【ミュージカル】森の洋館と二人のアリス・幕間
【ミュージカル】森の洋館と二人のアリスの幕間の物語です。背景として、そして、読み物として、楽しんでいただければと思います。
(ミゲルとルイスの父)
ミゲルは下町で生まれ、幼い頃に両親が亡くなり、孤児院に拾われた。拾われた孤児院も貧しく、幼い頃から、ミゲルは働かされて育ってきた。しかし、孤児院にいられるのも十五の歳と決まっていた。十五歳になると孤児院を出されて、自分で暮らしていかなければならない。
しかし、ミゲルに思わぬ転機が訪れた。それほど、裕福ではないが、一人の男がミゲルに手を差し伸べたのだ。表情は少し怖い、気難しそうな男だった。しかし、ミゲルの視線に男は困ったように笑って、男の後ろに隠れていた子供の背中を押すと青年の前に押し出した。背の高い男の影に隠れて見えなかったがもう一人連れがいたようだ。
「この子はルイス、十歳になる。うちの子の遊び相手になってくれないかい?」
とても、綺麗な子だった。赤みの強い茶色の瞳がミゲルを見上げる。怯えてはいない、ただ、興味深そうにミゲルを見上げているのだ。
* * *
そうして、ミゲルはルイスの遊び友達になった。豪華なものでは無いが、清潔な服を与えられて、美味しい食べ物も与えられた。仕事と呼べるのは、ルイスの遊び相手としてだけだった。仕事の忙しい大人の代わりにルイスの面倒を見るのがミゲルの仕事だった。
読み書きを覚え、最低限のマナーも教えられた。それを、吸収するのが楽しかった。ルイスの父は、人付き合いが苦手なだけで、悪い男では無かった。
「ルイス様」
「ルイスで良いのに。私は、貴族でもなんでもないよ」
「いえ、私はお父上に助けられた」
「ミゲルは、真面目だね」
そう言って、ミゲルは困ったように笑った。その笑みは随分と大人びて見えたのは、ミゲルの気のせいだったのだろうか。そして、ミゲルは願い出ていた。ルイスの父に、ルイスを守るために剣術の勉強がしたいと頼み込んでいた。やっぱり、ルイスの父は困ったように笑って、そんなことしなくても良いのにとは言ったが、それでも、ミゲルのために剣術を指南してくれる人物を紹介してくれた。
その数年後、ミゲルはルイスの父に呼ばれた。大事な話があると言われた。ミゲルがルイスの父に助けられて、五年の月日が経っていた。ミゲルは、二十歳になっていた。
不思議だった、ルイスの成長が明らかに遅い。自分より五歳しか違わないはずなのに。十五歳になるはずなのに、どうみても身長は若干伸びたが、あの頃と変わらないのだ。
「ミゲル、君は吸血鬼の存在を信じるかい?」
「北の街の森に住む洋館の話ですか?」
「うん、あれは本当のことなんだよ。信じられないかもしれないが、ルイスを見ていて気付かなかったかい?」
「では、ルイス様は、吸血鬼の一族であるから、あのように成長が遅いのですか」
「うん、随分と混血が進んで、原種の吸血鬼から随分と外れているみたいだけどね」
肌は白いままだったが、太陽の下でも、普通に過ごすことができる。銀製品に触れることも問題ないし、吸血行動に出ることもない。
「でも、人の血を口にすると、戻れないと言われている。ミゲルには、それに気を配って欲しい」
「なぜ、私にそれを?」
「私はずっと、このままルイスの側にいられるとは思っていないよ。私はルイスの父だが、残念ながらただの人間だ」
「私だって、ただの人間です」
「うん、でも、ルイスは成長がゆっくりだといっても、ちゃんと成長しているよ。遅れていると言っても数年だ。先日、メイドの話から、初潮も来たって言っていたしね」
「は、ちょっと待って下さい。ルイス様は男性では…?」
「あれ、言っていなかったっけ。あの子は、女の子だよ」
衝撃の事実に、ミゲルは驚きに顔を覆った。いくら、成長が遅いとはいえ、どうみても男の子にしか見えない。服装もそうだが、凹凸のない、身体は女の子にはどうしても見えない。
「ミゲル、あの子を守ってくれないか」
「はい、もちろんです」
「ありがとう」
そして、それから、また五年後にルイスの父は、一つの手記を残して亡くなった。ルイスは、その手記から自分が何者なのかを知ることになる。そして、ルイスは、ミゲルと共に、森の洋館に赴くことになった。
* * *
(ホムンクルスと森の精霊)
ルイスの父が作ったと言われる、ホムンクルスは実際には、彼が作ったものでは無い。父が、昔、森で見つけた二人の子供。何故、子供がここにいるのかさえ分からなかった。自分は研究者で、人の見た目をしたホムンクルスを作るのが夢だった。しかし、それは、成功することは無かった。
研究の行き詰まり、気晴らしに出た散歩。無意識のうちに森の奥まで入り込んでしまっていたようだ。そして、森の奥で眠る子供たちを見つけた。きらきらと、その場所だけ切り取られたように、ふかふかの芝生の上で月の光が注ぐ場所で眠るそっくりな子供たち。きっと、双子だと思ったのは、同じ顔をしていたからだろう。
そのことは、妻には言ってはいない。魔が刺したのかもしれない。いまだホムンクルスを作る事が出来ずにいた。それならば、この子供たちをホムンクルスと偽ることにした。理由は、ひとつだけ、ルイスに危険が迫るのを回避する目的があり、急を要したからだ。
「なぁ、君たち。僕を手伝ってくれないかい?」
ルイスの父の声に、ゆっくりと瞼を開けた双子は顔を見合わせて、ルイスの父を見上げながら、同時に口を開いた。驚きの後に、その一言に思わず笑ってしまった。
「お腹すいた」
「ごはんちょうだい」
その言葉と同時に小さな双子のお腹から、可愛らしい音が聞こえた。この森には精霊が住むと言う。かなり、奥まで足を運んだルイスの父は、子供の足でこの奥地まで子供が入り込むことは出来ないだろうと思った。だったらこの双子はこの森に住む精霊で間違いないだろう。
「うん、うん。美味しいご飯を作ってくれる料理人がいる。いっぱい、作ってもらおう」
嬉しそうに、双子は顔を見合わせて答えた。それは重なるように一つの音になった。
『アリス』
ルイスの父は、それが二人の名前だと思った。混同するので、『アリス=アインス』と『アリス=ツヴァイ』と呼んだルイスの父に指を差し合って喜んでいるようだ。ふとポケットの中にあった、二つのリボンを取り出した。目印用に木の枝に結びつけようと思っていたものが、余ったものだ。
「この青いリボンが『アインス』で、こっちの赤いリボンが『ツヴァイ』だ」
嬉しそうにリボンを髪に結んでもらった二人は、ルイスの父の手を取って喜びを全身で表した。こうやって、精霊は人の子のように笑うのか。そして、きっと、美味しそうにご飯を食べるのだろう。
そして、双子はルイスの妹として育つことになった。物語は、少しづつ、時間が進んでいく______。
ミゲルがルイスとルイスの父に出会う話と、ルイスの父が二人のアリスに出会う話です。




