勝負なんてことには巻き込まないでくださいませ。本来ここにいることだって、おかしいんですから……」


 ……勝負をやめるように言ってくれたことは願ったり叶ったりなんだけど、エリーゼの様子がおかしい。落ち込んでる、というか、悩んでる? みたいな……。


「……お嬢様、どうかしたんですか?」


 エリーゼに近付くと、エリーゼは一歩引いて「なんでもない」と言う。なんでもないって感じじゃないけど、と思っていたが、俯いた顔をあげたエリーゼはいつもの高飛車なエリーゼだった。


「そもそも夜会で勝負事の話を出すなんて野蛮じゃありませんこと? 私、もっと優雅な話が聞きたいわ」


 確かに。舞踏会ってこんな勝負だなんだって感じじゃないよな。


「……ヴィルジール様、実際舞踏会って何話すんです?」

「え? うーん……政治的な情報交換の場、って感じだけど子供の……しかもネロにはあんまり馴染みがないよなあ」

「そうですねえ」


 うーんと首を捻っていると、オスカーが「ネロでも興味が湧く話題はあるぞ」と言った。


「アルフレッド、あの件はどうなってる。王都の外れの森の、暴れ竜の件」

「ああ、あれか」


 結局殺伐とした話題じゃねーか!! と思ったが。


「さすがオスカー様……国の動向を常に気にしていらっしゃるんですのね……♡」


 うちのお嬢様が元気を取り戻したみたいだからいいか……。




 王宮からずっと北に行ったところにある、王都の外れ。そこにはまだほとんど人の手がつけられていない森があり、長らく王家の所有物として誰も触れずにいたが。


「フランドル男爵が買い取って、別荘を建てようとしてるんだったか? まったく、あの暗い森の何がいいんだかなあ」

「誰も手をつけてこなかった、ってのがいいんじゃない? あそこは言っちゃえば聖域だからさ、そこを自分のものにして力を示したいんでしょ」

「元は平民の成金男爵ごときが、歴史ある貴族に歯向かうような真似をして……お父様達は何も言わないのかしら!」

「フランドル家の息子は竜をまったく扱えないらしい。だから男爵にも焦りがあるんじゃないか?」


 貴族社会の子供の会話すんごい……。

 正直ついていけないな〜と思いながらぼけっとしてると、オスカーが「お前もちゃんと聞け」と咎めてきた。この子は私をどうしたいんだ……。


「聞きますけど、聞いたって私分かんないですよ。とりあえず、暴れ竜が出たんですか?」

「まあ、言ってしまえばそうだ。一般の竜使いが捕獲に向かったが、結構な被害が出ているらしい。なんでも原初の竜に近いほど大きく強いとか……」

「ほー……」


 原初の竜に近いってことは、ちょっとしたお屋敷くらいでかいってことか。なるほどねえ、と思いながらはっとする。

 アルフレッド先輩の性格の違い。巨大な竜の捕獲。王都の外れの森。

 頭の中で、前世の記憶がぶわりと蘇る。


「だから、今度王国騎士団がその竜の討伐に行くんだ! うちの父上を指揮官として!」


 アルフレッド先輩がどん、と胸を叩く。


 これアルフレッド先輩の幼少期の重要イベントだ!!


「っへ、へぇ……っ? でもでっかい竜なんでしょお? やめといた方がいいんじゃ……」

「見くびるなよネロ=シュヴァルツ。父上は国で一番強い騎士なんだ、そこらの竜にひけをとったりしない!」

「そ、そうかもしれませんけどぉ、まさかアルフレッド様行くとか言い出したり……」

「ふん、俺も将来は王国騎士団を背負う身だからな! 父上に同行し援護をする!」


 知ってる! このイベント知ってる!

 アルフレッド先輩はその竜討伐に同行して、目の前で父親である騎士団長を竜に……。


「……あの、その竜には触らない方が……」

「何を怖気付いたことを言っている! 俺はここで武勲を立てて、父上に認められる男になるのだ!!」


 自信満々なあたり全部フラグに聞こえて仕方ないよアルフレッド先輩!!

 ああ、もうアルフレッド先輩の辛い過去が作られるのを止められないのか。でもこんな小さな子供が辛い目に遭うって分かってて放置するのは、でも、でも、どうやって止めるんだ……?


 立ち尽くす私の前で、銀色の髪とピンク色のドレスが揺れる。まるで救いの天使が現れたかのような錯覚にぱちくりと瞬きを繰り返した。


「なるほど……討伐、ですわね」


 私の主人、エリーゼ=スカーレットはどん、と皆の前で胸を張ると。


「その討伐、私も同行いたしますわ!!」


 こいつは救いの天使でもなんでもなく悪役令嬢、そしてわがままな10歳のクソガキだということを思い知らされた。


「っは……はぁッ!? 何言ってんですかお嬢様!! 竜ですよ!? めちゃくちゃ怖いんですよ!!」

「竜使いが竜を怖がってどうするの!!」

「いやそれはそうですけど!! お嬢様ってそんなやばい竜に対抗できるような……」

「うるさいっ! 行くったら行くの!!」


 ダメだ、もう完全に意地になっとる!! オスカーにいいとこ見せたいのか何なのか知らんけどもう少し竜の怖さを理解してくれ!!

 しかもエリーゼが行くってなったら十中八九私も……私、も。


「……分かりました。行くんですね、お嬢様」

「あら、案外物分かりがいいのね」

「その代わり……私も一緒に行きます」


 その場の全員が「えっ」と声を上げた。


「私は従者ですよ? お嬢様が行くんなら、私が行かないなんてあり得ません」

「……っ、私は、一人でも……」

「お願いします。足手纏いと判断したら森に捨て置いていただいて構いませんから」


 むしろそっちの方が都合がいい。

 エリーゼは躊躇うように瞳を揺らした後、私の方に視線を戻すと。


「……ふん! 言ったわね、ネロ! 役立たずって思ったらすぐに置いていくわよ!」


 無事に同行することを許してくれた。


「おい、ネロ。大丈夫か? エリーゼに合わせて無理してるなら……」

「まあまあ、任せてみようよヴィルジール。ネロのことだからなんか企んでんでしょ?」

「何も企んでませんよ、人聞きの悪い……」

「しかし無策で行かせるわけにも行かない。アルフレッド、ネロに当日の騎士団の動きを教えてやれ」

「ほっ、本当に来るのかよ!?」


 アルフレッド先輩の言葉に「はい」と拳を握って答える。


「お嬢様が心配ですからね!」


 実際は推しを曇らせないためである!

「好きだな」って思ってくれたらお好みの形で好き♡を伝えてくれるとうれしいです♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