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088話:到着

 俺たちが調査に出発した翌日には、転生村からの移住者たちがみどり村に到着していた。

 てっきりテントが密集してるんだろうなって思ったけど、そこはキタガワ氏の能力で一応簡易的な住宅が作られていた。

 災害後の仮設住宅みたいなやつを想像してくれ。

 水道関係は通っていない。

 元々ジオラマ能力だから、そこら辺は井戸に頼っていたみたいだし、ここでもしばらくは井戸を頼ってもらうことになる。

 守護神像のこと、能力のことなど、現地人向けに作った説明などはあらかじめカタオカたちに説明してあったので、ここまでの道中で同行してきたワタリビト以外の住民へもすでに周知されていた。

 ちなみに、彼らの呼び名のことだけど、やっぱりこの世界の感覚に近い方が良いだろうって話になったみたいだ。

 で、

 キタガワ>ヒロ(本名の博人から)

 カタシナ>ヒスイ(ゲームで使用していたキャラから)

 キチセ>キチセ(思いつかなかったから)

 カタオカ>カタオカ(ダンジョン名がそれになってしまっているから)

 ミコト>ミコト(ゲームで使用していたキャラから)

 アラキ>ラキ(本名の荒木から)

 カラサワ>シェリー(好きな歌手から)

 クボタ>マオ(本名の真央から)

 マルヤマ>ラース(好きなサッカー選手から)

 コンドウ>ザキ(ゴルフ会のレジェンドから)

 ハシモト>シュン(俊也から)

 エグチ>モモ(桃太郎(桃子)から)

 ムラヤマ>ノルボル(ゲームキャラから)

 アベ>バクス(好きな映画から)

 マエカワ>イルマー(出身地の地名から)

 オオノ>オーノ(コンビニ名がそうなってしまっている)

 トノウチ>ドギー(SNSのハンドルネームから)

 フカセ>キョウ(本名の恭弥から)

 テラヤマ>ミノル(本名の実から)

 コバヤシ>ドーム(SNSのハンドルネームから)

 と、いうことにしたようだ。

 村の名前はソンチョーたちにゆだねたようだけど、そのソンチョーたちはなぜか俺に丸投げしてきた。

 「シンさんが一緒に暮らすんだからシンさんが決めた方がいいよ。」

 なぜそうなる?

 「っていうか、一緒に住むってなんかニュアンスおかしくない?

 俺の拠点の周りに村ができるってだけじゃん、おれ、村長でも何でもないのよ?」

 と必死に抵抗してみたけど。

 「でも責任者だろ?」

 「連れてくることになった責任はとらないとね。」

 ソンチョーとスロークがいつになく連携してるんですけど・・・。

 完全敗北した俺は、結局いろいろなことを押し付けられたのだった。

 ちなみに、みどり村は日本語の発音のまま”みどりむら”という名称として広まっていて、この世界の住人には意味が分かっていない。

 なので、正式に書くとこの国の言葉で村はリロなので、”みどりむらリロ”になる。

 直訳すると”みどりむら村”みたいなことになってしまうんだけど、面倒だからそのまま押し通すつもりみたいだ。

 一応、守護神像のいた世界の言葉で”緑の大地”みたいな意味だって言ってるらしいけど。

 あ、そうそう、ミリアが俺を毛嫌いしている理由が一つ判明した。

 エグチ・・・じゃなくて今はモモか、が、ミリアのしつこさに辟易したあげく、俺に負けるような相手と戦っても意味がない、的なことを言っていたらしくてね、カタオカから道中のミリアの態度を聞いたモモが謝罪してきたのだ。

 マテコラ。

 戦闘狂を俺に押し付ける気だったのかよ。

 「シンさんなら軽くあしらえると思って。」

 だとぉ!

 すんごい迷惑したんですけど!

 どうしてこう、ワタリビト女子は俺に辛く当たるんだ?

