原点回帰とそのカタチ(sideレーゲンボーゲン)
前半は、TV出演したときのもので、後半は十月初めのお話になります。ここから、十月のお話に入ります。
九月に入り、そろそろ来年のレーゲンボーゲンのデビュー二十周年の話題もマスコミやニュースで取り上げ始められた。そして不本意な事に、別々の仕事も多いので、解散の噂まで流れている。
そんな中の、TV出演だった。トークが多めで、色々と突っ込んだ話も出るだろうと、予測はしていたが、そのものずばり、解散するのか聞かれた時は苦笑してしまった。マスコミの聞きたいこともよく分かる。困った事に、その被害者が麻衣だ。『Fluss』として活動している事が『解散』と繋がっているようで更に眉を顰める噂に『離婚』の話も出始めている。流石に、それは看過出来ないと、嘉隆の機嫌が悪くなりつつあったので、はっきりしておこうと思った。
「解散の噂もありますが、その辺はどうなのですか」
「誰が、それを言ったんですか。そりゃあ、二十年近く一緒にやってきたので、別々の仕事もあります。俺たちだって、ずっと一緒にいるわけじゃない。でも、こないだ新しいシングルも発売しましたよね。二人で、あーだこーだ言いながら作った曲で、好きなことさせてもらった。今まで無かった試みをしたシングルでした」
「ああ、確かに! 浅生さんが、ピアノを弾いていますよね」
「そうなんですよ。嘉から、やりたいって言ってくれて、俺がメインで歌う話もあったんだけど、ここは、ギターもやりたいので弾き語りをイメージして音を奏でるのをメインに作曲しました」
「それじゃあ、解散の噂の方は?」
「それは、一切ありません。根も葉もない噂です。それと、はっきり言えませんが、そのうち新しい情報を出せると思うので期待していて下さい」
「ありがとうございます。それでは、レーゲンボーゲンで新曲『アステリズム』です」
MCのその言葉に立ち上がった嘉隆と遥は顔を見合わせて、移動する際小さくため息を吐いた。納得してくれたかはわからないがとりあえず否定はしておいた。その後のSNS界隈に変化があることを祈るしかない。
* * *
その数日後、二人は社長室に呼び出された。呼び出された理由に思い当たる節がある。先日は、はっきりと解散するのではないか、と言われたばかりだ。いまのところ解散の予定はない。
「暫くの間、麻衣ちゃんとの仕事を控えることにするわ」
「仕方が無いことだけど、俺と麻衣のコラボも延期するってことだよね」
「ええ、ごめんなさいね。二十周年のことが終わるまでお預けね。取り敢えず、十二月のクリスマスコンサートは、毎年やっているので、予定通り。古川くんとのコラボも十一月のCDの発売日まで。他も基本的に今年いっぱいでやめるわ」
「控えるって言っても、三ヶ月だけですね」
「そうなるわね。今まで多かったから、三ヶ月でもかなりの話題になるわ」
社長の言葉に嘉隆は、少し不満そうだが、三ヶ月ならとOKすることにする。その間、レーゲンボーゲンでの活動を多めにいれて、少しでもアピールに徹すること。それから、各自の個人チャンネルでの仕事はその限りではないこと。そこまで規制はしたくない、と社長が言った。それに、ほっとする。そこまで、制限されたら、嘉隆は暴走してしまうかもしれない。
「まぁ、古川くんのことに関しては、予想外で驚いているわ」
「申し訳ありません」
「謝ることじゃないわ。良いことなんだもの。それと、浅生くんのカバーアルバムの発売日は、半年ほどずらしましょう、夏を考えているわ」
嘉隆のカバーアルバムに関しては、知らなかった様で、遥は驚いた様に嘉隆を見つめた。それに、満足げに嘉隆が笑う。予定では、一月から二月頃だった。星にまつわる曲をカバーするので、八月はぴったりだろう。
「あはは、社長、ここでバラしちゃうんですか」
「必要だと思ったからよ。そう言うわけで、これからの仕事は、レーゲンボーゲン二人だけで。それと、サポートメンバーを含めて、来年の二十周年に向けてアルバム作成宜しくね」
