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087話:お出かけしよう

 資源調査に向かうのは俺とユーキ、スロークの3人だ。

 早朝村を出発して、まずは、ウシオのいた大穴、地下洞窟へと向かう。

 3人で来たのは、間違って(俺みたいに)入り込んでしまわないように、位置情報を共有するための地図を作成するためだ。

 スロークはスキル、オートマップが開放されている。

 自動的に自分の周囲をマッピングしてくれる便利なスキルだ。

 ユーキもランクアップによって世界地図という機能が使えるようになっていた。

 ユーキの世界地図の性能は、オートマップの屋外限定版といったもの。

 どちらも屋外であれば、自分の周囲100mほどが白紙の地図に書き込まれてゆく。

 どちらも、実際に移動しないと地図が埋まらないのが難点だ。

 フブキに乗る俺と並走しているバイクにはスロークが、ユーキはアオンに乗って少し前を走っている。

 「そういえば、転職やめたんだって?」

 アサシンにこだわったプレイをしていたために、色々と偏ったスキル構成になってしまって不便だから、一度転職して更生をやり直すと聞いていたのが数日前だったんだけど。

 「あぁ、リザレクションは不要になったけど、アサシン系だけじゃ不便な点も多いと思って転職するつもりだったんだけどな、フブキを見て考えが変わったよ。」

 そう言ってフブキに視線を移した。

 「あぁ、スロークも騎乗用モンスター結構あるんだ?」

 「ただの乗り物じゃないってわかったからな。

 なら、みんな出して村のために使いたいし、第四貯蔵庫が使えるレベル80までは転職せずに上げることにしたよ。」

 そう言って再び視線を前方に戻した。

 う~ん、レベル80か。

 俺は一体いつになったら到達できることかね。

 「わお!ほんとに穴だ。」

 少し前を走っていたユーキとアオンが大穴を発見した。

 ほんと、村からけっこう近かったよねぇ。

 直線距離で60Km無いくらい。

 歩きでも2~3日で帰れたのにさ。

 あの時は、とにかく確実に着くために北へ向かったけど、とんでもない大回りしてたんだね。

 まぁ、まっすぐ東へ行ってたら村のだいぶ南を通り過ぎてただろうけどさ。

 それに、ノエルさんにも会えなかった。

 うん、そうだ、あの迷走はノエルさんに出会うためだったんだよ、と、もう何度目かもわからないけど、改めて自己肯定。

 あ、ついでにウシオともだね。

 「気を付けてね、このあたり、枝や葉で隠れてるけど小さな穴がけっこうあるみたいだから。」

 朝出る前に注意してはいたけど、念のために再度注意喚起。

 「じゃぁ、手筈通り自分はこのあたりを調査して戻るよ、小さい穴もオートマップを見ながらなら避けられるだろう。」

 そういってスロークはバイクをしまうと、オートマップを開いて大穴周辺の穴を調べだした。

 うっかり落ちないように、穴の位置と数を把握するためだ。

 今はまだハンターたちもここまでは来ていないようだけれど、彼らも戦力増強のため月に一度程度、ソンチョー立ち合いの元スロークのスパルタ訓練で鍛えているから、そのうちここら辺まで到達するかもしれない。

