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虹の架け橋  作者: 藤井桜
新婚編
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スポーツ観戦する貴方を見つめる(side嘉隆ファン)



 六月の東京ドームで行われる、巨人対広島戦の私の担当は広島側の外野席だ。巨人の本拠地だけあって、巨人席の方がよく売れるし、顔馴染みの人たちも出来やすいので、こちらの販売は少し不利だ。でも、他のメーカーさんも同じなので、一見さんにどれだけ多く買ってもらえるかの手腕に掛かってくる。サワーから始めた私の売り子も今年で、二年目に入った。今年の四月から、ビールの売り子をする事になったばかりだ。


 実は、広島の応援は少しだけ、怖かった、たまに威圧的に声を掛けられるが、それが、試合観戦に熱中してるためだから、って先輩に教えてもらった事がある。それもあってか、バイトを始めて数ヶ月後には、誰がお酒を望んでいるのか把握できるまでになっていた。順調に仕事をこなして、ビールの販売にこぎつけた。来年には、大学を卒業しちゃうので、この仕事は今年で終わりだ。それが少し寂しかった。



「芽衣、行くよ」

「はい、行って来ます」



 先輩に後押しされて、私は観客席に向かって歩き出す。背負った、ビールのタンクはかなり重い。基本、一見さんが多いがそれでも、二年も仕事をしていると顔馴染みの人がいないわけではない、その人を見回してまずはそこから声を掛けて見る事にした。去年まではサワーだったので、ビールの売り子に変わっていた事に驚かれはしたが、まずはビールだった様で、最初の一杯を、購入してくれた。広島弁だが、気の良いお兄さんだ。ふと、視線を隣りに座った男性に向けて固まる。


 TVで見た事のある人がいた。うん、カープファンだって言うのは公言している。でも、こうして見かけるのは初めてだった。それでも、私は営業用のスマイルを浮かべると気付かない振りを決めて話しかける。



「お隣りの方もビールいかがですか?」



 私がそう言うと、球場を見つめていたが、ビールを買ってくれたお兄さんが更に気を利かせて、その人に声を掛けてくれた。ああ、と言ってその人が振り返る。うん、横顔を見てもしやと思ったがやはり、あの人だ。TVで歌う姿は何回か見た事がある。



 浅生嘉隆(あそうよしたか)さん、レーゲンボーゲンの向かって左側に立って歌っている人だった。こうして、芸能人の人を見かけるのは、このバイトを初めて、実は初めてなのかもしれない。爽やかな笑みを浮かべて、ビールを買ってくれた。

 その後、何回かビールを買ってくれた、隣りに座るお兄さんと気さくに広島弁で会話しているのには、驚いた。ビールを売っている以上、新規の人が買ってくれるのも嬉しいが、どうしてもクレームやトラブルを避けたくなるので、一度買ってくれた人が気になってしまうのだ。買ってくれそうな人の判断もわかる様になって来た。

 気になって、浅生さんを目で追って、ビールが無くなりそうな時に声を掛ける、それしか出来ない。

 今日は三杯ほど買ってもらう事が出来た。明日も応援に来るのかな。



 巨人と広島の東京ドームでの三連戦、次の日も昨日と同じ広島弁のお兄さんと一緒だった。少しずつ暑くなる六月、ビールもそれなり売れる。本当は直ぐにでもそっちに駆け寄りたかったのだが、たどり着くまでに何人かの人がビールを買ってくれた。夏場に掛けてビールは良く売れる。



「あ、お姉さん、こっちじゃけん!」



 広島弁のお兄さんが私に気付いて声を掛けてくれた手にはまだ、ビールは持っていないので、私を探してくれたらしい。



「待っていてくれたんですね、嬉しいです、ありがとうございます!」

「元気だね、浅生くんの分と二つもらえる?」

「はい、ありがとうございます!」



 浅生さんのカープのユニフォームの背中には、アルファベットで浅生の文字が入っている、背番号は彼らレーゲンボーゲンをイメージして7だった。実は、昨日の夜にちょっと調べたんだよね、浅生さんの事。TVや公とは違う人がここにいる。爽やかに笑うけれど、子供の様に純粋に野球のカープの応援をしている。かっこいいな、目の保養だ。


 今日も同じく三杯ほど、ビールを買ってくれた。最後に今日は「ありがとう」のお礼付きだった。やばい、ファンになりそうだ。バックヤードの子たちも浅生さんの存在に気付いている様で、何回か声を掛けたらしいけれど、誰も買って貰えなかった様だ。ビールを買ってくれたのは隣りのお兄さん越しだけど私だけ。羨ましいって責められてしまったが、あれは、隣りのお兄さんのお陰だろう。



 迎えて三日目、元気にバックヤードを飛び出した私は、観客席に浅生さんの姿を見つけて固まった。隣りにいるはずの広島弁のお兄さんがいない、代わりに同じぐらいの背丈のお兄さんが座っていた。浅生さんと仲良く座って談笑している。とても、楽しそうだ。浅生さんが私を見つけて手を挙げてくれた。行かなきゃ。重い足を動かして、営業スマイルを浮かべた。



「お待たせしました」

「ビールを二杯」

「はい、何時もありがとうございます」



 知らない、ううん、本当は、知っている。昨日、浅生さんの事を調べた時に知った、三月に結婚した奥さんだ。川村麻衣さん、彼女の着ているユニフォームも彼女のために球団が作ってくれたものらしい。浅生さんと同じ背番号は7だ。礼儀正しい人で、私がビールを渡すと丁寧に「ありがとうございます」ときらきらした笑顔でお礼を言われた。



「今日は田上が来れなくて、その代わりに彼女が来てくれた」

「そうだったんですね、ぜひ、田上さんの分まで楽しんで行って下さいね」

「ん、ありがとう」



 その後、何回も呼び止められた、昨日までは三回ほどだったのに。それは、隣りの奥さんの分を頼んでくれるからだ。奥さんはどうやら、お酒が好きな様だ。その頃にはもうすっかり打ち解けていた。でも、最後なんだよね。次の対広島戦で会えるかは分からない。昨日まで来てくれたお兄さんの様にまた来てくれるかもしれない。



「今年で売り子終わりですが、また試合がある時には、ぜひ声を掛けて下さいね。美味しいビール用意してお待ちしています」

「ありがとう」



 浅生さんと麻衣さんは揃って頭を下げると、階段を登っていく私を見送ってくれた。そして、私は彼らのファンになったのだ、レーゲンボーゲンと川村麻衣さんのファンに。



 メッセージで、ファン目線のお話など、面白そうですね、と言って頂けたので、書いて見ました。まずは、嘉隆くんのを。麻衣と遥くんのも書いてみたいですね。芽衣ちゃんはここでのみで他に登場予定はないのが残念です。

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