君の事を公にする理由
今日私は、聖良ちゃんから、相談を受けた。打ち合わせ終わりに受けた相談の内容に莉子さんは一度立ち上がって席を外そうとしたが、聖良ちゃんのマネージャーとスタイリストの川井さん夫婦はその場に座ったままだ。と言うことは仕事の話でもあるのかな。美月さんと視線を交わすと、美月さんは莉子さんの隣りに座った。美月さんは、何が始まるのか楽しそうだ。莉子さんにため息を吐かれている。気を使って席を外そうとした莉子さんに対して、美月さんは立ち上がろうとしなかったからだ。
「美月、相変わらず、人の事に顔を突っ込むの好きよね」
「え、だって、逃したら勿体無いじゃないの」
その様子に聖良ちゃんは、苦笑している。はは、美月さんは相変わらず、人の恋バナが好きだ。こうして、聖良ちゃんが相談して来るとなると、きっと、晃くんの事しかないだろう。それで、仕事が関係しているとはどんな内容だろう。
「克弘さんにも相談したんです。何か、内田さんと一緒にお仕事が出来ないかと思って」
「ああ、それがきっかけになれば、カミングアウトしやすいね」
「そうなんです」
「具体的には何か決めているの?」
「いえ、全然思いつきません。なので、麻衣さんに相談しました」
「なるほど、私で相談相手なるか分からないけれど聞くよ」
「ありがとうございます、すごく心強いです」
聖良ちゃんも愛夢ちゃんほどでは無いが、晃くんのことに関しては、どこかでバレる分には、気にしないと言う事だった。愛夢ちゃんは、隠すことさえしていなくて、荘太郎くんが苦笑していたそうだ。
晃くんは私の様なタイプなので、公にしたく無いらしい。あまり、出掛けることはしない。聖良ちゃんの普段の服装がかなり一目を引くからだ。会うのは、夜が多いし、なので、出掛けたことは一度もない。
でも、きっかけがあれば良いだろう、とアドバイスをくれたのは誰かと聞いたら、やっぱり、そこは、遥くんだった。遥くんは、幼馴染みなので、晃くんのことを一番よく知っている。
「遥くん、絶対に悪役の親玉の側近だよ」
「確かに私もそう思います」
なぜ、私に相談なのかと言うと、私が言えば、晃くんも折れてくれるのでは無いかと言う事だった。いや、そこでなんで私なの。他にも、話しやすい人いるよね。そこ、遥くんじゃダメなのか。
「そこで、麻衣さんと浅生さんなんですよ」
「ああ、私だけじゃなくて、嘉くんもか」
「二人からのお願いなら、いけるんじゃ無いかなと思って」
「事務所から、強制すればよくない?」
「それだけでは、OKしてくれないって、古川さんが言ったんです」
「なるほど」
事務所がダメで、私たちだとOKなのも不思議な話だ。でも、みんなで囲っちゃえばよくないか? 顎に手をかけて考え込んでいた莉子さんが、「そんなの、簡単よ」と言った。みんな、一斉に莉子さんを振り返った。え、どう言う事?