 ソンチョーの教育チートは、直接指導では無くても立ち会うだけで十分効果が出ている。

 一体どこまで効果が出るものなのか、正しく把握するために色々と試して検証している。

 販売用の肉の確保は、いずれハンター達に一任したいと言っていたから彼らの強化は重要案件だ。

 レベルやスキルの恩恵はなくとも、筋力や感覚などを鍛えることはできる。

 ぜひとも頑張ってほしい。

 「ここにいたんだね、ウシオ。」

 体を乗り出して大穴の中を覗き込むユーキ。

 落ちるなよ。

 フリじゃないからな。

 「じゃあ行こうか。」

 ユーキに告げると、スロークと別れて俺たちは一路北上。

 ノエルさんの家へ行くのだ。

 実はデモンエイプの魔石を2つ譲り受けて、2台目の魔素排除用魔導具を完成させた俺。

 俺が倒した分を売らずに取っておいてくれていた。

 換金して村の資産にすればよかったのに、と思ったけど、結果魔道具の材料になったのだから感謝しよう。

 残り一つは研究用に確保してある。

 2号機もうっすら漂う魔素を追い出す程度の性能だけれど、ノエルさんの行動範囲をほんのちょっとだけでも広げられるだろう。

 他にも、時間停止機能付きのバッグにマスターお手性の甘味を詰めてきた。

 偉大な先人への献上品にしては若干しょぼいかもしれないけど。

 さらに今回は、ノエルさんに大事な話もしなければならない。

 「エルフかぁ・・・なんか、緊張する。」

 大穴を離れてからユーキがソワソワしている。

 そりゃあ、エルフは憧れだもんねぇ。

 「あ~、エルフっていうか、その始祖みたいな人ね、エロフじゃないからね。」

 最初にノエルさんの話をしたときに伝えてあるけど念のため。

 「もちろん分かってるよ。でもやっぱり、なんていうか、憧れだよね。

 エルフがいるんだから、ドワーフもいるよね。」

 そのワクワク感は分かるよ。

 エルフ、ドワーフはファンタジーの王道。

 なのにこれまで噂にも出てこなかったしね。

 実は村の中でも、今回の訪問について行きたいと希望が殺到した。

 というか、村から出られないソンチョー以外のワタリビト全員が手を上げた。

 で、俺がいなくても交流できるように、マップ機能があるメンバーでくじ引きを引いてユーキが勝ち取ったというわけ。

 ワクワクするなと言っても無理があるよな。

 そろそろだからと、フブキとアオンを収納。

 魔導地図を見ながら進むと、木々しか見えなかった風景が突然変わった。

 数か月ぶりの庭だ。

 「あら、いらっしゃい。今日は新しいお友達なのね。」

 ノエルさんは庭で草花の世話をしていたようで、こちらに気が付いて出迎えてくれた。

挿絵(By みてみん)

 そうか、中からは普通に外が見えるんだったよな。

 「は、はじめまして!ユーキと申します。」

 ユーキよ、ガチガチだぞ。

 「ユーキ君ね。

 私は、聞いているかもしれないけれど、ノエルと申します。

 何もないところだけれど、ゆっくりしてくださいね。」

 あぁ、癒されるねぇ。

 週一で通いたい。

 新しくもう一基魔道具が完成したことを伝えて、設置の許可をもらうとさっそく設置作業に入る。

 今回は牛小屋に入れるように位置を調整。

 「かなり大きな魔石が必要なのでしょう?無理はしないでね。」

 はい、無理してませんとも。

 チョット死んじゃったくらいです。

 設置完了後、庭でお茶をごちそうになりながらここを出た後のこと(紛争に巻き込まれたことは伏せたけど)を話したり、マスターの甘味、魔素抜きの蜂蜜、この家で作れるように(俺じゃなくマスターが)アレンジしたレシピなどを贈呈させてもらった。

 「ありがとう、とてもうれしいわ。

 自分でも試してみたのだけれど、どうしても甘さが出せなくて。」

 ありがとう。

 その笑顔だけでお腹いっぱいです。

 村の女性陣はなぁ・・・こういう、心からの笑顔が足らんのだよ。

 何?俺に対してだけだって?

 やっぱりオッサンは嫌われる運命にあるのだね。

 アオイは・・・うん、グロな姿をもろに見ちゃったしね、一応アレはアオイのせいじゃないって説明もしたし、和解もしたけどさ、やっぱり、ああいった姿はトラウマになったりするんだろうなぁ。

