バレバレな君の優しい嘘
車を出してくれた、沢木さん、遥くんと沖さん、酔い潰れた莉子さんを回収して慌ただしく帰って行った。この不思議なメンツだとやっぱり、何かあるって直ぐにわかっちゃうよね。本当に、不思議なメンツで、嘉くんにも何バレバレだ。嘉くんは、これはきっと明日、野上さんにも何か言われるんだろうな、と呟いている。
少しお酒が入った嘉くんはとろんとした目で私に視線を向けている。分かっている。やっぱり、遥くんの言う通りになりそうで怖い。でも、その前に言いたいことを言ってしまわないといけない。
「ね、嘉くん、聞いて」
「なに?」
「私なりの言葉で言うから聞いてね」
「ん」
これ以上、飲ませちゃダメ、と言うところでやめさせて正解だ。その分、莉子さんが代わりに酔い潰れてしまったけれどね。後片付けはもう少し後にしよう。沖さんだけじゃなくて、沢木さんも優秀だな。食器のほとんどはキッチンのシンクに片付けていってくれた。残りは洗うだけだ。
「まず初めに、嘉くんのファンだけじゃないと思う。私のファンの子も嘉くんが好きじゃないって言う子がいる。これは、はっきり、言えることで、SNSで見かけたことがあったからね」
「今回はそれとは違うんでしょ?」
「スタッフが直ぐに消してもらったようなんだけど、『離婚すればいい』『川村麻衣が嫌い』『嘉くん、騙されている』とか『仲が悪い』『きっと、別れる』とか、まぁそう言う感じの書き込みを他の人のSNSで書き込んでいたらしいんだよね。結婚のときも同じ様な書き込みがあって、同一人物なんじゃないかっても言われた」
メッセージの類は、受け付けてはいない。なので、自分のSNSか他人のSNSに書くしかないだろう。問題なのは、そこではない。誹謗中傷があったからって、へこむ私ではない。二十年以上、芸能界にいるとそれだけではないからだ。直接私に『おかま』なんて言ってきた人もいた。これでも、女なんだけどね。言葉の意味を履き違えているのか、本当に男に見えたのかは分からない。
「私は、ファンの子を大事にしている。その子が、もしも、嘉くんを傷付ける言葉を言ったら、って思うとそれが怖い。嘉くんが傷付いたら悲しくなる。今はそれが嫌かな。だから、その人のことを怒らないで、とは言えない。私だったら、って考えてしまうから」
「麻衣、ごめん」
「嘉くんが私のことを思ってくれるのは嬉しい。でも、それだけじゃないんだ。この世界にいる以上は避けられないことだと思っている。いちいち、落ち込んでなんていられない。今回は、前に広大くんのことがあったから、腫れ物を扱うみたいなことしちゃったね。遥くんも責任感じているんだよ。責任感じて、俺に任せろ、って言ってくれた。犯人は捕まったとでも言っとく、って言っていたんだよ。ほんと、遥くんの嘘は優しいね」
嘉くんの腕が私の肩を抱いて引き寄せられた。無言なのは、自分でもはっきりと理解しているからだ。私のこと、強いって言ったけど、それは、嘉くんがいるから強くなれるんだ。
「事務所は、やっぱり、私の目に付かないように頑張ってくれている。それも、優しさだね」
「今回のこと、詳しい話を聞いて本当は怒りたかった。でも、こうして、莉子さんにまで、心配されて、みんなが俺のために色々と考えてくれて嬉しかった。こんなことって言うけど、麻衣を傷付ける奴が許せないって、本気で思っていたんだよ。みんなで、俺のこと必死で宥めるから、最後笑ってしまったけど」
「じゃあ、そう言うことあったらみんなで飲むってどう?!」
「あはは、それも良いかもね」
そんなこと出来るのも事務所が対処してくれるからだ。私は先制するように、嘉くんに自分から口付ける。嘉くんは、驚いたように私を見つめる。
「これで終わり」
「えー」
そう言って、逃げるように、後片付けするためにキッチンに逃げ込んだ。少し寂しそうだけど、遥くんの言っていたことを実践すつもりはありません。隣りに立つ気配を感じて、一瞬後ろから抱き締められたが、それも直ぐに離れて、「俺もやる」と言って、二人並んで後片付けをするのだった。
遥くんなりの優しさを、嘉隆くんは察してくれました。麻衣も学んだようで嘉隆くんが喜ぶことを最初にして誤魔化しています。