「外堀を完全に封じ込めば良いのよ」
「うわ、莉子、こわ」
あ、同じこと考えていた。莉子さんの考えちょっと読めたんだよね。これも、長い付き合いだからなのかな。莉子さんの言葉に美月さんが引いているよ。周りも苦笑している。
「仕事を受けなければいけない状況まで、追い込む事。で、今回は何を考えているの? 歌? それとも、料理? 内田くんなら、モデルって言うのもあるわね」
「なんか、前にどこかでやったわね」
そう言って、美月さんは、私を見つめる。あれだ、遥くんとのユニットの時、私と遥くんのイラストは最初に出来上がっていたのだ。それを、持って来て聞いてきた。あの時は、『はい』か『イエス』しか言えない状況だった。うわ、ここにも黒幕がいますよー。
「料理は私苦手なのでパスです。モデルは私やったことないので無理です。なので、一緒に歌えればと思います」
「そんなこと無いと思うんだけど、無理強いするつもりもないよ。じゃあ、その曲を私と嘉くんで作ろうか」
「え、良いんですか?」
「聖良ちゃんと晃くんのために作ったとなると、晃くんも断りにくいんじゃ無いかな」
「わぁ、嬉しいな」
それなら、曲を作ってしまって、歌うところまで持っていけば良い。それと、衣装なども決めちゃえば良いんじゃないかな。それで、あとは、晃くんが断れない状況を作ればいい。遥くんがアドバイスくれたって言う事は、遥くんも巻き込んじゃえばいい。そう言うと笑われた。麻衣さんも策士ですね、って言われたけれど、遥くんや莉子さんほどじゃ無い。
「じゃあ、作詞は私と嘉くんがします。作曲は遥くんで」
「ありがとうございます!」
なんか、隠し事は嫌だけど、誰かのために曲を作れるのは嬉しいね。これは、rip tideに直ぐにお伺いを立ててくれたのは、社長と莉子さんだ。あは、荻野社長も乗り気で良かったよ。
* * *
そして、事務所から帰って来た、その夜。ご飯を食べ終わると今日事務所であったことを嘉くんに報告した。そう言うと嘉くんは楽しそうに笑った。あれから、直ぐに嘉くんの事務所に案件を持ち込まれて、OKが出た。今日は晃くん、モデルのお仕事があって、事務所にいなかったのも話が進んだ要因だ。
「どんなの考えているの?」
「やっぱり、レーゲンボーゲンのサポートメンバーだし、ドイツが母国の聖良ちゃんとなら、やっぱり、タイトルはドイツ語かなと思います」
「そうだね、そう言えば、晃には見せていない歌詞があるんだけど、使う?」
「え、良いんですか」
「うん、それさ、タイトルがドイツ語なんだ。それに、晃と聖良をイメージして作ったらバレバレじゃん。ちょっと、『聖』とか『光』とか使うのは避けた方が良いね」
嘉くんが考えていた歌詞を見せてもらった。あは、嘉くんらしい。誤魔化すように、『せい』って言う言葉は一緒じゃない? って言われた。そのタイトルは嘉くんの好きな『星』を意味するドイツ語で『シュテルン』だった。『光』は、『リヒト』と言うから、これは、遥くんとサポートメンバーと奏子ちゃんの高校時代からライブハウスでのバンド名なので使えないと言う理由もある。
「うん、『星』で良いと思うよ。ドイツ語使っているだけで十分だと思う」
嘉くんは、佑くんと奏子ちゃんのために曲を作った、『アステリズム』のカップリングになる『フタツボシ』だ。そして、作ったのは、嘉くんではないけれど、荘太郎くんと愛夢ちゃんの歌も、『アステリズム』のカップリングにしてくれた。これ、聞いた話では、嘉くんバージョンじゃないものを、アルバムに入れる予定でいるとか。うん、内緒案件なんだけどね。
「じゃあ、聖良ちゃんと一緒に歌うバージョンもやるんだね」
「うん、その方が、晃も諦めがつくんじゃないかな」
「晃くんがあきらめ…」
「あはは、別に笑いを取ろうと思っていないよ」
面白いことを言ったつもりは無いんだけど、嘉くんのその言葉に思わず笑ってしまった。聖良ちゃんと事務所違うし、レーゲンボーゲンもサポートメンバーも関係無いよね、って言ったら麻衣との仕事もやりやすくなるって言われた。やりやすくなると言ってもこれからセーブすることになっているよね。
「では、宜しくお願いします」
「こちらこそ」
改めてそう言って、私たちは笑い合った。聖良ちゃんと晃くんのために作る曲に携われるなんて、本当に嬉しいな。そう言えば、遥くんから後から聞いたんだけど、荘太郎くんと愛夢ちゃんの曲と佑くんと奏子ちゃんの曲があるなら、晃くんも誰かと一緒にやる曲があった方が良いと思っていたようで、聖良ちゃんからの申し出はタイムリーだと言っていた。サポートメンバーを全面に押し出すために考えてあったようだ。ぼそりと、私と嘉くんは顔を見合わせて『悪の宰相』と言う言葉にやっぱり、遥くんは満足げだった。
一応、遥くんは、晃くんが誰かとデュエットする曲、と言うのを考えていたようです。それが、聖良ちゃんに今回決まりました。付き合っていることなど、カミングアウトするのは、それでもまだ先になりそうです。今回は、布石の一つかなと思います。