 あいかわらず俺のことを”おじーちゃん”なんて言って老害扱いするし。

 見た目年齢はたいして代わらんのに。

 アオイの老害扱いをスロークに愚痴った時、「本気でそう思ってるわけじゃないよな?」なんて返されちゃったっけ。

 いまだに意味が分からんけど。

 マナさんは・・・素直に怖い。

 昔から苦手なんだよね、学校の先生とか、医者とか・・・。

 その上マジで怒った時の笑顔・・・怖い・・・別の扉を開きそうで。

 ユーコは・・・何か裏がありそうで怖い。

 この間もいきなり拉致られて女子全員から責められたし。

 それに、なんだか見透かされたようでなぁ、ウソやごまかしが通用しない相手は怖いよね、って、そんなの俺だけか。

 スロークたちが救出したっていうミサとアカネ、二人とはまだ壁がある気がする。

 ほぼ接点がないから当然かもしれないけどね。

 それに、死んで生き返ったなんてやっぱり気持ち悪いよな。

 その二人と一緒に救出されたっていう三人娘からは老人に対するいたわり的な扱いを感じるようになったし。

 絶対アオイの影響だろうけど。

 余計な感情なく笑顔を見せてくれるのはもう、ノエルさんだけです。

 なんて、なごんでいる間ユーキは草人形に興味があるみたいでいろいろ質問していた。

 あ、そう言えばカワイイもの好きだったね、キミ。

 資源調査、行きたくないなぁ。

 もうしばらくここでマッタリしていたい。

 さすがにそうは言えないので、そろそろお暇しなければ。

 「あら、もうお帰りなの?」

 あぁ、社交辞令を微塵も感じさせない感じが俺の心を癒してくれる。

 素材調査の道中に、完成した魔道具を届けようと立ち寄ったんだってことを伝えると、ならばちょっと待っていて、とノエルさんは家に入っていった。

 ふむ、お土産なんて気を使ってくれなくてもいいのに。

 勝手に想像していると、ノエルさんは一冊の本を持って戻って来た。

 ずいぶん分厚いな。

 「昔、まだ外に出られたころに書き留めたものなの。

 ずいぶん時間がたってしまっているからもうこの通りではないかもしれないけれど。」

 と言って手渡された本には、この周辺にある様々な植物や鉱物のメモが、簡単な地図とイラスト入りで記されていた。

 「こんな貴重なものを。」

 分厚い本の中は、かなり詳細な説明と絵でビッシリと埋め尽くされていた。

 「私にはもう必要ないから。

 少しでも役に立ってくれれば、書いた甲斐があるものよ。」

 いやいや、これ、ハンパないです。

 とてつもないお返しをいただいてしまった。

 そうして立つ間際に、大事な話、ここに来たもう一つの目的を話した。

 というか、いつ言おうかタイミングを計っていたらこの時になってしまった。

 大事な話とは、まだまだ時間はかかるかもしれないけれど、いつか魔素を克服できる魔道具を俺が作れたら、みどり村で暮らしませんかって伝えることだ。

 「私はもうあきらめてしまったけれど。

 そうね、あなたならきっと、叶えてくれるかもしれないわね。」

 はい、OKだということで受け止めさせていただきまっす。

 最優先事項は決定した。

 歌劇場?知らん。

 この本だけでも、チート持ちの調査チームが数か月かけての調査に匹敵するのだ、優先順位が変わるくらいなんてことないさね。

 本当に感謝だ。

 

    **

 

