莉子と博行の夕ご飯作り(side莉子)*
莉子さんと沖さんの食事事情です。
博行には、使っているのを見て、驚かれたが、笑われることは無かった。本当に、この人は優しい。そして、一緒に作りますか、と言ってくれた。いつもは、作ってくれるので、こう言ってくれるのも、優しさだ。
そして、そう言う使い方もあるんですね、と言ってどちらかと言うと関心された。キッチンバサミを使うことが本当に珍しかったようだ。
「ネギは、真ん中から切り込みを入れて、後は好みの太さでカットしていくんですね」
「青ネギでも出来るかは分かりません」
「ああ、白ネギに比べて細いですからね。でも、大丈夫、そっちでも出来ると思いますよ」
東京では、白いネギが一般的だが、西の方では、青いネギが出回っているのを、麻衣と共に広島に行ったときに知った。お好み焼きに使われるのも青ネギだったからだ。
「キッチンバサミ、色々と便利ですねぇ」
「まな板が無かったんですよね、うち」
「ああ、キッチンバサミなら、直接ボウルなどに入れれば済むので、洗い物が減りますね。川村さんも、キッチンバサミを多様するんですよね」
「あれ、その話、聞きました? 麻衣は、ああ見えて、結構雑なのよね」
「実は嘉から聞いていました。嘉は、細かい作業が好きな方なので、料理は始めたら、直ぐにのめり込みましたね」
莉子がキッチンバサミを使って料理することは、知っていたようだ。事前に嘉隆から聞いていたようで、使っているのを見て驚いたようだ。
「あれ、でも、驚いたのは?」
「ああ、それは、実際に目の当たりにしたからです。知っていたのに、お話せずにすみません」
「いえ、特には。博行さんのご飯が美味しいので、私がやらなくても良いと思っていました」
若い頃は、忙しいこともあって、自分で料理は、ご飯を炊くぐらいだった。離婚後に料理を覚えて作るようになったようだ。男の一人暮らしなので、基本、自炊では無く、外で食べることが多い。遥は、今でもそうだ。嘉隆と一緒で、初めると、のめり込むと分かっているからやらないそうだ。
「でも、自分で作るようになったのは、偉いわ。だって、私ずっと実家住まいで、弟が結婚したのを機に家を出たんだけど、やっぱり、自炊はせずに、買ってくるか、食べてくるか。麻衣がたまに、実家の仕送りに困ってご飯をご馳走してくれるようになったから、その時に少しづつ覚えるようになりました」
「では、やはり、川村さんのお陰なんですね」
麻衣の教え方は雑だったが、それが、莉子でも料理を簡単に作れるようになった。そう言った理由なので、確かに麻衣のお陰で間違ってはいないのだろう。
ネギは味噌汁の具の一つだ。豆腐は、千切って入れるのを教わったのだが、それは確認してから入れることにする。流石にそれも驚かれた。キッチンバサミで、豆腐は切るのが難しい。難しいなら、ちぎれば良いと教えてもらった。嘉隆には、キッチンバサミを使うとだけ聞いていたようだ。
「豪快ですが、それも、包丁を使わない良い案ですね。料理でも、豆腐をこうする場合もあるので、良いと思いますよ」
「きのこは汚れを落とすだけで良いみたい」
「そうですね」
今日の味噌汁は、莉子に作らせてもらった。魚を焼いて、おひたしのほうれん草も茹でてから切るのでは無く、最初からキッチンバサミで切ってからレンジで温めている。
「本当に包丁を一切使わずに出来てしまいましたね」
「麻衣の話では、野菜もそこまで大きくなければ、キッチンバサミで切れるって言っているわ」
肉をキッチンバサミで切るのを見て、莉子も流石に初めて見たときは驚いた。野菜は、小さいものが多かったので麻衣の部屋で手伝ったときは、そのままのサイズだった。あのときは、じゃがいもの芽を取って、洗ってはいるが、皮は剥いてはいない。皮剥きも面倒ならしなくても良いと言われた。これは、カレーを作ったときだ。
出来上がった、料理をテーブルに並べると、冷やしていた、ビールで乾杯する。仕事は忙しいこともあるが、こうして一緒に夕ご飯を作る時間は取るようにしていた。
そして、莉子は思う。嬉しそうに食べてくれることが、こんなにも嬉しいものだとは思っても見なかった。もしかしたら、博行もそう思って作ってくれるのかもしれない。改めて、いつもありがとうございます、と告げると驚きの後に目を細めて笑い返してくれたのだった。
普段は、沖さんが作っていますが、今回は初めて手伝っています。麻衣から教えてもらったことが役に立っているようです。




