見つめ返す君に微笑んだ(side嘉隆)
『見つめる君の笑みに恋をする』の嘉隆くん視点のお話です。
嘉隆は驚きを隠せずにいた。話では、顔合わせの時間まで、誰にも会わないと思っていたのだ。しかし、控室のドアをノックして入って来た、見知った顔に驚いた。しかし、もしかしたら、という予感はしていた。金曜日に何故か、事務所に向かったはずの麻衣から午前中で仕事が終わったとメッセージが届いた。嘉隆は、手が離せなくて、そのままメッセージは返せずにいた。そして、少しだけ、麻衣の態度が違った。きっと、嘘を吐くのが苦手な麻衣なので一生懸命、隠そうと努力したに違いない。
「嘉くん?」
「お、麻衣。普通だね」
「え」
「似合わない?」
「あーうー」
麻衣がかなり、慌てているので、逆に冷静になれている気がした。麻衣が入って来たと同時に気を利かせた、野上と恵は控え室から出て行ってくれた。
「麻衣? 面白い顔になってるよ」
「だって、えっと、嘉くんだよね??」
「あはは、他に誰がいるの」
ふさふさの耳と尻尾、白に近い銀髪、座っているので前からは見えないが尻尾もある。今回の獣人族の衣装は、麻衣の興味を引いてくれたようだ。麻衣の頬が上気している。その姿は初めて見るので新鮮だ。
「触っても良いですか」
「あはは、敬語になっているよ。ん、いいよ」
「うわーうわー、ふさふさだー」
「語彙力下がってるいるよ」
「だって、ごめん。めちゃ、かわいい」
「耳が?」
「ううん、全部」
可愛い、と呼ばれたのは、聞き流すことにする。本物の耳ではないので、くすぐったいと言うこともないが、麻衣の距離がいつもより近い。座っているので、ちょうど麻衣の胸元が見えた。と言っても、そっちは軍服姿なので色気も何もない。
「麻衣?」
「ごめんなさい。我慢出来ません」
「あはは、喜んでもらえて光栄だよ」
麻衣の手が嘉隆の頬に触れる。ゆっくりと、麻衣は触れるだけのキスをしてくれた。それが、嬉しくて、嘉隆は離れる前に自分の唇を押し当てた。いつもよりも長いキス、麻衣はそれに応じてくれる。
「すみませんでした」
「なして、謝るの? 俺は嬉しいけど」
「だって、恵さんに怒られちゃう」
「みんな、察して出て行ったんだと思うけど?」
麻衣からのキスは初めてかもしれない。暴走してしまった、そう反省する麻衣に嘉隆は意外な一面を見れて嬉しそうに笑んだ。
「思考が追いつきません」
「俺もびっくりした」
「でも、嘉くんはなんで、そんなにも落ち着いていられるんですか」
「俺もびっくりしたよ。でも、麻衣の反応がいつもと違っていて、逆に冷静になれたのかもしれない。今回、俺、初めてだから、みんな協力的なんだよ。本当は、みんなで一斉に顔合わせなんだろうけど、こうして、事前に麻衣が出ることを教えてくれた」
「今回のミュージカルは、本当に驚いた。こんなこと、それほどミュージカルに出演しているわけじゃないんだけど、こんなの初めてだった。もしかしたら、嘉くんが俳優の仕事をするのをバレるかもしれないって隠していたってことかな」
「話題性には、なる、って言われたけれど、全部が俺を隠すためって言うわけでではないと思うよ」
「でも、その一つではあった」
「それも、もしかしたら、って言う根拠の無いものだよ」
二人で話しながらも、麻衣は嘉隆のウィッグに髪を絡ませて遊んでいる。無意識だと思うが、それが可愛い。もう一度、引き寄せて嘉隆は麻衣に口付けた。頬を上気させて応える麻衣が可愛い。
結局、赤面する麻衣と、満足げな嘉隆を見た恵と美月は驚きながらも微笑ましい視線を向けて、メイク手直しをしてくれた。
嘉隆くんも、事前に薄々気付いていたところがあるので、落ち着いています。