 のそのそ歩くフブキの上でいただいた本を読みこんでいく。

 ふむふむ・・・とりあえず今回は本に書かれている自生地をチェックしていこうう。

 ノエルさんの家中心に、10か所ほどが効率的に回れそうだ。

 「ついでに危険そうな魔獣は経験値と素材になってもらおうよ。」

 ユーキの提案了解です。

 裏に「ノエルさんの生活が魔獣に脅かされないように」という意図が多分に含まれてることも了解です。

 まずは、砂糖の木(仮称)だ。

 樹液を煮詰めて濃くし、乾燥させたものが黒砂糖と酷似した物になるという。

 ということは、精製すれば砂糖になるはずだ。

 通常は、シュガーハンターと呼ばれる専門のハンターたちが命がけで取りに行く。

 商人が、数人でチームを組むシュガーハンターを雇い、そのチームが複数合同で森の奥深く、砂糖の木の群生地へと向かい採取する。

 そのため、黒砂糖を扱う商人たちは示し合わせてハンターを雇って、協力させて送り出し、樹液は平等に分配される。

 それだけ危険だということだ。

 砂糖の木は魔素が濃くないと樹液を出さないらしく、群生する地が危険でしかも限られているため、貴族でもなかなか手が出せない貴重品。

 森の深くにある村なら魔素も濃いはずだし、移植しても樹液を取れる可能性はある。

 ダメでも、魔素を押し出す魔道具の応用でなんとかなるかもしれない。

 本の略地図を元に魔導地図と照らし合わせて自生地付近にたどり着くと、描かれたイラストと見比べながら、目的の木を探す。

 楓の葉を大きく、切れ込みも深くしたような、特徴的な形状の葉なので割と早く見つかった。

 幹の直径が10mはあろうかという巨大な木だ。

 「こんなに大きいんだね。」

 巨大な木を見た時の定番というか、両手を広げて幹にピタッと張り付いたユーキ。

 カブロに聞いた話だと、幹の太さは直径でせいぜい1mくらい、大きくても3mまではいかないって聞いてたんだけどな・・・。

 魔導地図にマーカーをつけると、周囲を探索する。さすがにこんな巨大な木は持ち帰れない。

 理想は幹の直径1mくらいの木なんだけど。

 ・・・無いな。

 種類が違うのか、それとも環境なのか。

 1mくらいの物で高さが約10mって話だったから、第四貯蔵庫にギリ入れられるサイズ。

 それなら持ち帰れると、簡易拠点とか騎乗用モンスターとか、いろいろ置いて第四貯蔵庫の中身を空にしてきたのに。

 とりあえず今回は断念、サンプルに樹液をいただいて次へ。

 確か、カイトたちがプレイしていたビルダーズでは原形のままアイテム欄に素材として保管できたはずだから、戻ったらこの巨木も可能か確認しよう。

 無理ならここに採取に来るしかないな。

 「接ぎ木とかで増やせたらいいのにね。」

 次の目的地へ向かうためにアオンにまたがるユーキが、残念そうに巨木を眺めてつぶやいた。

 「やり方わからんしなぁ、今回は仕方ないね。」

 略地図を見ながら次の目的地へ。

 ラサの実やヌイクの実(初めて森でさ迷っていた当時に食べた丸い実。のちに家畜のえさだと判明)とか、この世界の果物系が自生している周辺だ。

 フブキたちの足なら1時間ほどで着くだろう。

 と思ったのだけれど、以外と魔獣が多くて時間を食ってしまった。

 「蛇って、鶏肉みたいっていうけど蛇の魔獣もそうなのかなぁ。」

 鶏肉といえばトリカラ、食べたいなぁ。

 この世界に来てからまだ、揚げ物は食べてない。

 油が貴重なのだ。

 魔獣は油があまり多くない。

 まぁ、考えてみればそうなんだよね、弱肉強食の極みともいえるこの森に野生で生きることは簡単ではない。

 余計な脂肪をため込めるほど食料があるわけではないし、激しい闘争を勝ち抜くために筋肉でガッチリ、なのだ。

 強い魔獣ほど美味い。

 を期待していた時期もあったけれど、魔素抜きしてもマスターの御業(ミワザ)無くして魔獣は食えん。かっこ 一部除く かっことじとじ。

 さておき、魔獣の油は炒め物くらいには使えるけれど、揚げ物ができるほど量が無い。

 油の取れる植物も欲しいところだ。

 なんて考え事をしていると、またやって来た。

 前足が異様に大きく、巨大で鋭い爪が驚異の爬虫類系魔獣、グロウリザーだ。

 本来俺のレベルではとてもかなわない強敵。

 だけど、装備のおかげでなんとか倒せる。

 ありがとう”商店”を選んだ俺!ナイスチョイスだった。

 そんな感じで移動には予想の倍近く時間がかかってしまった。

 周囲はもう暗い。

 魔物除けを稼働させて、軽食を取ると寝床を確保して就寝。

 やっぱり簡易拠点は持ってくるべきだったと後悔。

 う~ん、今回の調査はあと二日の予定だったけど、10か所は回り切れないかも。

 

    **

 

 帰路。

 結局8か所しか回れなかったけれど、最初の予定では空振りも覚悟していたのだからノエル様様だ。

 持ち帰れたのはラサの実20Kgと原木10本、ヌイクの実5Kgと原木10本、野生種のブドウっぽい木を2本、油の取れる植物3種20本、ゴムっぽい樹液を出す木10本、岩塩窟の発見と岩塩100Kgだった。

 砂糖の木は次回に保留、香辛料系の自生していた場所は、残念ながら消滅していた。

 今回の反省点。

 簡易拠点は持っていこう。

 魔物除けあるし、すでに初夏、そのまま地面にごろ寝でも問題無いだろうと思ったけどね、やっぱ、寝具は大事だね。

 

 村の近くまで帰って来ると、トライコーンのハヤテに乗ったライアーと、グリフォンのエースに乗ったカイトが出迎えてくれた。

 貯蔵庫から出した騎乗用アイテム、というかモンスターたちを乗りこなすための訓練中だったようだ。

 もう仕舞うつもりはないので、このままみんなに慣れてもらいたい。

 特にグリフォンは飛行ユニット、ゲームと違って習熟にはかなりのコツと経験が必要だろう。

 いやぁ、今回は収穫が多いし、確認しなきゃならないこともあるしで報告が大変だ。

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