 ・・・俺のせいとかいう意見はブロックします。

 もう女子なんて絶対信用しないぞ。

 もはや俺の癒しはノエルさんだけだ。

 

    **

 

 「シンさん達、帰ってきたみたいですよ。」

 レストランの奥、小さめの個室に入ってきたミサの第一声だ。

 レストランの個室。

 の、はずなのに。

 テーブルには書類が山のように積まれ、アオイとユーコ、アカネの3人が書類と格闘していた。

 この個室はいつの間にか、アオイとユーコの共同事業の開業用事務所として接収されていたのだ。

 「え!」

 最初に反応したのはアオイだった。

 「あぁ、そう・・・そんなのどうでもいいけど・・・その、砂糖は見つかったみたい?」

 つい反応してしまった事にバツの悪そうなアオイだが、慌てて付け足した言葉が本心で無いのはミサの目にも明らかだ。

 「またまたぁ~、心配でしょうがなかったくせ」

 「そ、そりゃそうよ!砂糖が見つからないとスイーツが完成しないじゃない!!」

 ユーコのからかい気味の言葉を遮るように、真っ赤な顔で取り繕おうとする。

 (食い気味に心にも無いこと言っちゃうところがかわいいのよねぇ。

 でも、そう言う態度だからユーシン君が踏み出させなかったって言うのに。

 ま、ユーキ君がはっぱかけてくれたから良かったけど。)

 ユーシンの告白の裏に、密かに暗躍するネコがいたとかいなかったとか・・・真相はネコのみぞ知る。

 目ざといユーコには、アオイがシンを慕っていることもよく分かっていた。

 ただ、それは恋愛感情ではなく兄弟や親戚に対してのものだ。

 写真嫌いだったアオイの祖父。

 アオイが小さい頃に亡くなっていたが、仏壇のある部屋に飾られていた写真(かろうじて残っていた学生時代の物)が、今のシンによく似ていたという。

 小さい頃の記憶ながら、祖父が大好きだったというアオイは、写真によく似たシンに祖父を重ねていた。

 (結局シンさんは”おじーちゃん”なのよねぇ。)

 おそらくシンが拗らせた思い違いをしていることもユーコは察していたが、だからと言ってそれを伝えたり誤解を解こうとはしない。

 シンが原因でアオイが辛い思いをしていたんだから、しばらく放っておいて困らせてやれ、くらいには怒ってもいたのだ。

 「ところでミサちゃぁん、お願いがあるんだけどぉ。」

 しれっと話題を変えるユーコだった。

 

    **

 

 村に戻ってすぐ、調査結果の報告を済ませると確保してきた植物の植え付けなどをソンチョーたちに丸投げして、俺は簡易拠点に籠ることになった。

 魔素の無い空間。

 それを作るための魔道具開発が急務となったのだ。

 ノエルさんのため、というのもあるが、村でも大変な問題が発生していた。

 牧場や飼育小屋が完成し、まずは数羽の鶏から始めてみようと、みどり村の機能で10羽の鶏を仕入れた。

 畜産関係者だったウシオが責任者として飼育テストを始めたが、わずか4日ほどで魔獣化してしまったのだ。

 魔獣化した鶏は卵を産まず、狭い鶏舎内で互いに殺し合いを始めてしまった。

 忘れていた。

 この世界にも動物はいるけれど、極端に魔素の少ないが所にしかおらず、魔素の高い場所へ移動すると魔獣化してしまうんだった。

 動物の肉は超の前に超が付く幻の品なのだ。

 卵。

 これまでは、森で見つかる鳥魔獣やトカゲ魔獣の卵で代用してきたが、自然の恵に頼るということは、安定供給出来ないということでもあり養鶏は是が非でも進展させたい重要事項なのだ。

 俺はノエルさんのための研究用に残していたデモンエイプの魔石に、新しく村で確保した大きめの魔石を大量に受け取り、拠点に籠ることになった。

 

