一緒にいるから楽しいこと、君への初恋②(side文香)*
昨日の絵美に続いて文香の初恋話になります。
同じクラスに可愛い子がいる。明るく、人見知りしなくて、誰にでも優しい男子だ。うん、可愛いけど男子だ。佐藤新くん。身長は、文香とほとんど一緒だ。地区は、文香と一緒では無いので、高校から一緒になった。
「いいな、中学が隣りってことは、家が近いだよね」
「うん、家までは、駅より近いよ」
文香もすぐに仲良くなった。男女関係なしに、声を掛けくれるほど、社交的だ。ぼそりと、誰かさんと大違いだね、と呟いて絵美には笑われて、そう言われた麻衣は仏頂面をしている。
「新くんと柊一くんが、大谷なんだね」
「うん、あと、柊の幼馴染も一緒だよ。あやねちゃんは、普通科だけどね」
柊一の幼馴染みの田端あやねは、普通科クラスの二組だ。新と柊一と同じ高校に入りたかったが、農業科は嫌なので、普通科にしたそうだ。そして、麻衣の幼稚園からの友人の小野寺潤とも新は直ぐに仲良くなったようだ。
「潤のところ、りんご農家だってね。うち、いちご作ってるから、話が合うだよ」
「じゃあ、麻衣とも話は合うね」
「麻衣も?」
「麻衣のところ、米農家だよ。野菜も作ってるけどね。ちなみに、うちは普通にお父さんは会社員だよ」
「農家が多いんじゃないんだ」
「絵美のところは、食堂経営しているよ」
他に仲良くなった、田中学や、鈴木裕太のところも普通の会社員だ。農業科だから、農家出身が多いわけではないようだ。中には、漁師の子もいた。その子に関しては、何故、水産高校に行かなかったのか謎だ。麻衣は、農家だし、家が近いからと言う理由で選んだ。同じく、文香も絵美も家から近いから選んだそうだ。
「新くーん、一緒に帰ろう〜」
「うん、いいよ。一緒に帰ろうか」
「うん!」
「文ちゃんも、一緒に帰ろうよ」
クラスメイトは、みんな優しい。新が農業科の王子様と呼ばれて、ファンクラブがあっても、クラス内は仲が良い。しかし、誘われたが、残念なことに文香はこれから、図書委員の仕事がある。
「ごめん、これから、委員会なんだわ」
「そっかぁ、残念。じゃあ、えみりんは?」
「うん、途中までなら、良いよ」
絵美と麻衣は自転車通学なので、途中までなら、一緒に帰ることが出来る。クラスメイトは、麻衣も一緒なことに嬉しそうだ。文香は、泣く泣く帰って行くみんなに手を振った。今度、誘ってねというのは忘れない。
* * *
ある日、珍しいことがあった。放課後、図書室に来ることが滅多に無い新が図書室に来ていた。帰りのHRが終わって教室で別れたばかりだった。文香はちょうど、当番でカウンターにいた。
「文ちゃん、やっほー」
「新くん、いらっしゃい」
「ね、文ちゃん。相談に乗ってくれる?」
「相談? 柊一くんにじゃなくて、私に?」
「うん、読書感想文用の本選んでくれる?」
「ああ、なるほど、いいよ」
確かに、本は、柊一よりも、文香に聞いた方が良いだろう。新は、最初、いつも本を読んでいるから、と言って麻衣に聞いたらしいが、役に立たなかったと言って笑っている。麻衣は、本をよく読むが、同じ本を借りたことがあって、文香が前にそれ、面白くてリピートしたの、って聞いたことがある。あの時は、あ、と言って考え込んでしまった。どうやら、同じものを借りようとしても気付かなかったようだ。あそこで文香が指摘しなければ、同じものを借りていたかもしれない。
「麻衣はダメだわ」
「ああ、やっぱり」
「何が良いかな」
カウンターをもう一人の子に任せて、新を連れて、書架に向かう。新があまり、本を読まないのを知っているので、厚い本はやめる。文章が古臭いものも挫折することが多いのでそれもやめた。
「この辺りかな。課題図書とかおすすめのは、みんな借りちゃってるんだよね」
「これは?」
「一昨年の課題図書」
「なる」
「読みやすかったのでおすすめ」
内容もそこまで、長い話では無いので、すぐに読み終わるだろう。文香のおすすめは間違いないと言われている。それに、と言って、本をあまり読まない絵美でも読み切ったようだ。
「文ちゃん、ありがとう」
「どうしたしまして」
「ね、これここで読んでも良い? 文ちゃんの仕事が終わったら一緒に帰ろうよ」
そう言って、新はにこにこと満面の笑みを浮かべて、文香を誘った。これが、小悪魔と呼ばれる所以だ。誰かれ構わずこうして、誘ってくれる。仲良くなれば、誰でも友達なのだ。柊一くんは? と言ったが今日は部活があるようだ。
「うん、いいよ」
「じゃあ、待ってるね」
なんか、まるで彼氏のようだ。みんなのアイドルなんだけど、こうして新は誰かと一緒が好きだと言うのも知った。なので、部活が無い日はいつも柊一と一緒だ。バイトがあるときも誰かと一緒に途中まで一緒に帰る。
「新くん、誰かと一緒が好きだよね」
「うん、誰かと一緒の方が楽しいよね?」
「それは、そうだけど」
「家に帰っても、お姉ちゃんと妹といつも遊んでるよ」
文香には、姉と兄がいる。兄が、新と立場が一緒だが、あまり仲良くはない。家族仲は普通だと思っている。文香は、委員会の仕事を終えると、新は随分と読み進めていたようだ。
「どう?」
「うん、面白い」
「良かった、読書感想文頑張ってね」
「ありがとう」
読書感想文は、夏休みの宿題だ。文香も本は決まっている。それをもう一度読み直して、書くだけだ。夏休みの宿題で一番最初に終わるのが読書感想文だ。夏休みは、もうじき始まる。
「文ちゃんは、夏休みは?」
「部活と、委員会あるから、毎日来ると思うよ」
「じゃあ、僕も来ようかな」
「あはは、ほんと、新くん、みんなが好きだね」
部活に入っていない新は、夏休み中は、バイトが夕方から入っているだけだと言っていた。遊ぶ約束もしているので、部活や委員会が無かったら一緒に行っていただろう。
「じゃあ、読書感想文の書き方も教わろうかな」
「うん、いいよ。美術室か図書室のどっちかにいると思うからいつでもおいで」
そう約束して、文香は新と途中で別れた。方向が違うのだ。手を降って、見送る新は楽しそうに駆けていった。その後姿を見送って、絵のモデルを頼もうかなと思うのだった。
新くんに対する恋心は、絵美の悠一に対する恋心や、麻衣の健太に対する恋心と変わらないかもしれません。




