恋に落ちた瞬間と並んだ二人の未来
レーゲンボーゲンがドイツ語で虹を意味する単語なのは知っていた。それなら、他にもドイツ語に関係する曲が、あるのではないかと思いその話題になった。ふと、気になって尋ねると、特にドイツ語にこだわっているわけではないという、返事をもらった。まぁ、普通はそこまで、気にしないよね。
「フランス語のバンド名なのに、フランス語のタイトルの曲ないのと一緒だね。でも、うちら、二曲あるよ。『ダンケ』って曲、日本語でありがとうって言う意味だね」
「あ、アルバムの名前にもなかった? 『ヒンメル』だったかな。あれも曲として、入ってたね。それと、アルバムのジャケ写って、ドイツだよね」
「そうだね、よく覚えてるね。二枚目のアルバムだったかな。俺ら『レーゲンボーゲン』なら、ドイツ語の名前も使おうって決まった。そして、ドイツ語なら、ドイツで撮ろうってなって、実はあれが俺たちの初めての海外だったりする。俺たちとサポートメンバーと一緒に行った。最初のアルバムは、俺たちがデビュー前に作った曲を纏めてもらったから、ドイツ語で曲作る事はやってなくて。じゃあ、アルバムの名前もドイツ語で空を意味する『ヒンメル』で行こうってなった。それに合わせて、遥が曲作ってくれて、あれタイトルが先に出来た曲だったね。それと、歌詞にレーゲンボーゲンって言う単語もしっかり、入ってるよ。空と虹って相性良いからね」
「そう言う経緯あったんだ。もうドイツ語の言葉は使わないの?」
「麻衣にあわせて、『メルヒェン』とかどう? でも、また、ドイツに行くのは嫌かなぁ。麻衣も一緒なら行くんだけどね」
御伽話、フェアリーテール、高校の文化祭の時の私たちの思い入れのある単語だ。それに、嘉くんも、そう言ったお話が好きなのも宮沢賢治の時に知った。えっと、ドイツ撮影旅行に私もって言うわけにはいかないでしょ。
「麻衣のは、アリスのジャケットの時にイギリス行ってるんだよね」
「うん、行ったねー、アリスの世界をイメージしてるので、田舎の方だけどね。自然がなんか、うちの地元と違っていて面白かったよ。物語に出て来るお家とか、現地のモデルさんにアリス役お願いしたんだよね。その子の手を引いて森の中を走るシーンあるんだけど、あれ、本気で疲れた」
「麻衣のアルバム、CDで持ってないんだよね。あの時、聞きたくて、ダウンロードしただけで、満足していた」
「実はここにあるよ。クローゼットの箱の中だけど、CDって、事務所からもらうじゃん。封も切られてなかったりする」
「引っ越しの時の、そのままの箱か、俺もそんなものかな」
「見ても怒らないなら、出すよ?」
「なして?」
「五枚目のアルバムだけじゃなくて、全部見るって言うと思うから、言うけど、見ればすぐに気付くと思う」
察したように、嘉くん、視線を逸らしたけれど、見たいと言う気持ちが勝った様だ。前は、それでも、遠慮していたんだけど、最近はそうでもない。その方が、嘉くんらしくて良い。というか、我が家にレーゲンボーゲンと嘉くんと遥くんのCDが二枚ずつあるのね。
「五枚かなぁ、シングルも大量にあるけど」
二、三年に一枚のアルバムを出していた事になる、それに、ベストアルバムが一枚、カバーアルバムが一枚、それと、シングル十五枚ぐらい。こっちは、一年に一枚ぐらいの割合で出ている。
その中で、『虹』のシングルを取り出した。思い出の曲だ。これは、レーゲンボーゲンが休止中に出した曲で、嘉くんを救ったらしい曲だ。黒い背景に横顔だけが写っている。これだけじゃ、曲の『虹』要素はない。歌詞カードは、対照的に青空に虹が広がっている。
『虹』のシングルをその場に置いて、私は、隣りの部屋に移動して、CDの入った棚から、嘉くんのソロアルバムである『My Angel』を持って来た。こっちも黒背景に横顔。これだけ、見ると対になっているなんて、分からない。二つ並べて、ようやく、気付く。見つめ合っているようで、ちょっと、恥ずかしい。
嘉くんは、五枚目のアルバムではなく、私のファーストアルバムの方を真剣に見つめている。ファーストアルバムは、ジャケ写は青空に虹、後ろ姿の私が男性ものの衣装を着て写っている。後ろは、黒を基調とした、モノクロ写真で、後ろ向きの女性と一緒に撮られている。私も肩から下しか写っていない。これ見せたくないんだよな。まぁ、嘉くん、やっぱり、気付いちゃった。気付かない訳ないよね。