 そして10日・・・かけらも進展しねぇ。

 思いつく限りいろいろ試してみたけれど、何一つうまくいかず、さすがに行き詰ってしまった。

 どうやら、ノエルさんに教えてもらった魔道具の知識には偏りがあるようだ。

 しかも、魔導印ありきのもの、魔導印の新規創設や改変等に関する知識はほぼ無かった。

 素材を変える程度の改編ではどうにもならないことを10日もかけて再確認して終わり。

 も~、わけわかんねぇ。

 こんな時は気分転換といこう。

 カブロの店で流通している魔道具でも見てインスピレーションを養おう。

 ひょっとすると何か思い・・・つかなかった。

 閉店まで粘ったのに。

 さて困った、と店を出ると、ハンターのマルクが走ってきたところだった。

 「間に合わなかったか。」

 ゼェゼェと息を切らせて悔しがる髭のオッサン。

 「買い物ですか?」

 社交辞令で一応聞いてみる。

 「いや、術式杖の魔素が切れたんで、充填を頼もうと思ってな。」

 ほう、そう言えば、術式杖ってちゃんと見たことなかったな。

 「そんな簡単に充填できるもんなんです?」

 「じゃないのか?10日くらい預けると充填されて戻ってくるぞ。

 安くは無いが、買うよりいいしな。」

 よほど急いできたのか、まだ息が荒い。

 「まいった、明日はかなり早いんだ、4~5日は帰れないから、ロスは痛いな。」

 む。嫌な予感。

 「じゃ、がんばってくだ」

 「前に助けた借しがあったよな。」

 ・・・どうしてこう、俺の周りには食い気味にかぶせてくる連中が多いんだ。

 「はぁ・・・まぁ・・・。」

 「頼む!明日中でいいんだ、これの再充填依頼出してくれ。

 俺の名前出せば通じるから。」

 だろうと思ったよ。

 でもまぁ、いい機会だし、この際だからじっくり術式杖を調べさせてもらおうか。

 「わかりました。お預かりします。」

 まぁ、命の恩人?ではあるしね、こっちにもメリットあるし。

 こうしてマルクの術式杖を預かり、研究所代わりにしている簡易拠点へ。

 うへへへへ。

 どんな構造なのかな・・・・な?

 あ~、なるほどね。

 長方形にカットしたガラス(この世界では貴重品)、その磨いた表面に魔導印を掘り、反対側には別の魔導印が掘られたミスリルの板が付けられていると。

 ふむふむ。

 ガラスには小石程度の魔石が埋め込まれている。

 一見同化しているように見えるので、たぶん可撤してドロドロに溶けたガラスに魔石を入れてから成型しているんだろう。

 で、射出部にあたるところには、ミスリル板から伸びたのアンテナ?っぽいものが突き出ている。

 全長20cmほど、見ようによっては確かに杖だ。

挿絵(By みてみん)

 で、ガラス面に掘られた印に微弱な魔力を流すと、魔石の中の魔素が魔力に変換されてミスリルの板に流れ込む。

 で、ミスリルの板に刻まれた印は、魔石から流れ込む強い魔力で魔法を発動すると。

 ナルホドナルホド。

 あ、そうか・・・なにも、魔素の無い空間を作らなくても良いのでは?

 うん、術式杖、これいいかもしれない。

 この仕組みを応用して、人や動物にしみ込んだ魔素を取り出すってことはできないのか。

 通常だと、生きている限り魔素を吸収し続けちゃうんだったよな。

 死んだ後なら、ジックリと周辺の魔素濃度と同程度まで抜けていくけれど、これでは全く意味がない。

 生きていても魔素を吸い出して、放出してくれれば良いのではないか。

 肉体を魔石の代わりとして、体内の魔素を魔力に変換して消費していけばいい。

 吸収するより消費する方が多ければ魔物化しない。

 ノエルさんも同じように、体内魔素を減らせれば。

 そうだな、常時身に着けるタイプの魔道具、アクセサリーとかがいいかも。

 体に触れている部分から体内の魔素を吸収して変換、その魔力で・・・といっても、大した量にはならないだろうから大したことはできないな・・・虫よけとか?

