遥くんの結婚事情
たまに仕事が長引く嘉くんを待って、遥くんと二人で飲む事がある。事務所近くの、個室のある居酒屋、前に莉子さんが合コンするって、言い出した場所だ。もうすっかり、顔馴染みで、私たちが行くと個室に案内してくれる。嘉くんの仕事、今日は、番組の撮影とだけ、聞いている。その辺は、番組の放映間際まで、秘密事項になる事もあるので、詳しい事は知らない。
そして、私は、そんな遥くんに聞いてみたい事があった。嘉くんが居ても良かったのだが、一緒の時に話してくれるのか分からないので、まずは私から聞いて見る事にした。
「遥くんって、進学校卒業して、大学に行って、大学もちゃんと卒業したよね。部活も弓道部だし、音楽やるようなタイプに見えなかった。歌う事や、ギターを弾く事が好きって言う理由だけじゃ、歌手になろうって思わないよね」
「高校の時に、兄貴に勧められたビートルズの曲に衝撃を受けたのは確かにあったな。でも、何でだろうな、あのまま、高校、大学と卒業して、公務員にでもなって、そのうち結婚してっていう未来が途中で見えなくなったんだ。自分にも分からない。大学を卒業したのは、親のためだけじゃなくて、自分のためでもあった。音楽の道に進んで失敗してもやり直せる。でもな、嘉に会って、一緒に居る事が当たり前になって、どうしても、嘉の夢を応援したくなった」
「やっぱり、遥くん、嘉くんの事、大好きだよね。私もだよ、嘉くんのために何かしたいって思う。夢だって、全力で応援したい」
「麻衣ちゃんの好きとは大分違うんだけどな。応援したいのは、俺と一緒だな」
「この事、嘉くん、知ってるの?」
「嘉の前でその話題出さなかったのは、その事に対して、気にしてるからか。麻衣ちゃんは相変わらず、人に気を使うのが上手いよな。知っているかと言われると、どうだろうな。麻衣ちゃんと一緒で、相当、俺も流されやすいのかもしれない。だって、中学時代の友人と一緒にバンドを始めて、そのまま、ずるずるとやめ時忘れてるんだ。その時に、嘉に会った。それからは、嘉を応援したくなった。バンドの奴らも同じ事言うんだ。俺と嘉のためなら、何でも頼ってくれって言われてる。最近は、それに君も含まれたようだけどな」
不器用で、お人好しで、遥くんと、私はちょっと、似ている。でも、遥くんは私よりもずっと冷静だ。そして、すごく大事な友達もいる。まぁ、私にも絵美が居るんだけどね。きっと、その友達が居るから、こうして、遥くんは、ここまでやって来れた。
もう一つ、多分、そっちの方が、嘉くんがいる時に聞きにくい事だ。もしも、その考えが私と一緒だったら、遥くんはこれからどうするのだろう。
「相変わらず、麻衣ちゃんは嘉と一緒で考えが読みやすいよな。結婚しないの? 辺りか、嘉が一緒だと話しにくい事って言ったらこれくらいしか、思い浮かばないな。嘉の昔の結婚気にしてるとか、考えているんだろう?」
「もう、遥くんてエスパー?!」
「ははは、そんなわけあるか」
「言えない事?」
「温度が違うんだ。俺が水だとしたら、付き合う女は、お湯、熱湯の時もある。合わないんだと思う。そうだな、同じ温度の人なら、合うのかもしれないな…麻衣ちゃんみたいな」
「え?! 私?!」
「冗談だよ」
そう言って、遥くんは嘉くんが居ない事をいいことに私を揶揄う発言をする。遥くんは、温度と言った。不思議な言い回しだ。他に言葉が思い浮かばないようで、でも、それがすごく分かりやすくてしっくりくる。
「俺さ、いつも間が悪いとか、後手にばっか、回るって言われてる。その意味、分かる? 中学の時に、好きだった女の子は、今は、結婚して、海外に行ってしまったよ。幼い頃から、うちに顔を出してくれてた子は、幼馴染みで、高校の頃に意識する様になったが、そのうち兄貴の彼女になって、結婚した。恋と気付く前に終わっていた。大学は結局、前半は授業、バイト、ストリートライブ、ライブハウス、後半は、授業と仕事で、忙しくて、彼女作る暇さえなかった。その頃からかな、温度差感じるようになったの」
「その頃の私、恋愛と友愛の区別つかなくて、失敗してるから、きっと、その意味を理解する事が分からない。ごめんなさい」
「俺はさ、このままで十分なんだよ」
分からなくはない、だって、遥くんと話す時は、きっと同じ温度で話をしているから、水よりは少しだけ温かい温度で、私たちは、そうやって、これまで、過ごして来た。そして、これからも、そうだと思う。
「これからも、宜しくお願いします?」
「なんで、疑問形なんだよ、ああ、俺からも宜しくな」
そう言って、遥くんは、楽しそうな笑みを浮かべた。この人は、盟友、それとも、悪友? 一つ言える事は、この人も私にとって、すごく大事な人なんだと言う事だ。遥くんも幸せでいて欲しいな。
ここで、遥くんの間が悪い属性追加(笑)。