「これ、あいつ?」
「流石だね、そう。あの時の、雑誌に使われていたの、これなのよ。気付いてると思ってた。気付いて、あの時、はぶててるのかと思ってた」
「見ていい?」
「うん、アルバムは、綾香さんの顔は出ていないよ。それでも、分かるのか」
裏の一枚だけ、これ、雑誌発売の時に、ファンに、気付かれた。でも、特に問題はなかった。メインは私だけで、下手に女性使っちゃうと、私のファンって女の子多いからね、問題になっちゃう。雑誌は、実はファンの間でちょっと揉めた。でも、カメラマンさんが良く撮ってくれたお陰で、ファンの間でも一部を除いて好評。綾香さんなら、OKっていう話もあった。でも、まぁ、あの人、更にその数年後に問題起こしてるんですよね。
そして、私がじっと『虹』と嘉くんのアルバム『My Angel』を見つめていたら、隣りから声を掛けられた。
「気付いた?」
「うん、こうして、並べると対みたいなのが分かるね。シングルとアルバムだから、気付く人いないね」
「幻滅した?」
「していないって、その逆だよ、嘉くんのメッセージに気付けて良かったなって。私の未来、嘉くんに繋がっていたんでしょう? 嘉くんは、あの時、この曲に救われて、私は、嘉くんのこのアルバムで、嘉くんの声に恋に落ちた。素敵だね」
「何より嬉しいのは、顔が先じゃなくて、声が良いって、言われた事かな」
「前に、莉子さんが言った事気にしてる? 私、顔で人を好きになるなんて、ないよ。性格悪かったり、相性悪かったりしたら、嫌だもの。ちゃんと、話をして、その人を知って、あの時は違ったけど。でも、ちゃんと、距離測って話してたでしょう」
「その言葉は、あの時、初めて聞いたね。でも、慎重すぎる」
「性格と、昔の事、引きずってちゃ無理だよ」
「でも、俺の事好きになってくれた。嬉しいよ」
そう言って、嘉くんは、甘く甘く蕩ける様に笑う。今では、声だけではなく、この素敵な顔も好きだ。莉子さんや絵美が、やっぱりと、言う言葉が思い浮かんだ。
「麻衣、金髪似合うよね。もうしないの?」
「場合によればするかな。嘉くんは、ずっと茶系だね」
「金髪はした事ないし、これよりも明るい色もした事ないね。ほら、遥、染めてないじゃん。合わせようとすると、合わないんだよね」
「そっか、遥くん、黒髪のままなのか」
「なので、俺もずっと変わらない。その方が、レーゲンボーゲンだって、分かってもらえるしね」
「髪型は、高校から少し長めになったけど、それも、遥くんがずっと、短いから?」
「そうだね、それに、俺、短いの似合わないし」
短いのとか、他の色とか想像してみたけれど、ピンと来なかった。やっぱり、今のが一番似合うと思います。そういえば、このシングルのジャケット写真、黒背景なので、金髪がよく映える。ミュージカル前に撮ったので、金髪のままなのだ。そっか、金髪なんだから、天使なのか。天使って性別ないし。
あの、アルバム、タイトルまで、私なのか! それは、かなり恥ずかしすぎる。じっと、嘉くんを見つめると、嬉しそうに笑みを浮かべている。ああ、これ私が気付いたって言う顔している。ああ、思わず視線を外して、下を向いてしまった。
「麻衣の金髪また見たいな、今度は間近で。天使の様な麻衣がね」
「天使なんて言われたの初めてかもしれない。それに、それ、すごく恥ずかしいのですが」
「僕の、僕だけのMy Angel、笑って」
タイトルと同じ名前の曲は、アルバムに入っている。でも、これ以上は無理です。思わず嘉くんの口元を両手で塞いでしまった。私は悪くない。『遥か遠く』だけじゃなくて、これも私に向けられた曲じゃないですか。私の手をゆっくりとした動作で取ると、嘉くんの甘い言葉は私の赤く染まった耳朶に残った。
ヒンメルって言うと某勇者を思い出しますね。そして、自分の顔の良さを理解してる嘉隆くんと近いものを感じます。
アルバム一枚すべて、麻衣のために作ったと言っても過言ではない様な気がして来ました。