「了解です」
さっきまで、少し機嫌が悪かった嘉隆だったが社長のカミングアウトに、機嫌が少しだけ直ったようだ。遥もその様子を近くで見ていたので、遥と嘉隆と二人の関係がぎくしゃくしていたのもあった。
「麻衣ちゃんが、いるからって二人の関係が変わるものなの?」
社長のその質問に、二人は顔を見合わせることもせずに即答した。その言葉は、社長も分かっていたようだ。顔を見合わせて確認することも無くさらりと出てきた言葉だ。
「「そんなことはありません」」
重なった、二人の言葉に社長は「それでこそ、レーゲンボーゲンだわ」と呟いた。二十年一緒にいて、培ってきた二人の絆は壊れることはないだろう。
道の先にある夢のカタチはこれからも、カタチを変えようとも根本にあるものは、けして変わることはない不変のものだ。
「それから、うちの事務所との繋がりは途絶えていないわ」
「何かありましたっけ」
「愛夢ちゃんとの仕事を増やしているわ」
「なる」
二人は顔を見合わせて、笑みを浮かべた。この社長にはどうしても勝てない、そう思うのだった。今年は、愛夢の二十周年イヤーということもあって、色々なミュージシャンとのコラボも多い。その一つが麻衣と一緒にやることだ。夏頃には、公になっていないが、新しいシングルのために一緒にMV撮影なども行ったそうだ。家族内での周知ということでその辺の事情は嘉隆も聞いていた。
* * *
他の仕事があると言って退出していった社長を見送って、遥はソファーの背もたれに身体を預けると大きなため息を付いた。
「社長、相変わらず食えないな」
「全部、バレバレなの、すごいよね」
「ぎくしゃくしていたつもりないんだけどなぁ」
「そう見えていたんじゃないの。だって、遥、麻衣とばっかり仕事してるし」
「嘉の機嫌は悪くなるしな」
「側から見れば、仲悪いって思われても不思議じゃない状況だったでしょ」
「ああ、悪い」
「遥のせいじゃないよ。まさか、麻衣とのコラボがあそこまで、騒がれるとは思っても見なかった」
「ああ、あれは、俺でも驚いている」
「そうなると、和菓子の方も春以降かな」
「あれは、もみじ饅頭なんで、来年の秋にでもすればいいよ」
「確かにそうだな。話だけまとめておく」
「うん、そうだね」
レーゲンボーゲンの不仲じゃないか疑惑の一つは、麻衣と遥で組んだユニット『Fluss』の人気が出たことだろう。元々、麻衣のファンや遥のファンだけじゃ無い。普段と違った音楽ジャンルなこともあって、新規のファンも増えた。麻衣の動画配信チャンネルでは、一緒に歌うこともあったが、それほど浸透はしていなさそうだった。
麻衣の実家の枝豆と米を使って、遥の実家で広島のもみじ饅頭を作る案も少し先延ばしした方がいいかもしれない。試作だけ、この時期にやって本格的にやるのは、来年の枝豆の収穫の時期にすることにした。
「二十周年もあるんだ。原点回帰しようって言う、社長の配慮だ」
「うん、そうだね」
「あとさ、麻衣ちゃんとSNSででもいちゃついとけ」
「それ、麻衣が全力で拒否る」
それに、離婚の話が出ている時にいちゃついていると、それは、演技なのではと思われるかも知れない。そう言うわけなので、普段通りが一番良いのかもしれないね、そう言って嘉隆の表情はほっとしたようだった。
「多分、麻衣は気付いていないと思う」
「ああ、麻衣ちゃんが、率先していちゃつく分には問題ない」
「さっきも言ったけど全力で拒否るよ。遥や他のみんなとはいちゃついているのにずるいよ」
「いや、それ、いちゃついてはいないから」
動画配信チャンネルではとりあえずいつも通り一緒にやっても問題ないと言われたので、嘉隆は嬉しそうな顔で「何をしようかな」と呟いたのだった。それに対して遥はぼそりと「麻衣ちゃん、ニゲテー」棒読みで返したのだった。
ここから、十月のお話に入ります。




