光のような君と初めての邂逅(side杏)*
杏が初めて、理人くんに会った時の杏視点の話です。
昨日、麻衣の全国ツアーのファイナルライブが東京で行われた。おばの麻衣はきらきらしていて、すごくカッコ良かった。杏にとって、ライブは刺激をもらえるし、何度行っても楽しいものだ。ただ、チケットは高くて、地元のライブぐらいしか行けないのが、すごく残念だ。
その日は、広島から来た嘉隆の姪の凛と、遥の姪の六花も、麻衣の部屋のゲストルームに泊めてくれた。狭い客間に四人は流石に大変で、最後に、絵美は苦笑しながら、居間のソファーで寝ていた。
「絵美おばさん、なんか、ごめんなさい」
「うん、気にしないで。修学旅行みたいで楽しいよね」
「うん、めちゃ、楽しかった!」
流石に、麻衣と嘉隆の寝室に突撃するのは、やめたようだ。遥は遊びに来るとよく、ゲストルームではなく作業部屋のソファーで寝ているそうだ。防音設備がしっかりしているので、生活音がしなくて良いらしい。杏たちが起き出したのは九時半を回っていた。既に、麻衣は報告と後片付けのために、少し早めに事務所に行ったそうで、嘉隆が朝食を作っていた。それを、絵美が手伝っている。今日、絵美たちは、杏を残して宮城に帰ることになっている。同じく叶家、広島組も帰る予定だ。
「うちも、残りたいけぇ」
最後まで、凛は自分も残りたいと渋っていた。しかし、中学生、春から高校生になる子を置いていくわけにはいかないので、真理子に諭されていた。杏が初めて東京に一人で来たのは、高校二年生の時だ。なので、その時に一緒にまた、会おうと杏が言う。それまで、バイトをしてお金を貯めなよ、とアドバイスしている。杏の説得にようやく凛は頷くと、真理子と賢人と共に帰って行った。
* * *
その後、遥が午前中は事務所の用事があるからと言って、杏と六花を古川家に案内してくれた。田中夫妻と叶夫妻は、仲良く電車で東京駅に向かって、そこで新幹線の時間まで暇を潰すそうだ。遥の車で古川家に杏と六花を連れて行ってくれると、嘉隆と共に、仕事に出掛けて行った。
「六花、お帰り」
「お兄ちゃん、ただいま」
車の音に気付いた六花の兄が玄関に顔を出した。遥に用事があったようだが、遥は車からは降りずに、杏と六花を下ろして、そのまま事務所に行ってしまった。
「おじさんは?」
「お仕事に行った」
「そっか」
「おじさんに用事?」
「うん、まぁ、後でも良いかな」
遥の甥っ子だと言うことだが、遥にはあまり似ていない。どちらかと言うと、TVで何度か見たことがある、おじの晃に雰囲気が似ているかもしれない。六花の母は、晃の姉のみどりだ。
一昨日のランチのもんじゃ焼きをサポートメンバーの人たちと一緒に食べた。その時に、杏も晃に会った。TVで見るよりもカッコ良くて、杏の祖母が好きだというのもよく分かる。母も好きで、最初は遥派だったのを、動画配信サイトを見るようになると、乗り換えたくらいだ。それには、遥が苦笑していた。
自己紹介してくれた理人は、杏よりも一つ年下だった。先輩と呼ばれたけれど、それは嫌なので、『杏さん』と呼んでもらうことにした。理人の髪型は少し襟足が長く長髪の髪を後ろに結んでいる晃とは雰囲気が違う。髪色も晃の方が若干明るい。おじの遥には、全然似ていなかった。
「お兄ちゃんは、お母さん似なんだよね」
「そうなんだ」
「それで、私はお父さん似って言われる」
杏は、どちらかと言うと、母親似なので、麻衣とはあまり似ていない。似ていないが、母も美人の部類に入るので、杏もそれなりに美人だ。六花の黒髪は、綺麗だが少し硬く、遥に似ているかもしれない。
「私は、お母さん似だよ。お父さんに似たら、麻衣おばさんにも似ていたかもしれない」
「杏お姉ちゃんは、すごく綺麗だよ」
「えへ、ありがとう」
でも、麻衣は、兄弟では、長兄の悠一よりも次兄の敬也に似ていると言われる。悠一は父親、杏の祖父似で、敬也と麻衣は、母親、杏の祖母似だという話だが、今の祖父と祖母を見ている限り、年齢を重ねたためか分からない。
お互い自己紹介が終わって、六花は、ちょっと待ってね、と言ってキッチンに移動して行った。みどり特製のケーキを受け取るためだ。
「理人くんって、大学生なんだよね」
「ええ、そうです」
「ああ、敬語じゃ無くて良いよ」
「流石に」
「あは、真面目だね。私、専門学校行っているから、尊敬するな」
「専門学校だって、勉強するところでしょう」
「それは、そうなんだけどさ。でも、やっぱり、仙台出れたのが嬉しくて、勉強疎かになっている感じもあるんだよね。せっかく、行かせてもらっているのに、申し訳ないなって」
「僕だって遊んでますよ。大学生なんてそんなものじゃないですか」
「大学生でもそうなんだ」
「そうですよ」
「そっか、なんか安心しちゃったな」
そして、理人は、イケメンな笑みを浮かべて、杏が申し訳ないな、と思っている心配ごとにアドバイスしてくれた。それに対して、腑に落ちたように「おお」と言って理人の考えを称賛した。
「それ、卒業してから、考えれば良いですよ。卒業して、家のことになることが出来れば、それで帳消しになると思います。杏さんは、きちんと勉強していて、遊んでいるんでしょう?」
「そうだね、ありがとう。理人くんもそうなんだね」
「はい、勉強も成績を落とさないようにして、それで遊んでいます。バラしちゃうと父の受け売りなんですけどね」
「あはは、そうなんだね!」
杏は知らなかった。遥の兄も大学では、遊んでいて少し不真面目な大学生活だったようだ。しかし、大学を卒業し、実家の和菓子屋を継いだ。杏もまた、卒業して地元に戻って、少しでも家の手伝いになれれば良いと思っている。
「杏お姉ちゃん、私の部屋に行こう〜お兄ちゃんと何話していたの?」
「うん、専門学校行かせてもらっているのに、遊んでいて、親に申し訳ないな、って思っていたんだけど、理人くんも一緒だった」
「ああ、お兄ちゃんもだね。お父さんもだって」
「それ聞いたよ」
「お兄ちゃんね、バイトが洋菓子店なの」
「あれ、でも」
「うん、なんか、和菓子と洋菓子をミックスしたもの、出来ないかって試行錯誤してる」
それ、言うな、って言われて、ごめーんと言って六花は逃げている。理人もまた、和菓子屋のために、これからのことを考えているようだ。
「お兄ちゃん、お母さんに、色々と教わって一緒にお菓子作ってる」
「すごいな」
でも、杏もまた、家の手伝いになればと思い、学校は農業科のある地元の高校にした。そして、少しでも役に立とうと経理系の専門学校を選んだ。一緒だね、そう言った杏は、理人に勇気をもらったような気がした。理人は、これからのことを考えてとてもきらきらしていた。
杏も理人くんも家のために何かをしようと頑張っています。杏も理人くんも兄弟の中で一番年上なので、責任感を感じるタイプです。




