君の怒りと僕の優しさ(side遥)
BOOKリレーのための打ち合わせを終わらせて、報告のために一度、遥と一輝は事務所に戻った。遥がどこで、仕事だったのかは、言ってはいない。嘉隆は、今日は、午前中は事務所で仕事で、午後はTV局で仕事だったようだが、遥よりも早く帰ってきていた。
遥が戻ったタイミングで、事前に莉子から話を聞いていた博行が、嘉隆に話を振った。博行は、休みを取っている野上の代わりに、今日は嘉隆の仕事に付いていたようだ。タクシーでの移動の際に莉子にメッセージをもらっていたようだ。どうやら、事前に話し合って、浅生家で話をしようとまとまったようだ。
「嘉、突然で申し訳ないんだけど、今夜お邪魔しても良いかな」
「構いませんが、珍しいですね」
「うん、ちょっと、莉子さんが、渡したいものがあるって。それと、ちょっと、話したいことがあってね」
「そうなんですね」
俺も行く、と言った遥は、特に用事ないでしょ、と突っ込まれた。理由を知っている一輝は苦笑している。結局、麻衣に一輝もどうぞと言われたようで、一輝もお邪魔するつもりだ。ただし、タイミングが掴めないようだ。
「川村さんには、莉子さんから伝えられています」
「麻衣が良いながら、俺も問題ないです」
「ありがとう」
突然のことだが、遥はいつものことなので、嘉隆も気にしていないようだ。そういうことなので、気付かれてはいないようだった。遥は、遠慮して来ないと言ったのは最初だけで結婚後も押し掛けることは、結婚前と変わらない。
「車なんすけど、送りましょうか?」
「沢木さん、いいの?」
「うん、俺もご馳走してくれると嬉しい。家族が、今日いないんだよね」
「珍しいですね」
「ちょっと、奥さんと子供たちで実家に用事があって行ってる。一人飯ちょっと寂しいんで」
いつも車で来ている一輝の車に同乗させてもらうことにした。目的は、お酒では無くご飯なので、問題ないのだろう。一緒に行くタイミングを測っていたが、それに成功したようだ。嘉隆から、麻衣への連絡も忘れない。
* * *
麻衣には、事前に連絡済みだったようで、浅生家に来るとすでに麻衣と莉子がいた。今回は人数は多いこともあり大皿の料理がすでに出来上がっていた。莉子も手伝っているが、いつもの包丁を使わない料理が多い。骨付き鶏肉を酢で煮たもの、莉子の料理のレパートリーが増えるのかもしれない。
「麻衣、なんで今日もハンバーグがあるの」
「え、これは、お魚ハンバーグだよ?」
聞くと一昨日もハンバーグだったようだ。労うという意味が分かって遥は苦笑した。麻衣にとって、誰かを労う=好物を作るだと言うことだ。それは、実家にいた頃からそうだったので、自分も実践しているようだ。
「一昨日のハンバーグも冷凍庫にあるよ?」
「あはは、麻衣ちゃん、おもろ」
夕ご飯を食べ終わった麻衣は、冷蔵庫で冷やしていたと言う、山形産のワインを出して来た。同じぶどうで作ったノンアルコールのぶどうジュースは一輝のためだろう。莉子のお土産は妹の志保から預かって来たらしい。
「そう言えば、莉子さん。志保ちゃんからお土産って、聞きましたが」
「ええ、冷蔵庫に入れさせてもらったわ」
冷蔵庫から、ビールを取り出そうとしていた嘉隆が驚きの声を上げた。冷蔵庫には、牛肉が入っていたのだ。冷凍はされておらず、保冷バッグに入れて持って来てくれたので、直ぐに冷蔵庫に入れたらしい。
「ありがとうございます。って言うか、これ牛肉じゃないですか。それもかなり良いものですよね」
「ええ、もらったんだけど、麻衣にもって。うちにもあるんで気にしないで食べてね」
それだけで、嘉隆のテンションは上がってようだ。嘉隆は、牛肉が好きだ。わざわざ、嘉隆の喜ぶものをチョイスしたのかと思ったがそこは偶然なようだった。せっかくなので、一品作ろうかなと、なったようだ。
さっと作れる料理を完成させるとようやくみんなが席に着く。一輝以外はお酒だ、麻衣は申し訳なさそうに謝るが、一輝はぶどうジュースでも問題ないようだ。
そして、さっさと嘉隆にはバレた。こそこそしていたわけではないが、一輝が一緒なことがバレた要因だったようだ。怒るかと思ったが、ああ、もう、と言って苦笑いしている。予防線を張りすぎてしまった感が否めない。
「牛肉は本当に頼まれたのよ」
「疑っているわけではありません。でも、お土産にしたのは、うちに来る理由ですよね」
「そうね、ごめんなさい」
「怒っていませんよ。ありがとうございます。だって、麻衣が平気そうだし」
誹謗中傷を受けた本人は特に気にしていないようだ。どちらかと言うと嘉隆を心配していた。今も最初のワインを飲み干して、二杯目を注いでいる。
「本当に大丈夫か?」
「だって、厳重注意されたんだよね。俺も、なんか言っとく」
「SNSで、って珍しいな。いつもはスタッフ任せなのに」
「重要なことは書くよ」
そう言えば、嘉隆の祖父が亡くなったときには、自分の言葉で報告していたのを思い出した。はっきりと書きそうなので、忠告すると流石にそれはしないと言われた。
「心無い言葉をもらって、僕の好きな人が心を痛めています。どうか、見守っていてくれると嬉しいです」
「私別に心を痛めていないよ?」
「俺のこと心配していたよね」
「それ、拡大解釈」
「間違ってないよね?」
それ、屁理屈だろって遥も言っておいた。嘉隆の言葉なら聞く耳も持ってくれるだろうと踏んだが、それが分かるのはもう少し先になるだろう。俺いなくても問題なかったじゃん、と言った遥に嘉隆は少し酔い始めたのか、遥に絡み始めた。
「遥のせいだって聞いたけど?」
「嘉は女と一切、仕事しないのかよ」
「うん、麻衣以外とはしない」
「うわ、うざー」
いや、他の人とも仕事してください、と言った麻衣は困ったように笑っていた。手にしたワインは三杯目で、瓶は二本目のワインが開けられていた。飲んだのは、麻衣と莉子だ。莉子はしゃべらないと思ったらそろそろ落ちそうで、博行に介抱されていた。収拾が付かなくなる前に、遥は一輝に声を掛けて撤収することにした。博行と莉子を最初に送ってもらって、一輝に部屋まで送ってもらった。
遥くんが、嘉隆くんに、麻衣にされた誹謗中傷の話を説明する話なのですが、どうやら、普段集まらないメンバーがいたためか、早々にバレました。




