事務所でのひと時(騒がしい日)
虫が出て来ます、虫が苦手な方はご注意をお願いします。
事務所で、打ち合わせをしていた私とレーゲンボーゲンの二人は突然の悲鳴に、顔を見合わせた。今日の、打ち合わせは多田一美社長と、沖さん、そして、仕事を終えて後からやって来る、愛夢ちゃんと、お茶を淹れている莉子さんで行われる。
その莉子さんの悲鳴が事務所内に響き渡ったのだ。この場合、お客さんや、多田社長を立たせるわけにはいかないので、私が様子を見るために立ち上がる。今日は、他のスタッフは出払っていない。しかし、気になったのか、みんな着いて来ちゃった。ま、いいか。
「莉子さん? 何かありました? 大丈夫ですか」
お茶を淹れるって言う事は、給湯室だろう、ドアを開けて覗き込むと、床に座り込んだ莉子さんを見つけた。震える手で、莉子さんが壁の上の方を指さしていた。そして、壁には大きな蜘蛛がいた。白い壁なので、良く目立つ。
沖さんが、莉子さんを助け起こしたが、腰が抜けた様で、沖さん、莉子さんを抱えて、給湯室から出た。お、沖さん、意外と力あるのね、お姫様抱っこだ。
「うわー、でか。麻衣、これどうするの」
あ、忘れていた。莉子さんのお姫様抱っこに気を取られていたよ。社長は、慌てて、何か捕獲出来るものはないかと、掃除道具入れを覗いている。嘉くんが、蜘蛛を見上げて、そう言ったが、蜘蛛になんか、触りたくないよねぇ。遥くんもどうしたものかと思案中だ。手を伸ばせば、届かない距離ではないな。
「ま、麻衣?!」
「麻衣ちゃん?」
嘉くんと遥くんが一斉に声をあげた。何をしたかというと、その蜘蛛を私が素手で捕まえたのだ。逃げない様に一気に。そして、すたすたと蜘蛛を手に、窓辺に向かって、歩くと窓から、蜘蛛を放り投げた。
それは、一瞬の事で、二人は固まったままだ、私が側を通り過ぎると、多田社長も私を見て固まっている。最初に声を出したのは、莉子さんだ。
「麻衣、流石ね」
「毒があるとかじゃないから、平気だよ」
「いやいや、蜘蛛だから、ダメなのよ。毒があるとか無いとかじゃなくてね」
「何もしないじゃない。それに、害虫を食べてくれる益虫だよ? 本当は、そのままにしておきたいくらいだよ。蜘蛛は良い虫だよ?」
「でも、蜘蛛はだめなのー!」
そう言って、沖さんの腕に隠れてしまった。後ろを振り返ると、まだ、三人は固まったままだ。多田社長なんて、手に箒を掴んだまま唖然としている。
私の行動に驚いた様だ。でも、前から小さな虫なら、対処してたよね。ここまで、大きな蜘蛛は初めてだけど。
「遥くん、蜘蛛って、良い虫だよね」
「まぁ、確かに、益虫だけど、麻衣ちゃん、すげぇな」
「え、何が?」
「蜘蛛、素手でいけるのかよ」
「普通じゃないの、そんなにおかしい?」
「いや、勇者だと思ってさ」
私、なぜか、勇者の称号貰っちゃいましたよ? 硬直が解けた瞬間、嘉くんは、突然、大笑い、苦しそうだ。何がそんなに受けた。ただ、蜘蛛を捕まえて逃してあげただけなのに。
多田社長は何事もなかった様に、箒を片付けると、応接室に戻る。莉子さん、安心したのか、沖さんの腕の中から抜け出すと、二人で、仲良くお茶を淹れ始めた。私の腕を取って、手を洗う様に言うと、その後は、何事も無かった様な素振りだ。
「相変わらず、やる事、豪快で、そんなところがぶち好きだよ」
「え、そこ?」
「麻衣って、実家が農家だから、虫平気なの?」
「気にした事なかった。ああ、そっか、虫を見て、きゃーが正しかったのか」
「いやいや、麻衣はそのままで良いよ。ぶち男前でぶちカッコいいよ」
「なんか、褒められている気がしないのですが」
「ちゃんと、褒めてるよ」
ぶちのオンパレード。そんなに、すごかったか。もしうちで虫が出ても私が退治するよ、って言ったら、喜ばれた。うちにも来てくれって言われたけど、虫が出てから呼ばれても、遥くんのお家、行くまで遠いよ。無理です。どうやら、二人とも、虫は得意ではない様です。好きな人いないか、普通。私は平気なんだけどな。
回想や話題にはのぼっていましたが、ここで事務所の多田社長がようやくの登場です。