 いやいや、虫よけの魔導印なんてチョット思いつかないし色々と大きくなってしまいそうだな。

 う~む・・・そうだよ、もっとシンプルでいいんだ。

 体内の魔素を魔石に充填すればいいんだ。

 これができれば、ノエルさんの問題は解決するかも。

 俄然やる気が出て来たゾ。

 まずは鶏で実験だな。

 明日店に行って、どうやって魔素を充填するのか確認せねば。

 これは、光明が見えてきたかもしれないぞ。

 

    **

 

 ・・・ダメでした。

 術式杖への充填は、魔素が漏れない頑丈な容器の中に高濃度の魔石か大量の魔石と術式杖をぶち込んで、魔素が移動するのを待つだけというものでした。

 術式杖の10倍濃度の魔素に10日間。

 たったそれだけ。

 そんな感じなのでフル充填されないこともあるらしいけど、クレームは受け付けてくれないそうだ。

 世知辛いねぇ。

 はぁ・・・何か特別な印でもあるのかと期待してしまった。

 仕方ない、自分でなんとかするしかないかな。

 幸い、魔素を魔石に封じる魔導印は既に存在していて、入手できるらしいんだよね。

 とてつもなく大きくて実用的ではないって話だけど、とりあえずカブロ商店に発注して魔導印を取り寄せてもらことにした。

 通常魔導印は公開されていない。

 それこそ魔導師にとって、研究している魔導印は秘匿事項だ。

 そんな中でも、基礎的なものや研究を放棄したものが稀に公開されることがある。

 今回の魔導印もその一つ。

 高齢の魔導師が長年の研究をついに諦め、小さくできるもんならやってみろ!的な、半ば自棄っぱちで10年ほど前に公開されたものだ。

 もちろん俺が簡単に小型化できるとは思っていない。

 魔導印を描く線の太さは約1mm。

 彫り込むときは更に太くなる。

 そう、スキルによる超精密作業で、無理矢理小さくしてしまえばいい。

 目指せミクロ作業!だ。

 魔導印が届くまでに、作業用の機材を作るとしよう。

 さっそく貯蔵庫から顕微鏡を取り出す。

 ゲームではただのお飾りアイテムだったけど、しっかり実用できているのがうれしい。

 まずは、貯蔵庫から取り出した素材、アダマンタイトで、魔導印を彫るための極細針を作る。

 普通のサイズの針を作って、それを慎重に削っていく。

 細く、ほそ・・・あ!

 折れた。

 クソ難しい。

 アダマンタイトが硬すぎて削りにくい上に呆気なく折れる。

 丸一日かけてようやく一本。

 これはいかん。

 とても間に合わないぞ。

 翌日はオリハルコンで挑戦。

 丸一日かけてできたのは3本、ちょっとは良いか?

 更に翌日からは、実際に彫り込む練習を始める。

 マルクの術式杖に彫られていた、魔素を魔力に変換する印をクズ魔石に彫り込んでみる。

 直径5cmの印を1/10サイズ、直径5mmにする。

 慎重に。

 あっ!

 模様と模様の間が欠けた。

 あっ!

 直線が曲がった。

 あっ!

 あっ!

 結局、稼働する印が彫れるまで4日かかってしまった。

 本番はさらに小さく、1/20にしないといかんのに。

 この後、俺はさらなる沼にハマってゆく。

 1/20の世界は異次元だった。

 と、玄関のドアがけたたましい音を立てて叩かれた。

 なんぞ?

 騒がしいのう。

 こわばる節々を伸ばしながら出ると、真っ青な顔をしたユーシンがいた。

 「シンさん! よかった。」

 はえ?

 ポカンとしていると、何故かアオイの声がした。

 「だから言ったでしょ。心配するだけ無駄だって。」

 あ、ユーシンの後ろにいたのか。

 「6日も何してたんスか! 食事にも来ないって、マスターが、皆も心配してたんスよ。」

 「私してない。」

 はいはい、アオイさんは通常営業ね。

 「あ~、ごめん、集中しすぎちゃってたよ、全然うまくいかなくてね。」

 それにしても、6日もたっちゃってたかぁ。

 一応貯蔵庫からたまにパンくらいは食べてた気がするんだけどなぁ。

 「そんな状態でうまくいくはずないでしょうが!メシ! 行くッスよ!」

 強制的に連行されてしまった。

 レストランに入ると、なんとも懐かしい香り。

 「まさかトリカラ?!」

 そうだ!、油の取れる種を木ごと持ってきてたんだった。

 「シンさんにはこれです。」

 ?

 出されたものはお椀に入った白いもの・・・。

 「トリカラ・・・。」

 「消化にいいセパ粥ですよ。」

 NOoooooo!!

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