文学と天文、そして、大好きな人
本編の『七夕に祈る平和の祈りを未来に届ける』から続くお話です。あちらはお話の都合上、本編に入れてあります。時系列が巻き戻ってすみません。
私が七夕の日に作った曲が、出来たのは、7月の終わりだった。嘉くんが、私の詞に付けてくれた曲、すごく丁寧に何度も何度も音を確認して、そしてその三週間後に完成した。仕事部屋で、歌入れをして、八月の六日に動画サイトにアップする予定でいる。
その時に、話題に上ったのは、嘉くんのアルバムに入っていた曲の事だった。嘉くんの歌に『サドル』って言う歌がある由来は自転車のサドルではない。アラビア語で「雌鶏の胸」って言うらしい。はくちょう座の中央に位置する星だ。これは、宮沢賢治の銀河鉄道の夜から取られたらしい。嘉くん、今はそれほど読んではいないけれど、昔は、高校生の頃まではバイトの合間によく図書館で本を借りて読んでいたらしい。
それが、今の作詞が得意な事に繋がっている様だ。銀河鉄道の夜はとても、思い入れのある作品で、高校の読書感想文を書くのにも選んだ様だ。そして、その曲は、嘉くんのアルバムに入っている。銀河鉄道の夜は主人公が天の川に点在する星座に纏わる駅を通り、北十字星とも言われるはくちょう座サドルから南十字星サザンクロスまでを走る汽車の旅の話だ。その中で、主人公は生と死の意味を知る。ちょっと、切ない話でもある。
この曲を作った時に、離婚の事以外に嘉くんには悲しい出来事があった。父方のおばあさんが亡くなったらしい。その事もあって、生まれた曲、嘉くんの歌詞もとても切ない。きっと、別れを歌った曲はこれだけかもしれない。
「麻衣にとって、おばあさんの存在って、すごく大事な存在だったんだよね。俺にとっては、祖父母の家に遊びに行って、俺が来るのをすごく喜んでくれた人だった。いつもいっぱいのご馳走で、もてなしてくれた思い出がある。賢ちゃんと一緒に行って、野山を駆け回って、そんな楽しい思い出があった。祖母は俺たちが身体中に擦り傷作っては、薬を塗ってくれて、頭を撫でててくれた。とても、優しい人だったよ。中学に上がると部活が忙しくなって、高校に上がると田植えや稲刈りぐらいしか、行く機会が無くなってしまった。高校卒業すると、もう行かなくなったね。それでも、たまに祖父母の家に行った事、思い出すんだ。そして、三十過ぎて、一人になると余計に思い出す様になった」
「じゃあ、今はご実家には、おじいさん一人なの?」
「いや、父のお兄さんが家を継いでいるので、あっちも大家族だよ」
「そっか、おじいさん、寂しくはないね」
「うん」
この曲に出て来る僕は、多分、嘉くんがモデルなんじゃ無いかって思う。夜行列車に乗って、一人旅に出る。悲しみを忘れる旅に。宇宙に向かって旅をするわけではないが、夜行列車に乗って、満天の空に輝く綺麗な星を眺めて、思い出を振り返る。途中、降り立った小さな無人駅、その日は八月の六日、午後十一時、銀河鉄道の夜で主人公ジョパンニがはくちょう座のサドルに到着する汽車に乗った日時だ。それは、夜空の中天にサドルが輝く時間。
後悔しているんだろう、高校を卒業してから、会っていないのなら、尚更、それが、一人になって、心に不安を抱えたまま、言葉を綴る事しか出来ない。嘉くんの悲しみが伝わって来る。
「アルバムの曲はどれもすごく、良くて、でも、この曲だけ雰囲気がちょっと、違ってたね。この曲にも確かに嘉くんの気持ちが詰め込まれている。嘉くんのおばあさんが亡くなった日は、八月六日なの?」
「うん、亡くなる数年前から入退院を繰り返していて、高齢って言うのもあったんだけど、夏風邪が酷くなってそのままね。だから、あの曲を作った。そしたら、まさか、麻衣が作ってくれた曲のタイトルが『八月六日』だとは思わなかった。確かに、偶然とはいえ、あの日は広島にとって、大事な日だからね。祖母も空の上で幸せになっていると良いね」
八月六日になると思い出す、鮮やかな幼い頃の楽しかった思い出が、そして、悲しみに暮れる。私の手が嘉くんを抱き締める、だって、私にはそれしか出来ない、震える心を暖めてあげる事しか出来ない。
「ありがとう、俺は君に救われてばっかりだね。麻衣の歌がいつも俺を癒してくれる。七夕に思いを乗せたあの歌がまた、俺の心を癒してくれる。あれから、随分経って、こうして俺はまた麻衣の歌に救われた。ありがとう」
「また、嘉くんが寂しい時は私が側に居てあげる。私にはそれしか出来ないから」
優しい、そして、温かい涙が溢れる、悲しみではない、喜びの涙、震える肩を抱き締めて、私は、その光を重ねる虹に唇を寄せた。
銀河鉄道の夜は、宮沢賢治、岩手県出身の文豪ですね。お話自体は大昔に読んだので、内容がうっすらとしか思い出せません。先日、TVでやっていたのをメモ取ったり、ネットで調べたりしていました。
はくちょう座が出てきますが、麻衣の方には、こと座とわし座が出てきますね。夏の大三角形ですね! こととわしは宮城イメージがあります。
先日、蚤の市で『銀河鉄道の夜』を手に入れて来ました。わし座も出て来ましたね。今、改めて読んで見るとこんな短いお話なのに、すごく引き込まれてしまいました。ああ、買って良かったと思いました。




