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虹の架け橋  作者: 藤井桜
新婚編
95/714

僕と君と初めての出会いは、冬空の小春日和の時だった(sideレーゲンボーゲン)*

 過去話です。嘉隆くん視点の麻衣の修学旅行の時の話です。



 嘉隆(よしたか)は、安芸高田市の地元の高校に入学した。近所に住んでいて、幼稚園の頃から仲が良く一緒に遊んでいた賢人は、ずっと、これからも嘉隆の夢を応援してくれる一人だ。

 嘉隆の、地頭が良いのか、学校の成績は悪くもなく普通。塾に通う事もなく、学校の授業を受けるだけで、テストでもそれなりの点数を取っていた。成績は中の上ぐらいだった。成績なら、名前の通り、賢人の方が、良い。高校を卒業して、大学に行って、公務員になっている。



「よっちゃん、今日も、バイトけん?」

「いや、今日は休みじゃけぇ」

「じゃあ、一緒に帰ろっか」

「今日、暖かいな」



 十二月の半ば、この時期にしては、かなり、暖かい。期末テストが一昨日終わって、昨日は休み、明日からまた、部活動もバイトも再開出来る様になる。嘉隆は部活には入っていないので、バイトを再開出来るのが嬉しい。賢人も、今日は塾が休みの様で、テスト期間中以外で、下校で一緒になるのは、珍しい事だった。テストの問題の話をしながら歩いていると、見知った顔が見えた。クラスメイトだ。

 学校近くの公園には、先客が居た。寒い日は、誰も寄り付かないのに、暖かいからなのか、ベンチに座って話し込んでいる。きっと、お菓子を食べながら、他愛もない話をして笑っているのだろう。



「お、嘉と賢人じゃん、嘉、今日はバイト行かんの?」

「俺が毎日、バイト行ってるみたいな言い方じゃけん」



 ムッとして言い返すと、笑いが起こる。放課後、直ぐにバイトに向かうので、クラスメイトには、毎日、行っているんだと言う、認識で見られている様だ。テストの数日前と終わりは、部活もバイトも禁止だ。嘉隆と賢人はクラスメイトの隣りに座ると鞄に入れていた、お茶のボトルを飲んだ。

 不意に、隣に座っていたクラスメイトが、嘉隆の制服を引っ張った。「なぁ、あそこにおる女子の集団。寒くねぇのかな?」指さす方向に見慣れない私服姿の女子がいる。うちの学校の生徒ではない。いくら今日が暖かいとはいえ、スカートは短く素足に靴下、コートは着ていない。マフラーや手袋もしていない。そんな子が十人以上固まって、話し込んでいる。その中に、ベンチに座った、男子が一人いた。綺麗な顔をしていて、細身の体型に、黒のパーカーとジーンズ、やっぱり、コートは着ていない。寒くないのか。



「つうか、女子の中に男子一人って、どんだけ、モテるんじゃけぇ、嘉の方がかっこいいんじゃね?」

「制服着てないね、この辺、観光地でもあるけぇ、この時期じゃと、修学旅行生かな?」

「可愛い子おるかな。なぁなぁ、声掛けてみねぇ?」

「お前ら、どんだけ、暇じゃけん」



 そう言って、クラスメイトの言葉に賢人が苦笑する。気になって近くまで寄って行く事にした。すると、突然、聞こえて来た、低めのハスキーボイス、女子の中にいた男子が歌っていた。あれは、ジョン・レノンのイマジン、ビートルズが好きで嘉隆にとって、聞き馴染みのある一曲だ。ワンフレーズだけだった、落ち着きのある声は、綺麗に響く、もっと聴きたくなる様な声だった。しかし、それは、途中で嘉隆たちが女の子の集団に近付き過ぎたため、止まってしまった。


 その少年が、一瞬だけ、嘉隆を見つめる。しかし、それも一瞬で、その子は、男子の一人が声を掛けた事によって、視線を外した。「どこから来たん?」クラスメイトが話を聞くと宮城だと言う事だ、東北から来ていたので、この時期でも寒さに慣れていたのだろう。他愛もない話をしていると、今度は、男子が三人とそれよりも年上の男性が現れた。彼女たちの担任教師だった。彼らは、修学旅行でこっちに来ていたらしい。



 その後、移動して行く後ろ姿を見つめるだけしかなかった。最後に少年が嘉隆に視線を向ける。しかし、そのまま振り返ると足早に歩き去った。嘉隆は思う、冬空に溶けた、あの歌もう一度聞きたかったな、と。



「よっちゃん?」

「うん、なんでもないけん。俺たちも帰ろっか」



 後ろ姿をじっと見つめていたのが、不思議だった様で、賢人が声をかけて来た。小さく、首を左右に振り嘉隆は立ち上がる。それに倣って、クラスメイトたちも歩き出す。彼らが予定通りに広島駅に戻れると良いなと思う。



 修学旅行の奇跡の嘉隆くんsideのお話です。過去話には、タイトルの終わりに*印付ける事にしました。

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