一緒にいるから楽しいこと、おまけ(side文香)*
『一緒にいるから楽しいこと、君への初恋(side文香)*』の一年後ぐらいのお話になっています。
二年生に上がっても、農業科は一クラスしかないので、クラス替えがない。三年間同じクラスメイトになる。文香は中学から美術部に所属している。中学時代は、絵美も麻衣も同じ美術部だったが、絵美は高校にあがると弓道部を選んだ。理由が、毛利元就公が好きと言う理由で、麻衣と顔を見合わせて呆れた。麻衣は、農業科の実習が大変だと言う理由で、部活は入っていない。
「新くん、放課後の三十分でいいから、絵のモデルになってくれない?」
「僕でいいの? 麻衣もいるよね」
「麻衣でも、良いんだけど、麻衣は見慣れてるからなー」
「そっかー、見慣れてるから嫌なのかー」
思わず、近くにいた麻衣が、見慣れていて悪かったね、と呟いて絵美に笑われている。何より麻衣は、放課後も何かと先生に頼られて、実習の手伝いをさせられている。部活に入っていないなら手伝えと言われて断れなかったようだ。委員会も緑化委員で、その仕事もあるので、結構忙しかったりする。
「絵美ちゃんは、真面目に部活行ってるんだ」
「うん、明らかに入った理由がひどいけどね」
「それでも、真面目に行ってるんだから偉いよ」
麻衣と違って運動は嫌いでは無いのと、それほど動く部活では無いので、続けられているようだ。新も同じく部活には入っていないので、文香のお願いを快く引き受けてくれた。
「バイトの無い日でいい?」
「うん、あと、うち、図書委員もあるので、それ以外で」
「OK、いつまで?」
「けせもい展が夏休みなんで、夏休み前には終わらせたいと思ってる」
「あはは、思ってるのかー」
「思ってるんだよー」
やっぱり、新は優しかった。無理なお願いは流石にしないし、されても断ることもあるので、今回のモデルは無理の無い範囲で頼み込んだのが良かったようだ。
* * *
その後、新は、バイトで買ったギターを弾きたいと言った。秋の文化祭に有志でバンドをやりたいと言って、キーボードの学とベースの裕太、ドラムの潤に声を掛けたようだ。
「ボーカルどうするの? 新くんがギターやりながら歌うの?」
「まだ、その段階じゃないんだよね。誰かいないかな、って思ってる」
「じゃあ、麻衣に聞いてみなよ」
「麻衣、歌えるの?」
「上手いよ。でも、絵美は音痴だけどね」
「絵美ちゃんは歌は苦手なのかー」
絵美は何故か、麻衣と一緒にいるのに、歌が上手くならなかったようだ。でも、歌が好きで音程を外しながらも楽しく歌っている。新はまだ、一緒にカラオケには行ったことがないようだ。
「うん、聞いてみるけど、意外だね」
「そうだね、人見知りするし、人前で歌うの多分渋ると思うけどね」
「じゃあ、無理なんじゃ?」
「周りから、揺さぶりかけて、外堀埋めちゃえば大丈夫、って、麻衣のお兄さんが言ってた」
「お兄さんが言っていたのかー」
結局、歌いたいと言う気持ちもあったようで、麻央は折れてくれた。まさか、麻衣の兄の悠一の担任が同じく農業科の担任をしていて、悠一が文化祭で歌ったことも知っていた。
「麻衣のお兄さんって何者?」
「ただの、農家だよ」
「ただの農家って」
そう言って、苦笑された。その辺は、そう言うと誰もが、笑ってくれる。川村家は、歌が好きでみんな歌が上手いんだけど、悠一以外は人見知りで、騒ぐことが苦手なので、あまり知られていなかったようだ。
結局、文香の絵が完成したのは、ギリギリだった。その頃には、新は、みんなと文化祭のバンドの練習も初めていた。ごめんね、と謝るが、気にも留めない笑顔で、けせもい展、絶対に見に行くよ、と言ってくれた。
ふと、新くんに絵のモデルを頼みたいな、と言っていた文香だったので、思い切って頼んでいます。けせもい展の作品は各学校で持ち込みになるので、最悪、前日に出来上がって、絵の具がまだ乾かない、と言うこともありました。




